第7話 火山地帯
アルフィーは石の斧で畑を耕していた。ずっと振っていたので、一度体を伸ばす。辺りを見渡すとかなり進んだと満足げな表情になる。
建物の配置も徐々に変わっている。最初は島のコア付近に部屋を作って住んでいた。しかし、そこを大雑把に区画分けした。
コアとは古代の技術が詰まったこの島を浮かせている球体のオブジェクト。守護精霊はそれとリンクしている。リンクと言うのはイマイチしっくりこない。クーの住居程度に考えている。
島の中心には守護精霊を祭る神殿。その隣にはイグールの木。その周辺に精霊たちの住みか。アルフィーたちやベルソンの民の居住区。農作物を育てる地域や大きな魔物と動物たちが住まう広場がある。
その小さいが貴重な発展を見て、彼の顔から自然と笑みがこぼれる。そこで、遠くから低い声に名前を呼ばれた。振り向くとスキンヘッドの巨漢がいた。
「おいおい、お前がそれをやると困る人が出るだろう?」
「クライヴ。困る人って?」
「戦闘が苦手で嫌々してる人とかだ。その辺は分割しないと、何時まで経っても島が発展しない。お前は戦闘が出来る。ここより、資源を集めに行くぞ」
「それもそうだな……クライヴ。資源に心当たりがあるのか?」
「無い! だが、グリ……ゴホン! 冒険が好きなんだろ?」
「そうだな。行こうか」
それを聞いて乗り気になったので、グリフォンが住む区画へと移動した。グリフォンは三体。欲を言えばもっと沢山欲しい。
「グリフォンには乗れるのか?」
「ハッハッハ! 何度もやったが無理だった! まあ、今日は大丈夫だろう!」
よく見ると体中に傷があった。癒しの魔法をかける。先に練習する事にした。まずはグリフォンと友達になるところから始める。グリフォンが連続でツツク。クライヴはそれでも構わないと言った様子で撫でようとする。
格闘すること五時間。何とか乗れるようになった。
「ぉぉおおぉぉぉおお! 凄い! これがグリフォン!」
どこかで聞いた事がある表現でアルフィーは羞恥心に駆られる。何はともあれ早速地上に下りようとした時、違和感に気が付いた。
自分が乗るリルの左右にグリフォンが二体並んでいた。真横を見ると、エルナが居た。
「よっ!」
「よっ、じゃないですよ。ディアナ様には伝えたんですか!?」
「ですよ、ですか?」
「みッ、皆に話は通してる?」
「大丈夫大丈夫ー♪」
「嬢ちゃんと何時の間にか仲良くなったんだな」
「仲が良いというか……」
「というか、何?」
許可が下りてるならと出発しようと手綱を引こうとした。そこでさらに違和感に気が付いた。後ろにレティシアが乗っていたからだ。
「クーに怒られるぞ?」
「精霊集めなら、私は必須でしょう? それに何度も行ってるから大丈夫」
「そうなんだけど」
「じゃあ決まりだね」
「ピィー!」
さり気なくフィーも乗っていた。彼等のやり取りを見て、若干不機嫌になるエルナ。しかし、同盟国の女王なので何も言わない。
「クライヴは何か目的があるの?」
「火の精霊だ。それに鉱山を見つけたい。金属が欲しい!」
「確かに俺の剣も昔一回折れたっきり。その後は拾い物だしな」
クライヴは頼りになる。かなり先の事を考えてくれている。
レティシアが精霊に語り掛ける。最期にクーにはよろしくね、と聞こえた。彼女の案内の元、空を舞う。初めての飛行。後ろでレティシアとフィーが喜んでいた。
フィーがアルフィーの頭に跳び乗り、しっかりと両手足で掴む。あたかも自身が飛んでいるかの様にパタパタと小さな翼を動かしている。飛竜の足に紐が巻き付いており、レティシアはそれを自分の腕に巻き付けてあるので、かなり計画的である。
最初はゆっくりと飛んだ。クライヴがフラフラと落下。ではなく飛んでいるからだ。それを見てエルナがアクロバットに周囲を飛び回り煽っていた。それに負けじと頑張って真似をしようとしているのも原因の一つである。
慣れるまで、まだかなりの時間がかかりそうだ。
ようやくクライヴのグリフォン操作が安定し始めた頃、精霊の声が聞こえる方へ飛んで行くと徐々に暖かくなる。遠くに緑と茶色の境界が見えた。火山地帯だ。茶色い部分は木が極端に少なくなっている。
その時、クライヴが低空飛行をすると木々が生い茂る地面へと飛び降りた。皆はそれを咎めない。何故なら一回り大きなグリフォンが魔獣に襲われていた。どうやら卵を守っている。翼が黒ずんで飛べない様子。
「うおぉぉぉおお!」
巨大な体。左右非対称の足を持つ魔獣。クライヴが落下しながら盛大に戦斧を振り下ろす。頭の部分を潰したが、それはまだ生きていた。この魔獣にとってそこは急所では無い様だ。
グリフォンの前に立ち。彼は戦斧を構える。アルフィーたちも一度旋回すると助けに加わる。背後から急所になりそうな場所を突く。失敗しても狙いを分散できる。
クライヴは魔獣がよそ見をした際、消去法で再び急所の可能性がある部分を狙う。魔獣は奇声を上げて絶命する。
エルナが近づこうとするが、グリフォンは鳴き声で威嚇をする。
「まあ……そうなるわよね」
クライヴはグリフォンの眼を見て語り掛ける。
「頼む。お前を助けたい……」
彼の必死な姿を見て、少しだけ警戒を解いた。ゆっくり近づくと、撫でる事が出来た。アルフィーが治癒をかけようとするとレティシアが言う。
「あの。私に癒しの魔法をっ」
「……分かった」
練習している際にレティシアは言っていた。この魔法は馴染むようだと。実際に凄まじい早さで基礎を覚えた。
翼に触れると手が光り出す。黒ずんでいた部分が消えかける。しかし、あと一歩。浄化しきれない。アルフィーがそっと手を重ねる。
「もっとこう」
レティシアは驚いて赤くなりながらピクっとなったが、すぐに真剣な表情に戻る。
「こう?」
「ああ、凄く上手い」
「そ、そうかな?」
「少し慣れたか。もっと内。深くいけるか?」
「うん、大丈夫」
「ねぇ。ちゃっちゃとアルフィーが治さない? ここ他にも魔獣しそうだし」
「なんだ? 嬢ちゃん、怒ってるのか」
「だから怒って無いって!」
暫く癒しの魔法を使うとグリフォンの翼が完全に治った。クライヴに頭を擦り始めた。
「おっ! お礼言ってんのか。可愛い奴め」
レティシアが精霊と話し始めた。するとグリフォンは卵を鋭い爪で掴む。バサバサと大きな風を起こして飛び去って行った。
「な、なんだぁ!? 何を話した?」
「ん~、内緒♪」
「げ、元気でな!?」
去り行くグリフォンに急いで別れの挨拶をするのであった。それを見届けるとアルフィーは言う。
「火山のところに行って見るか」
「そうだな」
余り近づき過ぎると嫌がったので、早めに降りて徒歩で向かう。段々と熱くなる。火が近くなるのはもちろんだが。恐らくレティシアの周辺に精霊が集まってきているのだろう。
湯気が見える程の熱湯で巨大なワニがバシャバシャと動いていた。何か食べている様子だ。さらに奥に行くと溶岩が溢れている場所もあった。溶岩の塊からは火だるまのオオサンショウウオが出て来た。
「サラマンダー!」
陸に上がるとテクテクと歩き出す。警戒しているアルフィーの前をそのままゆっくりと横切った。
「よく見ると可愛いね」
「おいおい、不意打ちして来ないだろうな?」
「ないない……」
「あ、止まった。もしかして着いて来いってこと?」
暫く着いて行くと盛り上がった所があった。そこを上っていた時、レティシアが精霊から何かを聞いたのか待ったをかけた。
「その先は!?」
その声に驚いたエルナは丘の上で振り返ると、足を滑らせて前のめりに転んだ。膝を付き、大きく股を開いた状態になっていたのでスカートの中が丸見えになっていた。
「な、なに食い入るように見てるのよっ!」
それに気が付いた彼女は叫びながらも慌てて起き上がる。レティシアはジトっとした様子でアルフィーを見ていた。
「見てないし……」
「嬢ちゃん、早く起きな」
丘の向こうでは十数体の魔獣が暴れていた。サラマンダーは先ほどとは打って変わり、信じられない速度で何処かに去って行った。
「あ、あれを倒せってことっ?」
皆は急いで武器を構えた。こちらに気が付くと襲い掛かって来る。様子見など頭にないのか。相変わらず最初か全力で飛び込むクライヴ。負けじとエルナも飛び込んで魔獣と戦い始める。
アルフィーはレティシアを意識しつつ、彼等の援護に徹する。不思議な事にそれは噛み合っていた。
「ピィィ!」
それを見てフィーが、まるで自分が戦っているかの如くはしゃいでいた。
エルナの話だと。魔獣は人や精霊を食べる事に強くなっていく感じがした、と言っていた。ここの魔獣はそんなに強いのはいなかった。幸い魔獣が住み着いてから、早期に発見出来たのだろう。
「私七匹倒したけど、あんたは何匹?」
「俺? ええっと……数えてない」
「ププ。じゃあ私の勝ちね」
アルフィーは言われて数え始めた。
「多分、八匹だな」
「はぁ~嘘つきなさいよ!」
「じゃあ数えてみろって」
エルナが数えると手が止まる。そして、悔しそうな顔を見せると、もう一度ゆっくりと数え始める。アルフィーはそれをほってクライヴたちに言う。
「こうなると精霊が集まる所には定期的に来て、魔獣を討伐した方がよさそうだな」
「私も賛成」
「そうだな。一旦帰って報告するか」
彼等は空の島に帰還する。一部の火の精霊はしっかりと着いて来ているらしい。火山帯を離れグリフォンが待つ地へと歩く。
「あ、あれみて!」
帰る際、サラマンダーや温泉ワニがジッとこちらを見ていた。
「ははっ、お見送りかね~」
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