第19話【ビッチ妖精】

死んだゴブリンたちの耳を削ぎ落とし、着ていたランジェリー下着を剥ぎ取り終わったアビゲイルがこちらに近付いてきた。


『マスター、回収作業が終了しました』


「ああ、お疲れさん、アビゲイル」


『おや、そちらは?』


俺の側を飛ぶ妖精に気が付いたアビゲイルが訊いてきた。俺は華奢で貧乳の薄汚れた妖精を一瞥してから答える。


「ああ、これか。そこの鳥籠に閉じ込められていたから助けた妖精だ。そうだ、お前の名前はなんて言うんだ?」


俺が妖精に問い掛けると、さっきまでとは態度を変えた妖精が怯えるように俺の頭の陰に隠れた。どうやらアビゲイルを警戒している様子だ。


だが、怯えながらボソリと自分の名前を語る。


「あたい、アンジュ……」


すると怯えるアンジュにアビゲイルが礼儀正しく頭を下げながら自己紹介した。


『私はマスターに使えるメイドのアビゲイル四式と申します。今後とも宜しくお願いします』


怯えながらアンジュはアビゲイルを凝視しながら訊いてきた。


「こ、この娘はあんたの召し使いなのか……?」


「そうだよ」


そう俺がアンジュに答えると彼女は俺の陰から飛び出してアビゲイルの周りを飛び交いながら観察し始める。妖精でもゴーレムが珍しいのだろう。


「彼女はお前の使い魔か?」


「違う違う、そんなんじゃあねえよ」


「こ、これ、ゴーレムじゃあないかよ!?」


「そうだよ、ゴーレムだ。俺が作ったゴーレムなんだぜ」


するとアンジュが俺の眼前に戻ってくると換気した表情で言ってきた。


「じゃ、じゃあお前はゴーレム使いの大魔法使い様なのか!?」


「あ、ああ、そうだけど……」


まあ、嘘でもないだろう。今時アビゲイルほどのゴーレムを作れる魔法使いは少ないはずだ。何せゴーレムマスターなんて不人気職だからな。だから大魔法使いと述べても嘘にはならないだろう。


そして、俺の返答を聞いたアンジュが小さな身体を俺の頬に擦り付けながら甘えるように言って来た。


「ねえ、大魔法使い様。ならば是非ともあたいを使い魔にしてくれないかぁ!」


「使い魔……」


使い魔とは魔法使いがファミリアと言うスペルを使って動物や魔物を下僕にする魔法である。


一般的にカラスやクロネコとかが人気の使い魔だが、中には恐ろしいモンスターおも使い魔にするマジックユーザーも居るらしい。


そして、魔法使いが使い魔を作るのにはメリットもある。


それは、使い魔の魔力を借りたり、使い魔とテレパシーで交信できたり、中には視力などを共有できる物も居るらしいのだ。


まあ、故に使い魔を持つことにあまりデメリットも少ないのであある。


「俺はアンジュを眺めながら彼女に訊いてみた」


「なんでお前は俺の使い魔になりたいんだ。妖精のほうから人間の使い魔に成りたいなんて普通は言ってこないだろうさ?」


アンジュは全身をモジモジとさせながら恥ずかしそうに述べる。


「あたいさ、人間の使い魔に成るのが夢なんだ」


「なんで?」


「だって、大魔法使いの使い魔に成れれば三食寝床付きが約束されるだろう。あたいはとにかくダラダラ過ごしたいだけなんだぁ~」


「うわ、こいつ現実的な理由で就職先を探している学生みたいだな……。しかも怠惰な生活を希望してやがる。こいつが人間だったら絶対に公務員志望間違いなしだぞ……」


更にアンジュは頬を赤らめながら恥ずかしげに言う。


「それに人間のあそこって大きいじゃん。あたいのを初めてを貰ってもらうならば、あのぐらいのサイズが丁度良いかなってさ」


「うは。またビッチ発言が始まったぞ!」


「ねえ、だからあたいを使い魔にしておくれよ~」


「駄目だろ……。それに俺のあそこをお前に突っ込んだらお前は破裂してなくなってしまうぞ」


「またまた、大みえこいちゃってさ~」


アンジュが俺の頭をペシペシと叩きながら言っていた。この妖精は人間の一物を見たことがあるのだろうか。それがお前らの身長と代わらないサイズたど知らないのだろう。


「ちょっとアンジュ。これを見てみろよ」


俺は自分が履いていたズボンを下ろして下半身を露出した。そして、男のシンボルを見せつける。


「デカっ!!」


「だろ」


「なによそれ、ゴブリンの何より大きいじゃないの。そんなのあたいに入れたら木っ端微塵に粉砕しちゃうわよ!」


「だから俺はお前を使い魔に出来ないんだ」


「そ、そうね……。人間の一物が、そこまで巨大だとは思わなかったわ。でも、使い魔には出来るはずよ!」


「まあ、使い魔にぐらいならば出来るだろうけれど……」


アンジュは空中で正座を組むと三つ指を立てながら頭を下げた。


「お願いします、大先生。あたいを使い魔にしてください。そして三食寝床付きのダラダラとした生活を送らせてください!」


「テメー、三食寝床付きのダラダラした生活が本当の狙いだな……」


「だって魔法使いなんて塔に籠って魔法の研究ばかりしているから引きこもりなんでしょう。そんな魔法使いの使い魔に成ったら使い魔もダラダラ生活が共用されるのが当然じゃないのさ」


「あ~、こいつは本当に怠惰希望しゃなんだな……。妖精のくせして腐ってやがる。まさに腐妖精だな」


「ねぇ、お願い、だからあたいを使い魔にしておくれ!」


俺は頭をボリボリと掻いてから面倒臭そうに言う。


「済まんが俺は冒険者志望なんで、年の半分は冒険の旅をしたいんだ。だから家でダラダラ出来るのは年の半分だけだぞ」


「ならば、年の半分はただ飯を食いながら休日なのね。それならばあたいは問題無いわよ!」


「んん~……」


俺は少し悩んだ。この妖精を使い魔にして良いのだろうかと……。


俺は月の半分を冒険に費やして、残りの半分をフィギュア作りに費やそうと思っていた。


俺の冒険は金を稼ぐのが目的じゃあないからクエストもいざとなったらマネーパワーで解決しようとも考えている。


そのためには本業のフィギュア作りは欠かせない。フィギュアを作って金を稼がなければならない。


だから、アンジュが願うような怠惰な日々ぐらい提供は可能だ。だが、それ以外の冒険中にこいつがどれほど俺の役に立つかが問題なのである。流石に俺だって食っちゃ寝だけの役ただずを食わせてやれるほどお人好しでもない。


「アンジュ、お前が俺の使い魔に成ったら、どれだけ俺の役に立てるのかセールスポイントを訊かせてもらえないか。それ次第で使い魔の件を承諾しても構わないぜ」


「セールスポイント?」


「そうだ。なんの役にも立たない輩を流石に俺も使い魔に出来ないからな」


「んん~……」


アンジュは少し考えてから答える。


「あたいは森の妖精だからコンビニ魔法が少し使えるわよ」


「それは俺も使える」


コンビニ魔法とは日常生活に役立つ基本魔法だ。光を作ったり種火を燃やしたりなどである。魔法使いならば、誰でも一番最初に習う魔法である。だから、そんなものがセールスポイントには成らないだろう。


「あと、動物や昆虫と会話が出来るわよ」


「それは便利そうだな」


「あとは、森の中で遭難しても、草木から食べ物を採取できるから飢えないかな」


「それも役に立ちそうだな」


「まあ、そんなものかな」


「そんなものなのか……」


これは微妙だぞ。この程度の実力で使い魔にして良いのだろうか……。


俺は異次元宝物庫からモンスター図鑑を取り出すとウッドフェアリーのページを開いてみた。


確かにアンジュが言っていることは間違いないようだ。ウッドフェアリーが出来ることに相違はない。


だが、ウッドフェアリーの最後の文に俺の注目が集まった。


ページの最後にはこう書かれている。


【ウッドフェアリーの中に水色の髪を有した個体が居るが、水色の髪の個体は希少種である。その個体は水色魔石を産む可能性が高い】


「水色魔石だと!」


俺はモンスター図鑑の一文を一瞥した後にアンジュの髪の色を凝視した。


そう、アンジュのボサボサの髪は薄汚れているが、確かに水色なのだ。こいつは希少種のフェアリーである。


水色魔石。それはエリクサーを作るのには必要な素材で、超レアな素材である。


万能薬エリクサーが高級なのは、その効力だけが原因ではない。この水色魔石がなかなか手に入らないからである。




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