第6話 問題児襲来
リオの言う事は本当だった。
リオに手を引かれ、連れて行かれた先にいたお偉いさん――確か付き人であるティクムと言ったか――にリオが打ち合わせ通りの事情を話せば、彼は「またですか」と頭を抱えながら納得してくれた。その上で記憶が戻るまで城で保護したいとリオが申し出れば、その要望はあっさりと受け入れられた。更に言えば、ティクムが「またリオ様の仕業です」とみんなに説明をすれば、メリアを追っていた者達もまた「何だ、またかよ」と全員が憐れみの目とともに手を引いてくれた。その後、リオが「な、オレの言った通りだろ?」と明るく微笑んで来たが、言った通り過ぎて逆にその笑顔が怖かった。
「メリアさん、と言いましたね。あれだけ大勢いた中でリオ様に目を付けられてしまうとは、とんだ災難でございましたね」
「はあ、そうですね」
「あなたには不運の相が出ていると思われます。しばらくは表立って行動しない方が懸命ですよ」
「そ、そうします……」
パーティー会場にて、ミナス王子の傍に付いていたモノクルの男が、メリアを部屋へと案内しながら、憐れみの目を向けて来る。
今、ここにリオの姿はない。メリアをトラブルに巻き込んだ張本人は、城の反省部屋に押し込んで猛省させ中らしい。何だか悪い事をした気がするので、後で謝っておこうと思う。
「では、メリアさん。城にいる間はこの部屋を使って下さい」
とある部屋の前で、中に入るように促される。
さすがはお城の客室。そこはそれなりに広く、ベッドに天蓋が付いていたり、レースのカーテンがあしらわれていたりと、まるでお姫様が使うような可愛らしい部屋であった。
「ああ、申し遅れました。私の名はティクム。あの二人の王子の尻拭い係……じゃなかった、お世話係です。何か困った事がありましたら、遠慮なく私にお申し付け下さい」
「ありがとうございます、ティクムさん」
「いいえ。あなたも早く記憶を思い出し、トラブルメーカー・弟から早く解放されると良いですね」
そう言い残してから。ティクムは恭しく礼をすると静かにその場から立ち去って行った。
「はあ……」
一人になったその部屋で小さく溜め息を吐いてから、メリアはその豪華なベッドに体を沈める。
予定とはちょっと違うが、それでも城に潜入する事が出来た。後はミナスに近付き、彼の胸を貫くだけなのだが……さて、どうやって近付こうか。
(いえ、それよりもリオが言っていた、ミナスが命の恩人を人魚だと思っているって話は本当かしら)
アルフも危惧していたその話。それがもし本当だとしたらかなりマズイ。再び暗殺どころの話ではなくなり、またもや自分の身を守る事に徹さなければならなくなるかもしれない。
しかし、何故ミナスは恩人を人魚だと思ったのだろうか。やはり薄れゆく意識の中、人魚である自分の本当の姿を見てしまったのだろうか。
(だとすると、何の策もなしに彼に近付くのは危険過ぎる。でも近付かなければ暗殺は出来ないし……。うーん、どうしよう……)
そう考えながら、そっと目を閉じる。
色々あって(主にリオに振り回されて)疲れた。あれこれ考えるのは明日にして、今日はこのまま寝てしまおうか。
しかし徐々に押し寄せて来る眠気に、メリアがうつらうつらとしていた時であった。
コンコンと、誰かに扉をノックされたのは。
「?」
その音に、半分閉じていた目がパッと開く。誰かが訪ねて来たらしいが、一体誰だろうか。リオは反省部屋に押し込まれているらしいから、ここまで案内してくれたティクムが、何らかの用件で戻って来たのだろうか。
「はいはーい」
そう返事をして飛び起きると、メリアは扉に駆け寄り、その扉を引き開ける。
「っ!」
しかしその瞬間、メリアは驚愕に目を見開いた。
下の方で一つに束ねられた金色の長い髪に、優しそうな青色の瞳。長身細身であり、下手したら女性よりもキレイなんじゃないかと思うくらいに白い肌。
目の前に現れた青年。それは今し方考えていた暗殺ターゲット、ミナス・ヘームルフト、その人であった。
「あ、あの……」
突然現れたターゲットに、メリアは一瞬狼狽える。ここにいる彼は無防備だ。護衛も付けていない。そして自分の懐には短剣が忍ばせてある。ならば今ここで、彼の胸にこの刃を突き立てれば一瞬で試験を終わらせる事が出来るんじゃないだろうか。でも……。
しかしそれは本当に上手く行くのか、またトラブルが発生して失敗するんじゃないかと、メリアは頭の中でグルグルと思考を巡らせる。
するとそんな彼女に向かって、そのターゲットことミナスは、ニッコリと柔らかい笑みを向けて来た。
「キミ、そのドレスの中、ちょっと確認させてもらっても良いかな?」
「ティ、ティクムさーんっ!」
何か困った事があったら私におっしゃって下さい。
あれこれの迷いが一瞬で全部吹っ飛んだメリアは、早速起こった困り事を打破するべく、大声でティクムを呼び寄せた。
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