岩と戦う
「いいか、よしの合図で体重を乗せろ」
俺は岩の手前に漬物石をもってきて、棒は親父が昔使っていたゴルフクラブを利用することにした。力点のところにはユウジに体重を乗せてもらうことにした。
「兄貴、こんなことして怒られない?」
「それよりこいつをなんとかする方が先だろうが」
俺はクラブがしっかり岩の下に入るようにセットした。このまま持ち上がって転がれば外に出せるかもしれない。
「よし、いまだ」
俺の合図でユウジがジャンプして体重を乗せた。すると、
「お、いいぞ」
岩が少し浮かんだ。
「よし、じゃあこのまま……」
次の瞬間、ぼきっ、と鈍い音とともにクラブが折れた。
(まずい)
そう思った時は遅かった。俺の足の上に、何トンもあるかもしれない岩がどんと落ちてきた。
「痛ぇぇぇぇぇ!」
「兄貴、大丈夫?」
必死に引っ張って、やっとのことで、俺の足が抜けた。
「母ちゃん呼んでくる」
おかしい、足の何かがおかしいことになっている、それだけは分かった。病院に行くと足の骨が折れていた。
医師は、
「何か重いものに潰されましたか?」
と聞いたので、俺は正直に答えた。
「はい、部屋にあった岩をどかそうとして失敗しました」
しかし医師は何も答えなかった。
骨折と言っても、ヒビがたくさん入っただけだから、安静にしていればいつか治るとのこと。俺は右足に負担をかけないよう、松葉杖で過ごすことになった。
その晩、俺は枕を濡らした。
なんで俺だけこんな目に——。俺が何したっていうんだよ、確かに立小便をしたこともある、テストでカンニングしたこともある、塾に行くと言ってゲーセンに行ったこともある。だからとってそんなのみんなやってることじゃないか、なんで俺だけ……。豆電球に照らされた俺の部屋。床に寝転ぶ俺の目にうつるその塊は何も答えなかった。
*
「気が変わったら、学校行くんだよ」
そう言って母ちゃんはスーパーのバイトへ向かった。あれから俺は学校を休みがちになった。正直メンタルが限界だった。岩のことを考えるだけで心が重たくなった。楽しいことが考えられなくなった。もうどうにでもなれ、死んでしまいたい、とさえ思うようになった。
学校なんてどうでも良くなった俺は、10時のテレビを見ていた。
「この時間、こんなくだらない番組やってたんだ」
どこかのスイーツがどうだとか、ファッションがどうだとか、全く興味がないものばかりだった。もう消してしまおう、そう思った時、スタジオの空気が一気に変わった。
「続いて、連続強盗殺人事件のニュースです。●●区を襲っている連続強盗殺人事件ですが、いまだ犯人は捕まっていません」
「……うそだろ、これ近所じゃないか」
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