第3話 屈強な戦士

 魔素というエネルギーが無いと島が墜落する事を知ったアルフィーたち。


 イグールの木と精霊を集める事となった。レティシアの感覚に頼り、早速その場所に向かおうと島を動かす。そんな時、彼等は突然選択を迫られる。クーは苦しそうに声を絞り出す。



「だ、大丈夫。まだ堪たえれる……いけるよね? グシャる? いや、僕ならいけるっ。確信かくしんは無い! でも僕なら大丈夫だ!」


 この空飛ぶ島そのものと言っても過言かごんではない守護精霊が、不穏な単語を並べていた。



「一旦着陸出来ないのか?」


「クイーンアイリスを地上に!? なふぇめとんのかいワレェェィ」


 重い物を持っている時の苦しそうな表情、その状態で血管を浮き上がらせるくらいに怒っていた。器用きようである。



「でもクー。墜落したら皆死んじゃう……」


「くっ、し、しかし……このクイーンアイリスは偉大なる聖地!? 地に膝を付ける訳には!?」



「大きく跳ぶには一度、膝を深く曲げないと」


「君は大地に膝を付けてから跳ぶのかい? 変わった生き物だねぇ」


 空飛ぶ変わった猫が露骨に煽ってきた。さっきまでの苦しそうな表情が嘘の様だ。



「クー、お願い」


「うぐー。この屈辱、甘んじて受け入れ……」



 そこで手すりの無いバルコニーから地上が見えた。五~六人の男たちが足が節足動物の様に多く、けれども蛇の様に不気味に動く魔獣に追われている。



「助けないと!?」



 アルフィーが叫ぶと、それに頷くレティシア。男たちを追いながらも徐々に地上が近づいて来る。着陸する前にアルフィーが飛び出した。魔獣の頭に目掛けて着地すると、癒しの魔法を使う。



「うおぉぉぉぉ!?」


(魔獣が何故人になったのか。もしくは彼女だけが特別だったのかは分からない! だが、これを試さないと俺は先に進めない!?)



 振り落とされまいと耐えながら魔法を使うが、レティシアの時の様な現象は起こらない。苦しそうに暴れ続ける魔獣に終に落とされ、吹き飛ばされる。






「クライヴさん、あれッ!?」


「馬鹿っ、走れ! 追いつかれるぞ!?」


 男を一人おんぶして走っている、スキンヘッドの巨漢きょかん。ふと見知らぬ声の方向を見ると驚愕した。島が空から落ちて来ていた。


 さらに、パンツ姿の男が剣を持って魔獣に飛び乗ったのだ。


「!?」


 クライヴと呼ばれた男は急停止し、抱えている男を仲間に渡し、戦斧せんぷを受け取る。


「先に行け!?」


「クライヴさんは!?」


「俺は奴を助ける!」



 すると男たちは皆止まる。


「クライヴさんを失うと、俺たちはこの世界を生き抜けないッ」


「そうそう。魔獣にすぐに食われちまうよ」


「一蓮托生いちれんたくしょうっすよ」


 スキンヘッドの巨漢はそれに頷いて返し、アルフィーの元へ走り出す。




 振り落とされた彼は起き上がり、剣を向ける。


(楽にしてやる……)


 魔獣が長く柔軟な体をしならせ、頭で薙ぎ払いをする。それを斜め前に跳んでかわし、動いて無い軸じくの部分。胴体に落下して剣を突き刺す。


 魔獣は苦痛で体をよじる。効いているのを確認すると傷を広げようと力を込める。しかし、腕の様なモノに掴まれる。


「しまっ、予想以上に柔らかい!?」


 癒しの魔法を使い蝕みから身を守る。捕まえている手のひらからは焼ける音が聞こえるが、お構いなしに手を増やして、完全に固める。



「アルフィー!?」


「駄目だレティシア!」


 レティシアが駆け付けようとするのをクーが腕を掴んで止める。


「恐らく、魔獣を人に戻そうとしたんだ。でも、そのせいで死んでしまった……残念だけど、ここから離れよう」


「そんなことッ」



「ぉぉぉおおおおお!?」


 そこで低音が響いた。漢おとこが戦斧で魔獣の腕を切り落とす。同時にアルフィーが腕から逃のがれ距離を取った。レティシアはホッとした表情になった。



「大丈夫か、兄ちゃん?」


「助かりましたっ」



「戦えるか?」


「勿論ッ」



 アルフィーが素早い動きで接近し、浅く、けれども複数回切り刻む。魔獣は不快に思ったのか彼を目で追い、捕まえようとする。


 途中危ない場面があったが、見知らぬ男たちも小賢しい攻撃を繰り出す。意識を分散させたのが幸いし、アルフィーもギリギリで避ける事が出来ていた。そんな中、巨漢の男は静かに魔獣を見つめていた。



「ここだ……ッ」


 勢いよく近づくと大きく跳躍し、首に一撃。凄まじく重たい攻撃を繰り出す。しかし。



「くっ、硬い!?」



 あと一歩のところで切断出来ない。魔獣が反撃しようと体をねじるが上手くいかない。魔獣は次第に弱っていく。そんな時、アルフィーは慌てて走り出す。魔獣が急にレティシアの方向へと走り出したからだ。



「な、なんだ急に!」



 それを見たアルフィーが勢いよく跳んだ。


「頼むッ!?」



 戦斧の柄に蹴りを入れる。それに反応したクライヴは叫び声を上げ、渾身の力を込め切断した。辺りに黒い血が飛び散る。



 勝利した男たち。しかし、顔は浮かない。


「俺たちを逃がすために魔獣に触れたか。悪かったな兄ちゃん。俺も後悔はしてねぇさ。こんな最後も悪く無い……」



 クライヴたちは徐々に黒ずんでいく。魔獣を倒すには触れずに倒すのが最低条件である。遠距離攻撃は持続が困難だ。だから戦斧などの近接武器を使っているのだろう。



「最後じゃないです」


「……お前、知らないのか?」


「任せてください。こんな時のために覚えたんですから」


 怪訝な顔をしていた。それをよそにアルフィーは癒しの魔法を使う。傷や蝕みが治っていく事に驚愕する。


「ぉお! こんな事がぁ……」


 走りながら背負っていた男。彼は既に蝕みを受けて弱っていた。同じく治療するとゆっくりと目を開いた。するとそれに気が付いた彼等が泣きながら喜んでいた。



 そこで勢いよく飛びついて来る者がいた。レティシアだ。横から来たのでバランスを崩し、地面に倒れた。大袈裟おおげさだ、とか危ない事をするなとか。そんな事を言おうと思っていたが、彼はそれを止めた。


 彼女が泣いていたからだ。アルフィーの両手は彼女には触れずに、中途半端な位置で宙ぶらりんであった。



「心配をかけた」


「良かったっ……本当に良かった……ッ」



 後から気が付いたが、守護精霊が少し不機嫌に様子を見せていた。王女が大切なのだろう。ク―がさり気なく二人を引き離す。レティシアが落ち着いたところで、事情を話す。



 嬉しい事にクライヴたちが協力してくれることとなった。

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