第2話 宮廷家令

この国が王政を廃したのは、十五年前。

自分はまだ幼児だったから、よく覚えていない。教科書でサラリと習う程の知識しかないが、革命や内戦も動乱も存在しない全くの宮廷主導よる民主化への執権移譲という例にないほどのよく言えばスマートな悪く言えば事務的なまでの政権交代であったという。

革命も動乱も無く、王族も旧体制の誰も死なないその異例さは、国外のマスコミには催事とまで揶揄された程だ。しかし、それは驚愕と疑問と憧憬をもってとも報道されたのは、殆どの近代国家の革命には混乱と少なくはない犠牲が付き物だと言う歴史があるからだ。

皇帝どころか王族の誰もが命も落とさず、亡命もせず、各々身分と住まいを変えただけに済んだと言う維新は後の時代に揶揄も込めて王様の幸福なお引越時代と呼ばれた。

現在は迎賓館と美術館と博物館になっているかつて宮城と呼ばれた故宮があり、他にもシャトーやパレスと呼ばれるやはり指定文化財であり、ホテルや迎賓館としても使用されている元離宮がいくつも現存している。

「家令というのは、わかる?」

茜は小さく頷いた。

「お城にいた王様の召使いの人達ですよね」

金糸雀が笑い、白鷹がむっとした顔をした。

「召使い!なんてことだろう。孔雀、おまえの言うシフトされた時代は最悪よ」

「間違いでもないわよ。こんな便利屋。・・・そうねえ。そう。王様に仕える悪い鴉のことよ」

「金糸雀お姉様、怖がらせないで」

め、と孔雀が金糸雀を軽く睨んでから、茜に向き直った。

「王様の近くでいろいろお仕事をするのが家令なの。他に茜ちゃんが知っていそうなのは官吏や女官という人達かしらね。今は特別事業体国家公務員A種・B種という名前で各省庁や機関に勤務しているんだけど」

ああ、その職名。なんてひどい。本来もっと名誉のあるものよ。とまたも白鷹は呆れたようだ。

「そしてね。家令というのは、皆鳥の名前を頂くの。関係としては兄弟姉妹。だから、私達は、姉弟子妹弟子の関係」

だから、お姉様なのか、と茜は納得した。

「女家令の産んだ子は産まれた時から家令になると決まっているのだけれど。男家令のその子供が家令になるかどうかは、自分で決めれるのよ。もちろん家令にならない者もいる」

それをね、蝙蝠こうもりと言うのだけど。と笑う。

こうもり?と茜はまた戸惑った。

「蝠蝙のお話知らない?蝙蝠が、鳥には、私は鳥ですよって言って仲間にしてもらって。動物には私は動物なんですよって言うの。最後はどっちからも仲間はずれにされちゃうの」

ああ、なんてろくでもない酷い話なの。

女家令達がおかしそうに笑った。

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