第19話

 ファーニバルは今後、竜馬が搭乗するウィスタとなる。

 そのファーニバルに装備する武器ということで、竜馬はアリウスから搭乗者として意見を求められた。

 そこで日本にいた頃に得た知識を披露するが、やはりビーム兵器は理解されず、そもそも竜馬に技術的な説明出来ず即頓挫、検討の余地なく諦める。

 鉄火砲の携帯化についてはやはり弾薬の再装填問題のクリアが難しいようで、単発運用の期待値とメンテナンス性の懸念により、一旦見送ることとなった。


「どうやらリョーマの頭の中にあるものは、我々の持つ技術とは大きく異なるようだな。そちらの技術は大変興味深くはあるが、今は目先の、現実的な話をしよう」


「現実的……、っすか」


 と言われても、竜馬はこちらの世界に来て日が浅く、まだ何がこちらの世界の現実的なのか判断つく知識を持ち合わせていない。

 とりあえず、日本での知識から比較的安易なものを提案して、技術的に再現可能かどうかをこちらの世界の人間に委ねるしかないだろう。

 何か良さげなものがあっただろうかと頭を捻っていると、同じように考え込んでいたアリウスが口を開く。


「そうだな。実験的な意味も込めて、とりあえず身近なものから試してみるか」


「と、言われると……」


「ああ。弓だ」


 弓矢の組み合わせは、こちらの世界でも兵士達が携えているのをよく見かける。

 それらをウィスタサイズに大型化するだけならば、未知の技術にチャレンジするよりも遥かに容易く形にすることが出来るだろう。


「当たり前だが、今までウィスタに武器を持たせるという概念がなかった。まずその当たりから取り掛かってみよう」


「だったら、剣も作ってみたらどうっすか?」


「剣か……。結局、接近戦になるが?」


「はい。でも拳よりかは間合いが取れますし、殺傷力も高い。受け流しにも使えたりと色々便利かなと」


「ふむ、確かにそうだな。ものは試しだ。一本ぐらいは作らせてみるか」


 アリウスは簡単な図面を引くと、鍛冶屋へと指示を飛ばすことにした。

 それから二週間程経過した頃、竜馬はロイ経由でアリウスに呼び出しを受ける。

 ロイに先導されすぐにウィスタの格納施設に向かうと、屹立するファーニバルの足元にアリウスの姿と、剣と洋弓が一本ずつ寝かされていた。


「やっぱデカいっすね!」


 と、竜馬が驚きの声を上げてしまうのも無理もない。

 剣の刀身の長さだけでも六メートルはある。弓も八メートルといったところか。両方とも人間では到底携帯不可能なレベルで巨大なサイズだった。


「共に急ピッチで試作させたもののため、剣に関しては所謂鉄の塊。重量の確認と耐久テストがメインとなるだろう。問題は弓で、大きさをファーニバルに合わせた故に、試し撃ちが出来ていない。期待した威力が出せるか以前に真っ直ぐ飛ぶかも分からん。とりあえず実際試すしかない。評価はその後だ。リョーマ、ファーニバルに乗って、実際に扱って見てくれ」


 アリウスの指示を受けた竜馬は言われるがままファーニバルに乗り込み、巨大な剣と弓を手にした。


「東門に向かってくれ。私もロイと共に後を追う」


「了解っす」


 竜馬は言われた通り街の外に出る。

 そして向かったのは、以前ミスカがレーベインの調整確認を行った場所だった。


「まず、弓を試してみるっす!」


 宣言し、竜馬は矢を番える。狙う先は所々焦げ付く大岩だ。

 弓を引いてみるが金属製にも関わらず、やけに手応えが軽い。ファーニバルの出力に比べて弾性が足りないのか、まるでオモチャの弓を引いているように錯覚した。

 威力は期待薄という思いが脳裏を掠めるも、これは飽くまで試作品である。まずは運用が可能か見極めるのが第一で、性能は二の次。と、とりあえず一射、狙いを定め放つ。


「げ!」


 しかし、矢は思い描いた軌道を逸れ、的を大きく外し、地面に矢じりを食い込ませた。

 この結果は当然と言える。平和な日本の一般家庭で生まれ育った竜馬は、弓を引いた経験など一度もない。

 それでもファーニバルならなんとなくやれそうな気がしたのだが、やはりそんな虫の良い話はなく、竜馬の意思で己の手足のように操るだけに、技術を要する精密作業は生身同様の訓練を必要とするようだった。


「これ、相当練習しないと当たらないどころか真っ直ぐ飛ばすのも怪しいっす……」


「おいおい、いきなり弱音か?」


「あ、いえ、事実を述べただけで、魔法の習得と一緒にこっちもしっかり練習するっすよ!」


 ロイから冗談混じりに指摘された竜馬は、慌てて背筋を伸ばす。

 そこへアリウスが持ちかけたのはこんな提案だ。


「ならクロスボウならどうだ?」


 なるほど。確かに素人が手を出すなら、クロスボウの方が容易かもしれない。


「ただ、弓と比べて有効射程が幾分短くなる上に、構造も複雑化する。だから今回は作りが単純な弓にしたのだが、次回はクロスボウをベースに試作してみよう」


「後少し要望があるんですけど……」


「なんだ? 申してみよ」


「ちょっと威力不足な気がして、もっと弓の強度を上げられないっすか?」


 先程矢を射った感触では、先日殴りつけた踏み付ける者ドランプルの皮膚は勿論のこと、この世界に渡った直後遭遇した災獣ディザスト悪食グラッドにすら、決定打になるイメージが沸かなかったのだ。


「そうか、その弓もかなり弾性のある素材で反発力を高めてあるのだが」


「ファーニバルは腕力ならまだまだ余裕っす」


「なるほどな……。とはいえ、弓にしろクロスボウにしろ、弦の強度に関しては限界がある。素材の見直しから検討はしてみるが、恐らく威力の向上は左程見込めないだろう」


「あ、そうか」


 竜馬は今回の弓の威力に物足りなさを感じた。

 しかし、威力を上げるには単純に弓の弾性を強化すれば済む話ではない。

 増した反発力に耐えうるかつ、しなやかな弦が必要となる。言われれば当たり前のことだが、そのことを竜馬はすっかり失念していた。


「弦を金属で、なんて無理っすよね……」


「強度としなやかさを併せ持つ針金か。言葉にするのは容易いが、現実のモノとするには一朝一夕では難しいだろうな」


 眉間に皺を寄せ考え込むアリウスの表情からハードルの高さが窺える。

 しかし、その難しい表情の中に無理だと諦めている感じはない。先を見据え、やり遂げなければならない使命感と、新しいものに挑戦する過程を楽しんでいる様子が見て取れた。

 ウィスタが専門だとはいえ、物造りに従事してきた彼に比べ、竜馬の知識など高が知れている。そもそもこの世界の素材知識が皆無なだけに、ここは余計な口は挟まず、全て任せた方が良いと結論付けた。


「さて、弓については一旦置いておくとして。リョーマ、次は剣を振ってみてくれ」


「了解っす」


 アリウスに促され、弓を置き、剣を取る。

 それは飾り気も無く無骨を通り越した金属の長板に、申し訳ない程度の切っ先と刃を付けた、もはや刃物というより鈍器に分類したい代物である。


「今回は鍛冶師の準備がすぐに出来なかったので、切れ味より耐久性に重きを置いて作ってある。まあ、その重量で殴られたら大抵の物は叩き潰されるだろうし、現時点でも十分通用するだろうがな」


 アリウスの説明を耳に、まずは両手で構え、数度素振りをしてみる。

 振り心地に問題ないことを確認した竜馬は、近くの樹木にファーニバルを近づけた。

 膝を曲げ、腰を落とす。

 そして脇構えから一呼吸で、得物を真一文字に振り抜く。

 衝撃に木の皮が弾け、白い幹が上下に別れ、倒れゆく樹木の周囲に木の葉が舞う。

 当然、断面は力ずくでし折ったような有様だが、破壊力の観点では申し分ないと言える。

 また、耐久性重視を謳うだけあり、木に打ち付けるぐらいでは繰り返しの使用にも問題ないと感じた。

 剣についてはこのまま整えて実戦運用し、弓はクロスボウを含め再検討の方向で、今後のスケジュールが改めて組まれることとなった。

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