第10話 島の人々
マックスとロイクを始め集落の人たちと盗賊が空の島に移住した。合計人数は58名となりかなりの人口になった。
一人分の細い道の向こうに孤島を作る。堅固な土の壁もある牢獄。そして近くに、彼等が農作物を育てる孤島がもう一つ。丈夫な鉄格子が二カ所ついており、必要に応じて片方だけ開閉させる事により、安全に物資を交換出来る仕組みだ。
マックスたちと共にいた精霊たちは数が少ないが、火、水、風、地、雷、氷の属性が満遍なく揃っていた。
嬉しいのは羊が居た事だ。さらに繊維を採取出来る植物も栽培していた。暖かい服が作れそうだ。それに我流ではあるが、製錬技術を持つ者や鍛冶師もいた。
盗賊の持つ武具や滅んだ街や都市から拝借した金属を使っていたらしい。職人はまだ少ないが、これから昇華と継承を繰り返していけば良い。永く発展する土地を目指す。
アルフィーはマックスとロイクが家にお邪魔していた。
「アルフィーさんっ。こんにちは」
「ロイクさん、こんにちは」
「お陰様で傷はしっかりと治りました。ありがとうございました」
「とんでもない」
「何じゃアルフィー、なにか用かのう?」
「魔法のご教授をと、思いまして。俺はもっと強くなりたいです」
「なるほど。使えるかは……本人次第じゃ。出来る限り教えよう」
「ありがとうございます!?」
「さて、アルフィー。魔法とは何じゃと思う?」
「? 不思議な力……ですか?」
「それには違いない……じゃが、その認識だけでは良い使い手にはならぬ」
「……それでは魔法とは」
「焦るでない。それを理解する事も修行じゃ」
「何をすればよろしいですか?」
「何時も体を鍛えているそうじゃな?」
「はい。より強い者と戦える様にと」
「ここは本当に良い島じゃ……なに、何時も通り、島で生活するのじゃ」
「それが修行ですか?」
「左様。ただし、日頃とは違う、何かに気が付くこと」
「……? わ、分かりました」
意味は分からなかったが、何かの試練だと思いそれを了承し、日頃と同じように過ごす。そして、毎日ではなく、週に一度、マックスさんと会って対話をする。最初はそのループの様だ。
肉体を鍛える特訓が終わった後、そろそろ一度、島の発展具合を見に行くことにする。
草原が広がる区画。牧場へ行くと羊の世話をする中年、青年、子供がいた。犬と共にのびのびとしていた。ここにいる殆どの人はマックスさんの所にいた人々だ。
アルフィーに気が付くと数人の少年が寄って来て悪戯をする。それを少女が注意していた。とても仲が良い。遅れて中年男性と青年が近づいて来る。
「こんにちは、アルフィーさん」
「こんにちは、アルフィー君。何かあったのか?」
「いえ、そう言う訳では……ちょっと様子を見に来たのと、何か足りないモノはありませんか?」
「足りないモノ?」
「とは言っても地上と比べて、魔獣もいませんし、精霊の加護で牧草も豊富ですしね……」
(精霊……)
「前と比べればこちらの方が断然過ごしやすい。これ以上望むのはー……」
「あれが欲しく無いですか? ほらー」
「ああ、乳汁にゅうじゅうか。そうだな。贅沢を言えば羊以外にも牛や馬が欲しいな」
「そうですか。ありがとうございました」
帰るのを察したのか子供たちが手を振って来たので、返した。牧場を後にする。
次に農場へ行く。牢獄に設置したのとは別。彼等には耕すのに多少協力させてはいるが、特に関りは無い。ここには主にベルソンの民が居る。その民は女性騎士ばかりで狩り主体だった。なのでマックスさんの所の人たちも居て、技術を教えたりしている様だ。
農具もよく見ると石斧から青銅や鉄の鍬くわに変っている。こちらに気が付くと挨拶をしてくれた。
「こんにちは。何か困った事とか欲しいものとかありますか?」
「ん~。イグールや精霊のおかげで魔素も豊富で、肥沃な土地ですし……あ、ヨーゼフ陛下も困ってましたが、やはり人の数でしょうか」
(人数を増やすと消費が多くなる。安定には精霊と魔素も必要……か)
「そこですよね……」
「それと鉄の農具がもっと欲しいですね……」
「鉱山か。陛下に相談してみるか」
「話は反れますが、陛下は、農園も計画しているらしいですよ。美味しい物が食べたいそうで」
(流石は陛下。資源を集めてる間、見えない所で)
「経験者が必要になる。うん、ありがとうございました」
さらに街中に入り、鍛冶屋を訪ねる。別の建物で製錬せいれんなどをしている者も含めて三人。とその弟子の様な子供が一人。数が少ない点を考慮すると貴重な人々である。
「お、アルフィーじゃねぇか」
「こんにちは」
「どうした? 修理か?」
彼等は武具の修理や農具を作ったりと大忙しである。
「……足りない物って、鉱石ですか?」
「なんだぁその質問は。当たり前じゃねぇか」
「ハハ……すみません。あ、後、農具の提供ありがとうございます」
「まあそれが仕事だからな」
「他に何か必要な物ってありますか?」
「あーん。一式は揃えたしなぁ。強いて言うなら飯だな。一杯食いてぇ」
「今度お肉、差し入れします」
「お、いいねぇ」
「話がわかるぅ」
そこで火の粉が生き物の様に待って消えた。
「お、気にいられてるな。鍛冶屋目指さねぇか?」
「いえっ、俺は」
「冗談だよ。お前にしか出来ないことがあるからな。おっとそろそろ仕事に戻らんと」
(俺にしか……)
「ありがとうございました」
鍛冶屋を後にした。次は何処に行こうかと考えていると、ロマンが歩いていた。
「あっ、アルフィーさんじゃないっすか!」
「ヤンとか、クライヴは一緒じゃないのか?」
「ヤンと地上に動物狩りに行った帰りっす。一度解散して。クライヴさんは相変わらずグリフォンのとこっすよ」
「乗れるようになったのか」
「いやー、マジでグリフォン最高っすねー!」
「分かる。風を切って飛ぶの、本当に気持ちいいよなー」
「次の狩りが楽しみっす!」
そこでアルフィーはある事を思い出した。
「そうだ、話は変わるけど……ベッドって知ってるか?」
「はぁ……皆の部屋に付いてるアレっすよね? もしかしてアルフィーさん、村では藁敷いて寝てました? 知らないかもっすけど、普通はあの部屋の隅にある、長方形の大きな箱の上で寝るんすよ」
「うーん。だよなー。それがベッドだよなー」
(クーのやつ……後で問い詰めるか)
「? 何かあったんすか?」
「いや、何でも無い。情報をありがとう」
「?」
「それで、他の連中は?」
「えっ、あーゾルタンたちは……ん~、獲物の解体でもしてるんじゃないっすか?」
(知らない? さては解体から逃げたな……)
「あッ!? ち、違うっすよ!? よ、用事があるんで!? あー! 忙しい!」
「……」
ロマンは走り去って行った。彼は中々自由な性格の様だ。
【ずりぃ大人とエンカウント】
道を歩いていると片腕が無い初老が道端にうずくまっていた。
「ぅ……ぅぅ……」
「大丈夫ですか!?」
近づいて見るとそれはヨーゼフ陛下だった。
(大変だ!? 人を呼ばないとッ。癒しの魔法を使いつつ何処かに)
「そ、この……椅子に……」
偶然にもここには休憩できそうな手ごろな椅子があった。肩を貸し、椅子に座らせる。
「すぐに誰かを呼びます!」
「いや、もう治った」
「治ったって、そんな事!」
「こんな場所で出会うとは何たる奇遇。そうだ、少し話をしよう」
口調からは苦痛を感じさせない。普段と変わらない感じだ。本当に治ったようだ。
「……え?」
「最近の調子はどうかな?」
「かなり良いです」
「そうか、そうか。健康は繁栄には必須。素晴らしい」
「そ、そうかもですね」
「アルフィー君。何か聞きたい事などはあるか? 我が国のこと、民のこと、娘むすめのこと、何でも答えるぞ」
「あー、鉱山についてですが」
「相も変わらず、真面目な青年よ……そこが良い所ではあるが」
「えっと?」
「鉱山に何故行かないのか。その理由が聞きたい?」
「はい……」
「確かに鉱山は幾つか知っている」
「それでは」
「しかし、問題がある。魔獣の巣窟になっていること。鉱員の不足。運搬も難しい。ここから何が分かる?」
「……短期間にしろ、維持するにしても……人数が……足りません」
「左様。ここで現状の資源を考える。この人数で生きる事は通常は不可能。だが幸運な事に、ここは最低限住める環境が作れておる。そう、最低限は」
「……一見安定している様に見えますが、ギリギリの数と言う事ですか?」
「その通り。確かに高い文明ほど、鉱石は必要。しかし、発掘には危険が伴う。今、無理に行く必要は無いと判断したまで」
アルフィーは人数という答えを、既に一考はしていた。しかし、ヨーゼフ国王との決定的な違いは、明確な理由を持ち、現段階で取捨選択を終えていた事だろう。余り変わらない様で、この差は実に大きい。
「となると当分は、グリフォンを増やして、地上の集落の探索を優先的に。この島に移住してくれる人々の確保につなげる……」
「うむ。話は変わるが……エルナとディアナのこと、どう思う?」
「……えッ? ええっと……どうとは……」
「二人の愛娘。今は亡き、我が妻の生き写しの如き美しく、可愛いのだが……どう思う?」
「ぉっ……と、とても可愛いと思いますっ」
(陛下。何か圧を感じる)
「うむうむ、そうかそうか。可愛いとな? それでは……今は亡き。我が妻の性格にそっくりなのだが……人間的に好きかね?」
散々振り回された事と二人のそれぞれ違った特徴のある、したり顔を思い出す。余り長く答えなければ嘘っぽくなるので、動揺しつつも回答する。
「……そッ!? それはもう! 人間的に好きですよ!? 素晴らしい王女と騎士です!」
「人間的に? ふむ……」
「な、何か……ご無礼な事を?」
「なぁに。今の会話の流れ。人間的に、というのは省いても分かると思うのだが……どうも無理やり言わせているみたいで……心が痛むのぅ……」
(どういうこと?)
「……あ~」
「つまり……好きか嫌いかで言ったら?」
「……先ほどの会話の流れで良いんですよね?」
陛下はニッコリと笑みを浮かべていた。
「好きですね……」(人間的に)
「おお! 娘にも伝えておくとしよう!」
「あ! 陛下。僭越ながら申し上げますっ。その様な事は自分の言葉で伝えるべきだと愚考いたします……後ほど、必ずお伝えしますゆえ」
「ふむ。ならば其方を信用する事としよう」
「ありがとうございます!」
「はっはっは。期待しておるぞ。アルフィー君」
ヨーゼフは、この少年の言葉を信じたが、最悪十年以上は言わないと察したので、娘にコソっと伝えることとした。後からゆっくりと自分の言葉で伝えてくれ、といった様子で微笑んでいた。
【魔導師の弟子】
グリフォンの所へ行く道中、すらっとした体格、黒い髪にキリっとした赤い瞳の美青年が立っていた。こちらに気が付くと近づいて来たので、どうやら待っていたらしい。
「ここに居ましたか。探しましたよ」
「何かあったんですか、ロイクさん?」
「少し、話しませんか。魔法についてです」
「マックスさんの助言ですか?」
「いえ、個人的な判断です。なので内緒にしてください」
「嬉しいですけど、良いんですか?」
「良いのです。師匠のやり方を馬鹿正直にやってたら十年はかかりますよ……」
「そ、そうなんですか」
「頑固と言うか何と言うか……」
適当な石作りの椅子に座ると彼は言う。
「魔法はどうやって発動するものだと思いますか?」
「心の中で詠唱、または魔法陣を描いて発動させるもの。もしくはその魔法の形を具現化させるイメージ。でもその方法は魔法陣を厳密に覚えておかないと発動出来ないから高度な技術」
「癒しの魔法を発動させる時、何を意識されてますか?」
「家に代々伝わる詠唱を唱えてます」
(誰にも教えるなって言われたけど。レティシアに教えてるしな……)
「その認識で大丈夫です。ただし、師匠の魔法は少し特殊です」
「特殊?」
「特殊……正確には、ある民族の方法なのです。今アルフィーさんが言ったものは、力を失った者のために作られた手法……そこに気が付かないままだと習得出来ません」
「……力を失った、ですか?」
「すみません。この辺は師匠の受け売りでして、表現が分からないのです」
(才能が無いとかなのか?)
「己の魔素と、精霊の力を混ぜて放つ魔法」
「癒しの魔法……レティシアの習得が早かったのは」
「恐らく、無意識のうちに精霊の力を借りているのでしょう。あの回復速度。最初に見た時は驚きました」
「それじゃあ俺に出来る事って……」
「精霊を身近に感じる事です……多くの精霊はその者の属性に惹かれる傾向にあります。アルフィーさんの精霊は恐らくは二種類」
「あ……そこは自分で探そうと思います」
(一種類は知ってる、光だ……もう一種類は……自分で知りたい……)
「そうですか。出過ぎた真似をしてしまいましたね」
「いえ、とんでもないです。本当にありがとうございます。勉強になりました」
(面倒見のいい。優しい人だ)
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