岩と戦う

「いいか、よしの合図で体重を乗せろ」


 俺は岩の手前に漬物石をもってきて、棒は親父が昔使っていたゴルフクラブを利用することにした。力点のところにはユウジに体重を乗せてもらうことにした。


「兄貴、こんなことして怒られない?」

「それよりこいつをなんとかする方が先だろうが」


 俺はクラブがしっかり岩の下に入るようにセットした。このまま持ち上がって転がれば外に出せるかもしれない。


「よし、いまだ」


 俺の合図でユウジがジャンプして体重を乗せた。すると、


「お、いいぞ」


 岩が少し浮かんだ。


「よし、じゃあこのまま……」


 次の瞬間、ぼきっ、と鈍い音とともにクラブが折れた。


(まずい)


 そう思った時は遅かった。俺の足の上に、何トンもあるかもしれない岩がどんと落ちてきた。


「痛ぇぇぇぇぇ!」

「兄貴、大丈夫?」


 必死に引っ張って、やっとのことで、俺の足が抜けた。


「母ちゃん呼んでくる」


 おかしい、足の何かがおかしいことになっている、それだけは分かった。病院に行くと足の骨が折れていた。


 医師は、

「何か重いものに潰されましたか?」

 と聞いたので、俺は正直に答えた。

「はい、部屋にあった岩をどかそうとして失敗しました」

 しかし医師は何も答えなかった。

 骨折と言っても、ヒビがたくさん入っただけだから、安静にしていればいつか治るとのこと。俺は右足に負担をかけないよう、松葉杖で過ごすことになった。


 その晩、俺は枕を濡らした。

 なんで俺だけこんな目に——。俺が何したっていうんだよ、確かに立小便をしたこともある、テストでカンニングしたこともある、塾に行くと言ってゲーセンに行ったこともある。だからとってそんなのみんなやってることじゃないか、なんで俺だけ……。豆電球に照らされた俺の部屋。床に寝転ぶ俺の目にうつるその塊は何も答えなかった。



「気が変わったら、学校行くんだよ」


 そう言って母ちゃんはスーパーのバイトへ向かった。あれから俺は学校を休みがちになった。正直メンタルが限界だった。岩のことを考えるだけで心が重たくなった。楽しいことが考えられなくなった。もうどうにでもなれ、死んでしまいたい、とさえ思うようになった。

 学校なんてどうでも良くなった俺は、10時のテレビを見ていた。


「この時間、こんなくだらない番組やってたんだ」


 どこかのスイーツがどうだとか、ファッションがどうだとか、全く興味がないものばかりだった。もう消してしまおう、そう思った時、スタジオの空気が一気に変わった。


「続いて、連続強盗殺人事件のニュースです。●●区を襲っている連続強盗殺人事件ですが、いまだ犯人は捕まっていません」

「……うそだろ、これ近所じゃないか」

  

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