Epilogue
「もう出逢って三年になるね」
「全く、時の経つのは早いものです」
ピアノのある山の頂。
私の言葉に、わざわざクラヴィーはピアノを弾く手を止めて、返事をしてくれた。
「やっぱりここが一番落ち着く」
「そうですね…………」
暁を眺めながら、そう語る。
少し前までは流星が満天を覆っていたが、常闇が蒼穹にならんとする過程で、嘗て私が抱いた外界への恋慕が如く、私が頬を赤らめるが如く燃え上がる空は、その星々を焼き尽くした。
その見慣れた光景を前に、やはり世界は美しいと、再認識する。
「…………こうして過ごしていて、少し思い出した」
暁へ向けていた視線を私に向けながら、クラヴィーは欲を語った。
「僕は、こうして誰かと、ともに生きたかったのかもしれません。嘗ての私は一人だったので。そして、その人と僕は旅をしたかった。その人の好奇心に寄り添って、その好奇心を共有して、少しでも人心に触れたかった」
「だから小さな世界を作ったの?」
「そう…………かもしれない」
クラヴィーは少し俯いた。
「何度も何度も、僕は自分の記憶を弄った。そのために、幾つかの記憶は、消滅してしまったみたいです。チェンバーと初めて会った時の記憶も、あやふやなのです」
「残念ながら、私は全然覚えていない」
「夢とはそういうものです」
初めて会った時の記憶は、クラヴィーづてに聞いたものなので、私自身は何も覚えていない。
それが夢なのか、現実なのか。
私はわかりかねる。
ただ私は外へ出てよかったと思っている。
クラヴィーと出逢って、こうして共に旅をして。
私は楽しい。
ずっと、ずっと、こうしていたい。
このままずっと、旅をしていたい。
旅の再開を示唆するが如く、蒼天が姿を顕わにし始めた。
「それじゃぁ、行こうか」
「うん」
私は旅支度をした。
「またいずれ」
クラヴィーはピアノに別れを告げ。
ここを発った。
クラヴィーとチェンバーと小さな世界 terurun @-terurun-
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