第12話 雛鳥達、自活を目指す
雛鳥達、自活を目指す
真鶴が出奔し、鸚鵡が北の前線へ出向し、白鴎も宮城から戻って来ない。
ガーデンに勤務していたメイドも職員も辞めてしまい、とするとまともな食事等出ててこない。
現金なもので、家令達はガーデンにあまり戻らなくなりそれぞれが勝手に自立し始めた。孔雀としては兄弟子や姉弟子が非行に走ったと思っている。
残されたのは、孔雀と大嘴と
正しくは、孔雀が真鶴を待つと言って譲らず、大嘴が付き合った格好。
「孔雀は
金糸雀がそう言っても、じゃあ燕はどうなるの、と孔雀は言い返した。
「えー、宮城に戻ればいいんじゃない?こいつも宮廷育ちなんだし抜け目ないから大丈夫よ」
「そんな、燕はまだ十二なのに」
神殿に孔雀を引きずって行くと思われた白鷹が、好きにしなさいと言って離宮に戻ってしまったのだ。
しかし、孔雀の実家は運良くケータリングをしている。
まとめて冷凍弁当を配送してもらい、それを三食食べていたのだ。
カエルマークのケータリングは評価が高い。最近では軍のレーションとしても参入していた。
大嘴も燕も満足だったが、ある日、燕が学校から呼び出しを受けた。
面倒臭がる母親の木ノ葉梟に面談に行かせると、結局、原因は毎日の食事を書く課題に三食弁当と書いてあった、ということらしい。
「栄養が偏るとか、非行に走るとか。何言ってんのかしら、あの担任。大体私ら軍で三食あれ食ってんのよ。私も軍で毎日食べてるからわかります。カエルマークの弁当は総合的に見て優良です。栄養バランスが計算されているって蓋に書いてあるし、あの弁当食べて営倉送りになった軍人なんか我が部隊に一人もいませんって言い返してきてやったわ」と木ノ葉梟は胸を張った。
家令にしては珍しく小柄な彼女のあだ名は、プラスチック爆弾だったかコカトリスだったか。
学校にはきれいな色のすてきなワンピースか、おしゃれなスーツで行ってね、と事前に言っておいたのに、彼女は所属する空軍から装備のまま赴いたらしい。担任はさぞ驚いたことだろう。
「やだ、そんなこと言ったの・・・。木ノ葉梟お姉様、今はやりのモンペ・・・」
「はやりだろうがモンペなんてはかないわよ」
とんちんかんな答えが返ってくるばかり。
孔雀はその日から自炊しようと決意したのだ。
レシピ本を買い込み、片っぱしから同じように作ってみて、数ヶ月でそれなりの仕上がりになった。
となるとまた現金なもので、兄弟子や姉弟子が帰ってくるようになった。
育児放棄したバツが悪いのか、カニだの牛肉だの高額なものを土産に。
結局は自分達の腹に収まるわけだから都合もいい。
明日の米がないのに、牛肉だのカニだのマグロのサクだのを山のように買い込んでくる兄弟子や姉弟子のセンスのなさを孔雀は改めて感じた。
孔雀が湖で魚やしじみをとり、大嘴が山で山菜、木の実を採ってくる。
そもそも麓まで徒歩二時間。週に一度のはずの生協の宅配も、月に一度にしてくれと言われる辺境なのだ。
健気に自立している弟弟子と妹弟子に、姉弟子と兄弟子は、「原始人みたいだな」「それをいうなら縄文人でしょ。狩猟と採集だもの」というなんとも無責任な発言。
育児放棄され、食い詰めているというのに。
しかし、家令にそんな甲斐性を期待する方が愚かなのだ。
「たとえ、一杯のおそばを三人で分けようとも、神に誓って飢えさせないで生き抜いて、かくも長き不在の姉弟子を岸壁で待つ」決意の孔雀の横で、大食らいの大嘴が五合飯を食らう。
「ああっ。お米がもう無いのに」
実家では兄弟で月に三十キロの米を食っていた、パンなんか毎日一人一斤、焼肉は一人一キロ、と大嘴は自慢気に言った。
大嘴は口減らしの為に家令にされたんじゃなかろうか。
孔雀はそう思った。
最近では果樹栽培や田畑まで耕している。
猩々朱鷺がちょっと大きな声では言えない新技術のサンプルとして苗木を送ってきたのだ。
「信じらんねえわ。米も芋も胡瓜も菜っ葉もサクランボも桃も林檎もたいした世話もしねえのにこの短期間に二毛作だの三毛作。どうなってんだろ」
とさすがの大嘴も呆れた。
野菜も果樹も、病気にも虫にも冷害にも日照りにも強く、成長が早い。
生育が早いということで、孔雀がおかしな才能を発揮し、品種改良でやたらと味のいい果物を作り出す始末。
「大嘴お兄様、私たち、これ一本で生きていけるんじゃないかなあ」
「猩々朱鷺姉上には種も苗も市場に出すんじゃないよと言われたけどさ、農協の会員になって出荷してみるか?」
「バレたら梟兄上にどうせ搾取されるよ」
大人びた燕の発言にそれもそうだと兄弟子と姉弟子が頷いた。
「もったいないけどさ。こんなよくわかんないもん交雑配したら大変だもんな。売れたら結構な金になるだろうけどなあ」
孔雀が首を振った。
「これ種取れないし、雑配しないって」
「じゃ、問題ないじゃないか」
「それどころか食糧不足が一気に問題解決よ」
「いいじゃないか」
「猩々朱鷺お姉様、穀物と野菜と果物の種苗の株持ってるから。こんなの世の中に出たら値崩れ起こすじゃない」
あの姉弟子は科学者としての責任とか倫理観とかそういうもので流通されるなと言ったわけではないのか、そんなもんだよなあと大嘴と燕は呆れた。
季節外れの真っ赤なトマトとりんごを齧りながら、見事な田畑となった元庭園を眺めていた。
ガーデンの弟妹達が採集の生活から進化し農耕を覚えたらしい、と城や外部機関の兄弟子姉弟子が噂する頃。
新たな変化の波が迫って来ていた。
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