第9話 マックスとロイク

 今日は皆用事があるらしく、珍しくアルフィーは一人でいた。自主訓練を終え、丁度暇になった様子。


(うしっ。周囲の探索にでもするか)


 グリフォンが居るのを確認しに行くと、リルがこちらを見ていた。向こうから近づいて来た。撫でると嬉しそうに鳴く。



 早速騎乗すると、ふとスキンヘッドが目に入った。大きなグリフォンの傍でクライヴが、赤ちゃんグリフォンを抱いて寝ていた。



 昨日ここに来た時、見知ったおっさんが地面に寝そべって、高い鳴き声を頑張って発していた時には驚いたものだ。


 そこにアルフィーが近づくと、彼はスッと立ち上がり、何事も無かったかの様に、常日頃の頼もしい漢に戻って、赤ちゃんが生まれた事を報告してきた。


 少しでも離れると、それはもう我が子が生まれた時の様に喜んでいた。そんなこんなで気が休まり、急激に眠気に襲われたらしい。




 そんな事を思い出しながら、地上を探索しにリルと出発する。辺りは緑が豊富な大地。


(今欲しいのは鉱山。他には島の気候は精霊のおかげで安定しているが、地上はそうじゃない。探索する時のために暖かい服でも作れればいいんだが)


 地平の彼方。人工物があるのを発見したので、そこに向かう事にした。




 近づくとほぼ廃墟であった。しかし、人の気配、生活感を感じる。少し離れた場所にリルを待たせ、街を歩く。


(静かだな……)


 塔の傍を通りかかった時、真上から声が聞こえた。


「盗賊め!? 覚悟!?」



 上を見上げると、間入れずにその人は屋上から飛び降りた。アルフィーはその躊躇ない行動に焦る。


「ちょっと!!?」


 だが、それだけでは無い。炎の球体と共に降りて来たのだ。それを見極め、避ける。さらに落ちて来る人をキャッチしようと跳びあがる。しかし、アルフィーが受け止める前に、何者かが受け止めた。



 着地すると状況を確認した。若い細身の男が、老人を受け止めていた。黒い髪、鋭い赤い瞳の青年。しかし、不思議と不快感は無い。



「申し訳ございません。私の師が失礼をいたしました」


「ロイクか! 盗賊に情けは無用!?」



「落ち着いてください。盗賊は攻撃をしてきた者を助けません」


「……助けたのはお前じゃろ!」



「失礼。師は少しお年を……」



「いえ、お気になさらずに。このご時世、警戒するのは当然です」



 何度か説明すると老人は笑ながら謝って来た。白髪に琥珀の瞳を持つ老人の名は、マックス。この物腰が柔らかい美青年はロイクと言うらしい。


 廃墟を案内されて連れて来られたのは大きな家。ここだけが小奇麗にされていた。中に入ると、子供たちが二人に飛びついて来た。



「ロイク、お客さん?」


「はい、こちらはアルフィーさん。仲良くしてください」


「は~い」



 周りを見渡すと老若男女、様々な人が住んでいた。皆何か忙しそうだが、わざわざ一度こちらを見て、微笑んでくれた。


 共通している事は皆痩せていることだろう。だが、不思議な事に服装は意外にも清潔であった。それを察したのか青年が言う。



「最低限の食料と住居は確保出来てます。なので今は、病気が一番厄介です。清潔でないと危険ですからね」



 その時、外から金属をカンカンと叩く音が聞こえた。辺りで魔獣が来たと知らせる声が響いた。それに反応したマックスは立ち上がる。


「私にお任せ」「また魔獣か!? ワシの眼が黒いうちは村人を傷つけはさせんぞ!」



 止める間もなく、叫びながらダッシュしていった。


「大変そうですね……」


 彼は怒りと悲しみと疲れが混じった様子で言った。


「そうなんですよ……」



 アルフィーたちも駆けつける。マックスは火の球や氷の針を作り出し、それを放つ。そして自らも飛び込んで行った。


「あー! だからもう飛び込むなとッ。何度言ったら分かるんです!?」



 ロイクは猛ダッシュでマックスを助けに行く。短剣を持ち、目にも止まらぬ速さで魔獣に一撃、二撃と切りながら通り抜ける。


 ただし、彼の優先はマックスを助ける事で、止めを刺しきれて無かった。後ろから追って来たアルフィーが止めを刺す。


 それを見てロイクは微笑みかけてくれた。魔獣は難なく倒したのである。



 ロイクたちの拠点に戻ると、マックスはうつ伏せになっていた。


「ィタタタタ」



「もう年なので無理はしないでください」


 彼は体をマッサージしながら言う。


「ワシを年寄り扱いするでない! ィタタたッタ! もっと弱くしてくれ!」



「あの。俺たちと一緒に来ませんか?」


「俺たち、ですか? この辺りに集落は無いはずですが……」



「そうです。俺たちは空の島から来ました」


「空の島……?」



「断る!?」


「何故ですか?」



「怪しすぎじゃ……出会って間もない男が。それに、この人数を救えるか?」


「……はい。大丈夫です」



「……口先だけなら何とでも言えるのう」


「ロイクさん……」



「申し訳ございません。私たちは……」


「ロイク……それ以上は言わなくて良い。ここはワシらの土地。さあ、お主の土地に帰るのじゃ」



「分かりました……日を改めます……」




 扉を開けてグリフォンの所に戻ると見張りをしてくれていた。


「あ、ありがとうございます。リルの見張りを」


「良いってことよ。魔獣討伐を手伝ってくれたんだろ?」



「いえ、あの二人だけで十分って感じでしたから」


「……マックスさんの事を悪く思わんでくれ」



「え?」



「俺たちは一度、教会を名乗る詐欺、強盗集団に騙されてな……年齢性別問わずに沢山失ったものさ」


「すみません。配慮が足りず……」



「知らなかったんだ。仕方ないさ……また来るのか?」


「はい……」


「何故だ?」



「死んで欲しくないからです」


「そうか」



「それでは……失礼します」


 アルフィーはグリフォンに跨ると去って行った。空の島に戻るとレティシアが立っていた。



「アルフィー! おかえり」


「ただいま、レティシア」



「何か、こういうの照れくさいね」


「俺は村が無くなって以来だからな……少し嬉しい」



「何かあった?」


「生きてる人たちを見つけた」


「ほんと!」



「ただ、故郷を離れたく無い感じだったから……難しい……」


「そう……疲れてると考えがまとまらないでしょう。今日はゆっくり休んで」


「そうする」



(不思議な女の子だ。何の変哲もない言葉。でもそれに触れていると、自然に気持ちが軽くなる……)



「ねぇ……アルフィー」


「ん?」



「私はね……アルフィーが選んだことを全部受け止めるよ」


「……俺がレティシアを救えたから?」



「違うよ……私がそうしたいから」


「……」


「でも……アルフィーが悪い事をしたら、ちゃんと怒って上げるんだから! だから……安心して選んでね」



 アルフィーは一瞬、目を見開いた。そして、穏やかな表情になった。



「それは気を付けないとな……」


「うん。それじゃ、一緒に帰ろっか」





 翌日、再び彼等に会おうとリルに騎乗する。すると違和感に気が付いた。大柄グリフォンと小柄なグリフォン。そして、背後から人の気配とピィピィと言う鳴き声が聞こえる。



「……おい?」



「お前、昨日俺が後ろに居るの忘れてただろ」



 アルフィーは顔を僅かに赤らめた。


「……次からは声をかけてもらっても?」



 クライヴは赤ちゃんグリフォンのために、ここに居た。彼等の背後で話に入ろうか悩んでいたのであった。



「早く行こうよ! ディアナたちが来るって! 昨日散々怒られたんだから!」


「アルフィー! 見つかると今日は飛べないかもよ?」



 怖い事を言われ、勢いで出発する。





【廃墟】



 補修された屋根の隙間から日差しが差し込む。マックスたちは常日頃と同じ様に過ごしていた。狩りの準備をしていると、カンカンカンと金属の音が鳴り響く。皆は慌てない、慣れているからだ。



「盗賊が来たぞ!?」



 マックスが憤りと共に立ち上がる。


「今度は盗賊とな!?」


「お待ちください師匠!? 今回の敵は人。知能を持っています!」


「何度も何度も皆を苦しめる者を許しておけるか!?」



「前回、攻撃に工夫が合ったのをお忘れですか!? 彼等はまた小賢しい真似をしてきます!」


「それがどうした!? 下手な小細工など力でねじ伏せてしまえばよい!? 戦いは早さが肝心なのじゃ!?」



 マックスは馬に乗った盗賊を追いかける。だが、ロイクはすぐに追いかけない。疑問を覚えたからだ。


(何時もよりも人数が少なすぎる……どこかで魔獣にやられたか?)



 その時、別の方角から盗賊が走って来た。ロイクは一瞬悩む。どうするべきか。


(師匠ならあの数は大丈夫。それよりも数の多い方、皆が危ないッ)



 ロイクは後から来た盗賊を迎え撃つ。何人かの盗賊に傷を負わせるが、浅くいため中々数を減らせない。この集落の強い者はバレており、彼が近づくと盗賊は離れて距離を取り、矢を撃つか逃げるかで、まともに戦おうとはしない。



 その隙に別の盗賊が素早く扉を壊し、子供や家畜を奪っていく。大人たちは抵抗するが、歯が立たない。


「子供を放しなさい!?」


 ロイクは両手に持った短剣を投げる。盗賊に肩に当たった。そして、雷の魔法の応用。短剣に予め雷を帯電させて置き、それを手元で作った魔法とを接続する事で、素早く手元に引き寄せる。


 盗賊が息を殺し、静かに剣を振り上げ、今まさに振り下ろしていた。その背後からの一撃を、手元に引き寄せた短剣で止めた。


 その攻撃は凌いだが、またしても子供を攫おうとするので意識が反れる。その小賢しい戦法に、終に盗賊から一撃を背中にもらう。


「ぐっ……」



 反撃に短剣を振るが、彼等は無理をせずに距離を取って様子を見る。盗賊の顔にも余裕は無い。彼の強さは痛いほど知っているので油断せずに、じわじわとダメージを与える作戦のようだ。




 マックスは魔法で落馬させていた。痛みを堪えて立ち上がる盗賊。そこには盗賊のボスもいた。


「ここまでじゃ! 今までの恨みここで晴らさせてもらう!?」



「良いのか? 俺は魔法を避けるのが上手いぞ?」



「ふん! ならば疲れて動けなくなるまで魔法を放つのみじゃ」



「見ろ」


 盗賊がある方角を指さした。そこには馬に乗った者が数人走って来ていた。マックスは顔を歪めた。彼等の後ろには魔獣がいたからだ。


「さあ、どれを選ぶ?」


 盗賊のボスを倒すか、魔獣を倒すか、それとも集落の人を守るか。マックスは選択を迫られる。盗賊は余裕を持って、再び馬に跨った。



「貴様ぁぁああ」



「悪いが弱肉強食。俺たちも生きてぇんでな。ほら、ゆっくり考えてたら、間に合わなくなるぞ」



「生きるために人としての道を外れるか……愚かな……」



「欲しかった物は今日で全て手に入れた。長かったが、さよならだ。ここに訪れる事はもう無くなる」



 魔獣が凄まじい速度で迫ってきて、このままでは家の中に居る人々が危ない。盗賊が子供を連れてる事から、ロイクは負けたのかもしれない。目の前の盗賊のボスを倒せるかもしれないが、時間がかかる。


 状況を把握したマックスは絶望する。その時、彼は驚愕した。


 背後から三羽のグリフォンが飛んで来ていたからだ。その一人がグリフォンで、盗賊のボスが乗る馬を横切りると同時に、その男を槍の柄で薙ぎ払い、地面へと叩き落とした。



「ぐあぁぁああ!?」



「お主はっ」


 アルフィーは状況を把握している彼に一言問う。



「俺たちは何処をやれば良いですか!?」


「家の中じゃ!? 子供たちが!?」



 アルフィーはロイクの方へと向かっていく。唖然とそれを眺める事しか出来ないマックスは、彼等の本質を見た。大きなグリフォンが魔獣に向かっていく。彼は地上に降りると戦斧を持って、自分よりも何倍も大きな化け物に突っ込んでいく。



「ぉお! 彼等が……」



 ロイクは血みどろになっていた。


 盗賊が数人か倒れて居る。動けないが意識はある状態。まだ動ける盗賊を倒さねばと、ロイクはボロボロの体に鞭を打つ。皆を守るためには、立ち上がらなくては。しかし、力を幾ら込めようとも動けない。体が限界であった。



 その間も子供が何人か攫われた。追う事が出来ない事に歯を噛みしめる。助けるどころか、自身が先に死んでいしまう。


「ここまで……ですか……」



 だが、その呟きを否定するかの如く、窓から勢いよく入って来る男が居た。そのまま跳び膝蹴り、掌底で顔面を捉えると、数人の盗賊の意識を一瞬でかりとった。さらに既に抜いていた剣で次々と残りの盗賊をなぎ倒す。


「ッ!? アル……フィーさん……」



「な、なんだお前はぁぁああ!」



 そう叫びながら切りかかる盗賊。ロイクが短剣を足に投げると刺さり、転んだ。アルフィーは後頭部を踏みつけて意識を奪う。その他、室内の盗賊を全て倒したのを見て、力なく叫んだ。


「子供たちがっ……お願いしますッ……」



 彼はそれを聞いて頷く。


「レティシア、ロイクさんを頼む!」


「任せて!」


 そう言い残すと、彼は迷わずに盗賊を追いかけて行った。近寄って来た女性がロイクに手を翳かざす。



「名もない、癒しの魔法……何と心地よい魔法でしょうか。ありがとう……ございます……」



 ロイクはそこで意識を失った。不思議と安心した表情であったという。外ではアルフィーが盗賊を追う。そして、グリフォンを使いこなすエルナが回り込み、騎乗した状態で一気に倒していく。彼等は最後に遠くに目を移す。



「クライヴがボロボロだッ。急ごう!?」


「情けないわね~」



 動物の八本脚を持ち、上半身は寄生した植物が絡む巨大な魔獣。エルナは飛びながらヒット&アウェーで、目や急所を狙う。


 アルフィーは最初に癒しの魔法を試した後、足を重点的に狙い、動きを鈍らせる。クライヴは皆が来た事で戦法を変えて一度距離を取る。グリフォンに乗り、チャンスを待ち続ける。しかし、彼は蝕まれており、体力も残っていない。素早く、確実に実行したい。



 魔獣が奇声をあげながら蔦を伸ばして来た。その蔦の先っぽには複数の腕が付いていた。掴む気だろう。


「くっ。避けきれない!?」


 クライヴのグリフォンでは、それから逃げきれる速度が無かった。エルナがそれを切りに行くがウネウネと動いてかわし、止められない。



「駄目、防げない!? クライヴ、気合で避けなさい!?」


「無茶をッ、言うなッ、ってッ!?」



 その時、巨大な火柱が突然魔獣を襲った。余りの火力に魔獣は苦しみながら火だるまになる。蔦は焼け切れた。



 かなり遠く。息切れしているマックスがサムズアップをしていた。


「マックスさん!?」


 動きが止まった隙にアルフィーが足を三本、その巨体がバランスを崩す様にそぎ落とす。エルナも槍を投げて目を潰した。大きな音を立てて崩れ行く魔獣。最期の抵抗なのか再び蔦を伸し出した。


 しかし、それは失敗した。何故なら上空にいたクライヴが飛び降りて、勢いよく戦斧で首を切り落としたからだ。魔獣はそのまま目を閉じて絶命した。





【勝利】


 十数人の盗賊を集め、縛りあげて座らせていた。その間にマックスと手の空いてる数人には、ここに来た経緯と自分たちの事情を手早く説明した。



 マックスたちが怒りの形相で彼等を睨み付ける。



「さて、どう苦しませて殺そうかのう……」


「くっ……俺がこんなガキどもに!?」


「お頭ぁ! おれぁまだ死にたくねぇよ!」



「黙れ黙れ! お前たちはそうやって何人の人を殺めて来たんだ!」


「そうだ! そうだ! 決して許される事じゃない!?」




 アルフィーは目を閉じていた。そして、何かを決心したのか口を開いた。



「マックスさん……彼等の命……俺に預けてくれませんか?」


「はぁ?」


 余りの予想外に、盗賊たちの方が間抜けな声を出す。



「なッ!? お主、自分が何を言っているのか分かっておるのかぁ!?」



 クライヴとエルナもそれに猛反対する。


「アルフィー……こういう奴等を生かしておいても得は無い。速やかに殺すべきだ」


「そうよッ。連れて行くと空の島が汚れる!」



 盗賊の部下はそれに便乗して命乞いを始めた。


「た、助けてくれ! 俺たちは生きるために仕方なくやったんだ! ひぃ!」



 エルナがその盗賊に槍を押し付けて黙らせた。


「アルフィー。馬鹿な事を言ってないで早く処罰しよ。こんな奴等が改心するはずないでしょ!」




「お主……この盗賊共は、ワシ等の憎悪の対象と言う事を忘れたのかのう?」


「決してそんなことは……しかし、それを承知のうえでお願いしたくあります……」



「それでは……もしこの者たちを生かし、お主たちの大切な者たちの命が奪われたらどうするつもりかな?」


「……」



 アルフィーは剣をマックスの足元に投げた。


「その盗賊たちと同じく……如何様にも。罰を受けましょう……」


「……その程度で償えるとでも?」



「……」




 そこでボスが話し始めた。


「じいさん……俺たちのやった事は一生許される事は無いんだろうな」


「当然じゃ!」



「なぁ……俺たちが苦しむ姿を見たいんだろ?」


「……」



 中年の男は大きな声で野次を飛ばした。


「どうせ生き延びようと必死なだけだ! マックスさん、そいつらの話を聞く事はない!」



 盗賊の感情に動きは無く、マックスの眼を見て言う。


「粗末な食量で生かし、やりたくない事を毎日やらせ。それを見てあんたらは満足する……少しでも抵抗すれば、好きに痛めつけ、殺せば良い……」


「ボ、ボス! そんなのは嫌ですぜ!」



 その気持ち悪さにマックスはうろたえた。


「な、何のために……じゃ」



「俺の半分にも満たない歳の小僧に。そんな覚悟を見せられちゃ仕方なねぇ。俺も腹を括っただけのことだ……」



 ボスは顔を地面に埋もれさせるほど押し付けながら命乞いを見せた。


「命だけは見逃してくれねぇか!」



「ぐ……」



 マックスは皆を見た。その表情を見て彼もまた選択をする。



「……条件がある」



「条件、ですか?」



「その者たちは仕事以外の時は隔離する。そして、ワシ等がそれを見張る」


「しかし、マックスさんたちにそんな事をさせる訳には行きません。俺が」



「お主は、この様なモノに縛られるには、勿体ない器じゃ。それに最初に犠牲になるのはワシ等で良いじゃろうて……」



「……」



「空の島をその様な地形にする事は可能ですかな? レティシア女王陛下……」



「えっ……で、出来ると思います。でも良いんですか?」



 話した事も無い中年の男たちが言う。


「俺たちの弱さが盗賊を招いた。アルフィー君はそれを助けようとしただけ」


「勿論盗賊を許す訳じゃない! 少しでも悪さをしたらすぐにでも殺してやる!」



「あんた等は、皆の命の恩人だからな……」



 結局は大人たちに守られる。自分の未熟さを痛感するアルフィー。そして、盗賊たちは無言であった。何を考えていたのかは分からなかった。





【迷いと前進】



 空の島に付いたアルフィーは一人で地上を見ていた。そこにレティシアが近づく。



「俺は……やっぱり間違ってたかな」


「う~ん。分からない」


「そっか」



「どうしてあの人たちを助けようと思ったの?」


「……自分でも分からない。彼等には死んで欲しく無かったのかも……」



 それを聞いたレティシアはクスクスと笑っていた。


「アルフィーは、やっぱりアルフィーだなーって。うん、これで良かったと思う」


「それは褒ほめている……のか?」



「さあ、どうでしょう~」



 レティシアはその後、怒るでも喋るでも無く、ただアルフィーの隣に座って、一緒にその絶景を眺めていた。彼女の表情は夕焼けがほどよく照らし、よく見えなかった。それを含めアルフィーは、この瞬間を大切に感じた。

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