第20話

 先回の試作武器のテストから約一か月経過した頃。

 新たな試作が完成した連絡が竜馬に届く。

 すぐにウィスタの格納施設へと駆け付けると、ファーニバルの足元に仕上げたことにより外観が整えられた剣ともう一つ、思わぬモノが目を惹く。

 思わぬモノ。それはクロスボウから弓を外した形状のモノ。竜馬の知識に当て嵌めれば、ライフル銃と呼ばれる代物と酷似していた。


「これって……」


「弦の耐久性に懸念があれば、弦自体を使わなければいい。弓を外し、代わりに内臓したバネによって矢を射出する新しいタイプのクロスボウだ。いや、クロスボウをベースに再設計したモノだが、もう別物と扱うべきだろうな」


 と、アリウスの説明を耳にするも、竜馬の頭の中ではすっかり「銃」の認識になっている。

 ただ、矢の撃ち出しは火薬ではなくコイルバネの弾性を利用する構造らしく、厳密に言えば「銃」とも「弓」とも異なるカテゴリーの武器だろう。


「バネの強度については正直適当だ。何しろ基準値も目標値もないのだからな。もしかしたらファーニバルですらバネを引くことが出来んかもしれん。とりあえず今日の試験はそこからだ。早速試してみよ」


 竜馬は頷き、すぐファーニバルに乗り込む。

 皆で場所をいつもの大岩のところへ移すと、竜馬は新しいオモチャを与えられた子供のように、意気揚々と試作銃を構えた。

 銃身の側面から飛び出したレバーを握る。この辺りはボルトアクションのライフル銃と似た構造で、手前に引くことでバネが縮み、射撃可能状態に移行する。

 早速引いてみるも内臓のバネの弾性がアリウスの言葉通り硬く、竜馬の操るファーニバルでなければ扱えなさそうな程だった。

 ゆっくりと大岩に狙いを定め、引き金を引く。間髪入れず、試作銃内で圧縮されていたバネが解放され、その反動で銃身が跳ねるが、矢は寸分違わず目標の岩へ深々と突き刺さり、放射状に幾つもの亀裂を走らせた。


「すげーっ!」


 と、思わず漏れた竜馬の言葉が威力を物語る。

 アリウスも着弾点に近づき、己が作り出した試作武器の破壊力をまじまじと観察していた。


「……想像以上だな、これは。どうだリョーマ、バネの強度は。まだいけるか?」


「いえ、ギリギリな感じっすね。これ以上バネが強いとファーニバルでも引けないかもっす」


「そうか。ではバネ強度はこのままで。後は数射して構造強度を確かめてみよ。もしかしたら射撃の反動で部品の外れ、緩み、あるいは試作弓自体の破損も十分あり得る」


「了解っす」


「それからその試作弓の名称を考えなくてはな」


「名前っすか?」


「ああ、形状的にもクロスボウとは最早呼べまい。かといって、いつまでもアレだのコレだのと呼ぶのも伝わり難いだろう」


「そうっすね……」


 と、巡らした頭にふと浮かんだ。


「……あの、スプリガンってのはどうっすか?」


「スプリガン?」


「俺の世界で似たような武器があるんだけど、それをガンって呼んでて。で、コイツはバネの力で矢を飛ばしてるんでスプリングガン、短く略してスプリガンっす」


「なるほどな。この辺りでは悪戯妖精を指す言葉だが、特に反対する理由はない。他の物と区別さえつけばなんだってよい」


 と、拘りのないアリウスの一言で、試作弓は今後悪戯妖精スプリガンと呼称され、近い将来ウィスタ運用に大きな変革を齎す代物となる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る