戦うか逃げるか
その夜、俺はエビのように腰を曲げて寝ることにした。寝返りを打とうとしても、岩か机に体があたり、どうやっても同じポーズしかとれない。やっと眠れたと思ったら、岩に当たった振動で砂がこぼれおち、顔に落ちた。
「あー、もう!」
暗闇の中でも叫び声をあげても、何か解決する様子は全くなかった。
それだけじゃない、本棚に入れてあった教科書や漫画は細い隙間に手を入れて、人差し指と中指ではさんで取り出しをする、という生活を余儀なくされた。
「あ」
人差し指と中指で挟んだ、漫画が落ちて、手の届かない奥のスペースへ落ち込んだ。俺は持っていた定規で手繰り寄せようとしていると、手の甲がこすれ、血が出た。
「いてっ」
俺は徐々に染み入るその痛みを感じながら、怒りがふつふつと湧き上がった。
「もう、お前いったい何なんだよ!」
全力で岩に膝蹴りをかました。
ぺち、という音と共に、俺の脛に激痛が走った。俺は悶絶するとともにすねを必死でさすった。
(くそ、なんで俺だけがこんな目に……)
床に座り込んでみると、改めて岩の大きさを実感した。
「……」
(そういえば、学校の先生に悩みを相談してくれる先生がいた、早速相談してみよう)
俺は翌日、その先生に相談することにした。
「つまり、まとめると君の部屋に大きな岩がある、というようなことかな」
国語の
「いや、ような、ではなくて本当にあるんです」
「実に哲学的だ。進む道に岩がある、ならわかるが己の部屋にあるとは……」
「だから、本当にあるんですって。誰も相談に乗ってくれないんです」
立ち上がった俺に司先生はまあまあ、と手で制した。
「分かった分かった。仮にある、としよう、今君はとてつもなく大きな問題に直面している、そうだね」
「まあ、そうですね」
「そんな時、人間にとるべき選択肢は2つ。それを知ってるかい?」
「よくわからんです」
「1つ目は全力でその問題を解決すべく、奔走する。それともう1つ……」
そのもう1つ、何か良い案はあるのか? 俺は前屈みでその先を待った。
「もう1つは、その状況を受け入れ、その問題とともに過ごす」
「諦めるということですか?」
「近いけどちょっと違う。そもそもこれから君がぶち当たる問題のほとんどは解決できないものだ。未来ある青年にこんなこと言うのも酷だがな。だがそんなときこそ……」
正直そこから先は耳に入ってこなかった。
「先生、俺は諦めたくないです。あの岩をなんとか外に出したい。良い案ありませんか?」
「分かった。岩だったよね? その昔ピラミッドを作る際、てこの原理を使ったという。そしてそれを運ぶ時は摩擦を減らすように運んだ。知恵を絞ればなんとかなるかもしれないよ」
そうか、その手があったか、閃光が側頭部を通過した気がした。
「先生、ありがとうございます」
そう言うと俺は部屋に戻って材料を集めた。
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