第4話 イグールの苗
レティシアは言う。こっちに消えかけた声が聞こえると。アルフィー、レティシア、クライヴの三人と赤ちゃん竜で、イグールの木を探すために深い森に入った。このままでは魔素が枯渇していて、島が浮かせられない。
少し前。彼女が付いて来る事に、クーは顔を真っ赤にして反対した。しかし、彼女が居ないと詳細位置が分からない。精霊声が聞こえる者が必要だという流れになった。最終的に、レティシアのお願い連続攻撃で渋々了承した。
クライヴの仲間たちは島を見張るため、クーと一緒にお留守番だ。何か起これば笛で知らせてくれる。
赤ちゃん竜を抱えるレティシア。木の実を見つけては首を伸ばしてパクリと食べる。彼女が微笑みながら体を撫でる。
「美味しい? フィー」
「フィーって?」
「この子の名前。呼ぶときに困るでしょう?」
「フィー……フィーね」
「だめ……かな?」
「俺は良いと思うぜ。か、覚えやすい」
前を先行するクライヴが聞き耳を立てていた。振り向かずに仲間に借りたショートソードで草をサクサクと切りながら進む。心なしか切る速度が上がった気がする。
(……照れてるのか?)
「うん。俺も良いと思う。可愛い名前だ。よろしくなフィー」
「ピィ!」
レティシアは急に動きを止めた。それに反応したアルフィーが呼び止める。
「こっちから聞こえる……」
指を差した場所、より暗い方向へと進んで行く。そこには大きな泉があった。ただし黒く濁っている。クライヴはショートソードを鞘に納めた。
皆は顔を歪め、その泉の感想を言うでも無く武器を構える。球体の魔獣がいたからだ。それは口を動かしていた。こちらに気が付きゆっくりと振り向いた。
「レティシア。少し離れて」
魔獣が跳ねる様に襲い掛かって来た。クライヴがそれに戦斧を合わせる。べちゃっと音と共に武器に纏わりつく。
「何じゃこれりゃ!」
思わず戦斧を放した。一度離れ、ショートソードを抜く。アルフィーは近づいて癒しの魔法を使うと、激しく嫌がり、木々の間を跳ねる様に暴れ出す。
「効いてるが……速くて当てられないッ」
飛び回る魔獣に触れない様に、縦横無尽に避けるも掠ってしまう。時間が経つごとに疲れ、徐々に傷が増えて行く。
(癒しの魔法にも限界がある……このままじゃ不味い)
持久戦を避けるべく、捕まえようと動く。そこで、狙いが偶然レティシアに向いた。彼女は咄嗟に逃げれなかったが、両手でフィーを包み込む。
「レティシア!」
そこで近くにいたクライヴが庇う様に立塞がる。彼の体に魔獣がへばりついた。痛みに顔を歪めるが、同時に叫んだ。
「今だアルフィー!?」
(そうかッ。この時に魔法を!?)
魔獣に触れると癒しの魔法を全開にする。激しく苦しみだした。逃げようとするそれを、アルフィーは両手で捕まえる。クライヴがショートソードでそれを刺すと絶命した。
「何とか……なったな……」
「ああ……」
「ありがとう二人とも」
彼等は笑顔で返す。レティシアが黒い泉に近づいて行く。その周辺に何本か枯れかけた苗木があった。
「ここから聞こえる……消えかけた声……」
それを受け、アルフィーが泉に手を入れ、癒しの魔法を使う。泉が澄んだ水へと変化していく。しかし、枯れた苗木は以前そのままだ。
「え? いいの?」
独り言を話すレティシアにきょとんとした顔で話しかける。
「どうした?」
「水……それに他にも精霊が来てくれるみたい」
「本当か?」
「うん!」
そこで耳を傾けたレティシアが追加で言った。
「その代わり、苗木も育てて欲しいって。枯れてるけどまだ完全には死んでないみたい」
「一本しか持っていけないけど」
「一緒に来る精霊さんへのプレゼントって言ってる」
アルフィーもそういう事ならと苗木を一本、優しく掘り出した。
「でも、この泉は大丈夫なのか?」
「来るのは一部の精霊みたい。あ、でも。ここに時々来て欲しいって」
「ほー、そんな感じなのか」
クライヴが感心した様に言った。
「……ええっと、分からない……そうなんだ」
「? 何かあったのか?」
「アルフィーのこと気に入ったって」
「それは光栄だ」
「はっはっは。泉を綺麗にしたからな」
そこで遥か遠く。微かに笛の音が聞こえた。急いで戻る事にした。
戻ると小さな魔獣と戦っていた。クーが必死に逃げ回っている。一人が倒れ、残りで猫を追いかけている魔獣を追いかけていた。
「わー! なぁんで僕ばっかり狙って来るぅのぉ!」
「あ! クライヴさん!」
それを見てクライヴが力強く接近し、魔獣を真っ二つにした。苗木を横に置き、癒しの魔法で治療していると、それに気が付いたクーが嬉しそうに近寄る。
「イグールのっ、苗! さすがレティシア!」
「もぅクー。私だけじゃなくて二人も」
「これがイグールの?」
「小さいし、枯れかけてるけど、まあ大丈夫。そう僕ならねぇ!」
それを持ち上げるとスィーと飛んで、島の中心付近にそれを植える。そこで、クーが光り出す。苗木が徐々に緑色に変化していく。
「す、凄い……ただの猫じゃなかったんだ……」
「失礼な奴だな。守護精霊って言ってるでしょ」
クライヴが訝しげに辺りを見渡す。クライヴを助けた時の巨大な魔獣の遺体が消えていた。
「あのバカデケェ魔獣は?」
「あれ、良い養分になったよ」
「だ、大丈夫なのか?」
「君が浄化したモノは魔素に出来るみたいだね。僕もビックリしたよ」
「へーじゃあ、魔獣を狩るってのも良いのか」
「そういうことだね」
そこでクライヴが歪む。余程嫌なものを見たようだ。
「お、おい……もしかして……その逆も然りじゃないだろうな?」
「なにが?」
「養分になんたら……」
「えー?」
遠くから魔獣が集まって来た。一同はそれに驚いて各々が叫んだ。
「嘘だろ……ッ」
「は、早く乗って!?」
言われるがままに島に飛び乗ると、ゆっくりと上昇する。クライヴたちはその光景に声にならない声を出していた。恐怖というよりは感動している様子。
しかし、刻々と攻める魔獣に焦り出す。危うく触れそうになったが、始動時の鈍い速度から抜け出し、勢いよく上昇し事なきを得た。
クライヴは進行方向の先頭に立ち、両手を上げて喜びの雄たけびを上げていた。
それを見て釣られて笑うアルフィー。緊張から解き放たれ、ふと思い出して歩き出す。川が滝の様に落ちる様子を見に来たのだ。
「見つけたよ。親父、おふくろ……じいちゃん……」
(だからさ……生きてるって信じても良いのか……セラ……)
彼は目を閉じて、空の風を感じていると、近くに気配があった。何時の間にかレティシアが隣に立っていた。
「あのね。色々あって遅くなったけど……ありがとう。助けてくれて」
「……いや、救われたのは……俺の方さ……」
「え?」
「気にしないでくれ、こっちの話だ」
「そう……あのね……私、この島を大きくしたい」
「記憶、戻ったのか?」
レティシアは首を横に振る。クライヴたちやクー、精霊に話を聞いて出した結論の様だ。
「苦しんでる人が大勢いるから……私に出来る事をしたい」
「そっか……俺も丁度同じ事を考えてた」
それを聞いて彼女はホッとしていた。胸につっかえた物が取れたのだろう。その時、フィーがぴょこぴょこと近づいて来た。必死に翼をばたつかせ、アルフィーの頭に乗った。
「ピィ」
二人は顔を見合わせて微笑のであった。
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