第1話

 この世界にも昼夜はあるらしい。


 額の汗を拭いながら、高く聳える城壁から顔を出す太陽を見上げた竜馬は現在、ロザリアム街に身を寄せている。

 手ぶらで行く当てもない竜馬を不憫に思ったのか、ミスカが一時的に保護してくれたのだ。

 街の兵舎の片隅に仮の居場所を融通して貰っているが、素性の知れない只の迷子の竜馬には相応だろう。ありがたいと感謝すべき。

 とはいえ、この待遇が長く保証されるとは思わない方がいいだろう。役に立たないと見なされれば何時追い出されても不思議ではない。


 竜馬としては、出来ればこの街に長く滞在したい。

 ウィスタというロボットに守られていることに加え、治安が良さそうというのもあるが、可能であれば再度、墜落現場となるあの森の捜索をしたいと考えているからだった。

 日本に帰る手立てがわからない現状、そこに縋るしかないわけで。あの日は見つからなかったが、もう一度調べれば何か手掛かりが見つかるかもしれない。となれば、当分ここに置いてもらえるだけの何かを示さなければならないと考えていた。


「というわけで、もっと俺にやれることはないか?」


 と、振り向き様話し掛けたのは、膝下まである貫頭衣に身を包む赤毛の魔導師少女だ。


「何だ、藪から棒に。もう牛馬シ-マの世話は終わったのか?」


 因みに牛馬シーマというのは、牛と馬をかけ合わせたような外見の家畜で、兵士達の機動力としても活躍しているらしい。


「おう、寝床の掃除も餌やりも丁度終わったところだ。ミスカは散歩か?」


「今、あたしのウィスタが調整中でね。で、リョーマが真面目に働いてるか、空き時間がてら様子を見に来たってわけ。で、どんな仕事がやりたいのさ」


「そうだな……」


 と、僅かに考える素振りを見せるが、結局、自分の欲望のまま答えることにした。


「やっぱりウィスタに乗ってみたい」


 竜馬がこの街に来て感じたのは、ウィスタの関係者は特別視されていること。

 その理由として、この世界では災獣ディザストと呼ばれる危険な大型生物が跋扈しており、それらに対抗する切り札がウィスタという構図となっている。

 ウィスタに関する何か重要な役目を担うことが出来れば、この街に居座るのになんら遠慮する必要はなくなる、というわけだ。

 そして何より、竜馬も巨大なロボットにロマンを感じる男である。ウィスタを目にして心躍らないわけがない。あわよくば乗れないかと憧れすら抱いていた。


「リョーマは魔法は使えるのか?」


「使ったことなんてないけど、どうだろ。簡単に使えるものなのか?」


「いや、素質がなければどんなに修練しても無理。となればウィスタに乗る資格もなし」


「なんでウィスタに乗るのと魔法が関係するんだ?」


「んー、どうやらリョーマは、ウィスタのことを少し履き違えているようだね」


「ん? どういうこと?」


「戦うのはあくまで我々魔導師。ウィスタは補助をする魔道具に過ぎないんだよ」


 確かにロボットはあくまで兵器で、それを操縦するパイロットこそが戦っているとも捉えられないこともない。だが、彼女の口振りではそういうニュアンスでもないらしい。


「もうウィスタの調整が終わる頃合いだし、あたいはそろそろいくよ」


 竜馬が彼女の言葉の意味が正しく理解出来ず首を捻っていると、彼女はこの場を去ることを告げる。が、竜馬は彼女のさらりと流した言葉を聞き逃さなかった。


「ってことは今からウィスタのとこに行くのか? 丁度いい、俺も連れてってくれよ!」


「丁度いいって何んだよ。そもそも一緒にきてどうするんだ?」


「間近で見たいじゃないか」


「なんのために?」


「なんのためって、格好いいからに決まってるじゃないか!」


「か、格好いい? そんな理由で?」


「寧ろ、そこが一番の理由だろっ!」


 竜馬の鼻息荒い半端ない食い付きに、ミスカは終始気圧されていた。


「ま、まあ、見るくらいなら大丈夫だと思うよ……」


 と結局、折れざるを得なくなり、竜馬は見学の漕ぎつけに成功するのだった。

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