岩が守る
ニュースによると、深夜、一般般家庭に無差別に入り込み、中の住人を殺して金を盗んでいくとのこと。うちには大したものもないから無縁だろう、そうは思っても良い気持ちはしなかった。
俺はスマホゲームを日が昇るまでやりつづけた、そうやって非現実の世界に逃げ込んでいたのかもしれない。
深夜2時。喉が渇いた俺は近くのコンビニへ向かった。微炭酸の「ビタミンmaccho」を飲みながら家路を辿った。
(静かだ。みんな今頃、明日のために眠っているんだろうな。それなのに俺ときたら……)
ぼんやりそんなことを考えながら玄関のドアを開けようとした時、何者かが俺の口を押さえた。そのまま引きずられ、車の中へ押し込まれた。
(何?)
暗闇でよく見えなかったが、覆面をした人間に羽交い締めにされ、口を押さえられていた。
「声を出したら殺す」
(まさか……強盗? うちに? 金目のものなんて無いのに……みんな、逃げて)
車内には2人いた。もう一人がトランシーバーのようなもので、会話をしていた。
「予定通り2階から入れ、鍵はかかってないはずだ」
(2階? 俺の部屋か。確かに鍵はかかっていない、なぜなら……)
「おい、どうした? 早く入れ、サツが見回ってるぞ」
『分かってる、だけどなんだこれ……』
トランシーバーの奥から、どんどん、という音が聞こえる
「ふざけんなよ、真面目にやれ」
『やってるよ、何だこれ。本棚か?』
「もういい、俺が行く」
男が俺の家の2階に向かった。慣れた手つきで垂れ下がったロープを登るとベランダに侵入した。俺はその様子をフロントガラス越しに下から見上げた。
一生懸命何かを蹴っている、押している。一生懸命やっているが、それはまったくびくともしない。
俺を押さえている男もじっとその様子を見ていた。
(ちょっと待てよ、今残っている犯人は一人、しかもあっちに集中している。どうせ終わったら俺も殺されるかもしれない、それなら……)
俺は車のドアを確認してから、思い切って男の腕に噛み付いた
「いってーこのやろー!」
俺は一瞬の隙をついて、ドアを抜けた。
そして走った、ちょうど角を曲がったところに車のライトがあった。
(まぶしい)
その光が地面に落とされ、車の本体がやっと見えるようになった。そして車の窓ガラスが降ろされた。
「君、夜中に何してる。危ないよ」
パトカーだ、神様は俺を見捨てなかった。
「あっちに強盗がいます! 捕まえてください!」
ほんとうかい? そう言うと、パトカーは角を曲がり、俺の家へ向かった。
その後、無事犯人は御用となり、俺の家族は無事だった。
翌朝、強盗犯が捕まったというテレビのニュースを見ながら、母ちゃんはぼやいていた。
「なんだ、もしうちに入り込んでいたら返り討ちにしてやったのにねえ」
よくいうよ、この母ちゃんは。
俺は2階にあがり、日の光に照らされた岩を見てみた。相変わらず邪魔だな、と思いながら、体を横にし、狭いスペースを通りながら、ベランダへ向かった。ベランダへ行く出入り口はほとんど岩が占拠しており、人は入れない。
(ここを強盗が入ろうとしたのか)
どうやっても普通の人には入れないスペースだった。
(そしてこの岩を動かそうと……)
俺は力を込めて岩を揺らそうとした。しかし岩はびくともしなかった。
ぷ、と笑いが溢れた。
(動くわけないだろう、だってこれは岩なんだから)
それから、はははは、と大きな声で笑った。腹がよじれるくらい笑った。
(これがあったから強盗が家に入れなかったって? これは傑作だ)
俺はしばらく笑い転げていた。
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