第21話
ウィスタに搭乗する以上、やはり魔法が使えることはベストである。
ティニアの研究に付き合わされる日常の中でも、僅かな時間を見繕いワイボー老師の下へ訪れている。
この日も、今日こそ切欠が掴めればと意気込みながら教室の扉を潜った。
老師は遅れているのか不在の中、室内の雰囲気がいつもと違うことに気付く。
日頃から雑談が多いわけではないが、私語が皆無という程でもない。特に魔法習得の進捗具合は互いに気になるもので、確認し合うのは日常茶飯事だった。
しかしこの日に限っては、不自然な沈黙が教室を支配している。
その理由を探るため室内を眺め回すと、魔導師の卵たちの人数が一人足りない。
確か、ハビーという名の十三歳ぐらいの少年だったと思う。その彼が見当たらなかった。
「ハビーはどうしたんだ?」
誰ともなく訊ねる。
しかし、すぐに返事はなかった。
再びに居た堪れない空気が流れ、耐えきれなくなった一人が漸く口を開く。
「ハビーは魔導師の素質無しを告げられ、ここを去ったんだ」
「え? だって、素質あるからここに来てたんだろ? いきなりじゃないか」
「確かに
彼の言う
同じ炎弾の魔法を使っても、放出量が多ければより大きな炎となり、少なければマッチの火に満たないといった具合だ。
そして回復量とは、魔法で消費した
共に
それは学びを経て、魔法を扱えるようになった段階で初めて判明するからだ。
多少、成長する余地は残されているものの、どうやらその余地を差し引いても見込み無しと判断されたらしい。
ハビーはこの教室の生徒の例に漏れず、魔導師に憧れていた。しかし、自分の素質に裏切られ、志半ばで去ることになった。
魔導師としての中途半端な素質が無ければ、こんな辛い思いをすることはなかったのに。
教室の皆も明日は我が身。だからこそ彼の無念が痛いほど分かり、それが顔に出てしまっている。
そこにワイボー老師がのっそりとした足取りで入室した。
「遅くなってすまんのう。早速講義を始めるぞい」
老師の穏やかな口振りに反して、教室内の危機感は何時になく増している。
竜馬は魔導師になる厳しさを改めて感じる機会となり、そしてそれは翌日まで引き摺ることとなる。
「ほらっ、ぼーっとしてんじゃないわよ」
「いてっ!」
ティニアに額を指で弾かれ、竜馬は額を押さえながら我に返る。研究施設の試験機の中でのことだ。
「朝から浮かない顔してるけど、どうしたの。リョーマらしくないわね」
「あ、すんません」
「もしかして、ハビーのこと?」
「……はい。折角魔導師目指して頑張ってたのに、なんだか呆気ないなと」
「なんでリョーマが気にしてんのよ。貴方、もう魔導師みたいなもんでしょ。それともハビーが可哀そう、なんてこと考えてんの?」
「あ、いや……」
「確かにね、魔導師ってのは誰もが憧れ、しかし一握りの選ばれし者のみが通ることを許される狭き門。もう少しで手に届くとこまできていたのに断念となれば気落ちして当然」
そこまで口にすると、ティニアは急に諭すような口調に変わる。
「でもね、魔導師は様々な優遇と引き換えに責任を背負わされるの。この街を守るという重い使命をね。失敗即ち街の被害に繋がる
竜馬は彼女の言葉に息を飲む。
先日、踏み付ける
だが、もしあの時、ファーニバルの力をもってしても追い返せなかったら。
己の無力がために帰る場所を失った時、竜馬の心は耐えられるだろうか。考えただけでぞっとする。
魔導師とは誰もが憧れるもの。しかし、魔導師を名乗る以上は皆の期待に応えなければならない。
ウィスタに乗り込む者の重責を改めて感じるのだった。
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