第20話【クエスト完了報告】

俺たちはゴブリンの洞窟から出ると正面の広場まで進んだ。そこにはアビゲイルに討伐されたゴブリンたちの死体が転がっている。


すべてのゴブリンの死体からはランジェリー下着が剥ぎ取られて片耳が削がれていた。そして、アビゲイルがランジェリーが入ったチェストボックスの前で畏まりながら言った。


『こちらの荷物は如何なされますか、マスター』


「そうだな、異次元宝物庫に仕舞って運ぶか」


そう言うと俺は左腕に嵌められたリングをひとつ外してアビゲイルに差し出した。


「アビゲイル、お前はマジックアイテムが使えるのか?」


『どうでありましょう。試してみますか、マスター』


「ああ、これを嵌めてみろ」


俺が差し出したのは異次元宝物庫が封印されている魔法の腕輪だ。これを嵌めたものが異次元宝物庫のオーナーとなって異次元宝物庫の扉を開け閉め出来るのである。


そして、俺がアビゲイルに渡した腕輪は大きめのタンスサイズが収納できるLサイズの異次元宝物庫であった。少し高級品のマジックアイテムだ。


「へぇ~、アトラスって異次元宝物庫を持っているんだ~」


呑気に言うアンジュが腕輪を嵌めるアビゲイルを見守っていた。そのアンジュに俺は自慢気に返す。


「当然だろ。俺は大魔法使い様だからな。異次元宝物庫のひとつやふたつ持っているのは当然だろうさ」


そして、異次元宝物庫の腕輪を嵌めたアビゲイルが異次元の扉を開いてみせる。


「おお、開いたわ」


確かに開いた。俺たちの前に漆黒の扉が開いて見せる。その中身は空である。もともと冒険で何か回収出来るものがあったら使おうと思っていた異次元宝物庫の予備であったからだ。


「よし、そこにチェストボックスを入れて町まで運ぶぞ、アビゲイル」


『はい、畏まりました、マスター』


アビゲイルは軽々とチェストボックスを抱えると異次元宝物庫の闇の中に荷物を仕舞い込む。更にゴブリンの耳が入った袋も異次元宝物庫内に収納した。


「これで良しだな。二人とも町に帰るぞ」


『畏まりました、マスター』


「アトラス。町ってどこに帰るのさ?」


俺の肩にチョコンっと腰かけたアンジュが訊いてきた。


「ああ、俺たちはギランタウンに住んでいるんだ。だからそこを拠点に冒険をしているってわけよ」


「ギランタウンかあ。それは大きな町に住んでいるのね」


「ちっちゃなお前には大きな町だろうけど、俺たち人間からしたら普通サイズの町なんだぜ」


本当である。ギランタウンは普通サイズの町ぐらいだ。王都に比べれば小さいほうである。


「とりあえず、ギネス村まで帰ったら馬車に乗るぞ」


「うわ~、お馬さんに会えるんだ~」


アンジュが馬の話で明るい笑みを作る。流石は森の妖精だ。動物が好きなようである。


「馬って可愛いよね。得にネチョネチョの舌で嘗め回されると最高よね!」


「あー……」


忘れていた。この妖精はビッチな上に変態だったんだ。こんな奴を使い魔に迎えて大丈夫だろうか、俺……。


「まあ、とにかく帰るか……」


「よ~~し、人間の都にレッツゴー!」


『ゴー』


こうして俺はギランタウンに帰ってきた。そして、冒険者ギルドにクエストの完了を報告しようと本部に向かうと酒場に知った顔のおっさんが俺たちを待っていたのだ。


そのおっさんは全裸でコーヒーカップを股間に被せてテーブルに座っていた。変態丸出しの格好で酒を飲んでいるのだ。


「ま、間違いない。あのおっさんだ……」


俺は項垂れながら全裸おやじに近付いた。


「よう、おっさん……」


「おお、これはこれはアトラス殿ではないか。帰りを待っていたぞ!」


「全裸で待ってたのかよ?」


「ああ、全裸と言う個性を失ったら私が誰か分からなくなると思ってな。何せあの時に私は名前を名乗らなかったからのぉ」


「確かに名前を聞き忘れていたぜ……」


全裸おやじは胸を張って名乗る。


「蚕村のモンシェール。裁縫職人のモンシェールだ」


すると腕を組んだジェシカがイラついた表情で俺らの後ろから迫ってきた。


「ちょっとアトラス。この変態おやじを何とかしなさいよ!」


「な、何とかってなんたよ、ジェシカ……」


ジェシカは眉間に深い皺を寄せながら俺に抗議してきた。まるで俺がこの変態全裸おやじの保護者のようにだ。


「ここ数日、ずっとうちの宿屋に泊まっているんだけど、どんなに言っても服を着ないのよ。だから変態のお客ばっかり来て困ってたのよ!」


アンジュが頷きながら言う。


「変態が変態を呼ぶって奴ね」


俺はアンジュの頬を指で突っつきながら言う。


「お前だってその変態の一人だろ……」


「なに言ってるのアトラス。あたいは森の妖精よ。変態のわけがないでしょう!」


「こいつ、変態の自覚が無いのかよ!」


続いてジェシカが俺の頬を指先でグリグリしながら怒鳴る。


「自覚が無いのはお前も一緒だろ!」


俺は怒るジェシカを無視しながら話を元に戻して進めた。


「まあ、なんでもいいや。とにかくおっさんから受けていた以来は完了したぜ。件の下着はすべて回収してきたからよ」


「おお、本当かい!」


「アビゲイル、異次元宝物庫からチェストを出してやれ」


『畏まりました、マスター』


するとアビゲイルが異次元宝物庫からチェストボックスを引っ張り出した。それをモンシェールは蓋を開けて中身を確認する。


「こ、これは……」


中身を確認したモンシェールの顔が引き吊った。何故なら箱の中身の下着はすべて血みどろで酷く汚れていたからだ。


更に箱の中身を覗き込んでいたジェシカも引いた表情で言った。


「な、なにこれ……。大量殺人現場から下着を盗んできたの……。アトラスつて、そこまでサイコパスな変態だったの……」


「そんなわけ無いだろ……」


俺はモンシェールに言い訳を述べる。


「俺たちが下着を回収した時には、全部血みどろでな……。いや~、ゴブリンたちも酷いことをしやがるもんだ~」


俺はすべての罪をゴブリンたちにな擦り付けた。いや、そもそもがゴブリンたちが原因なのだから間違いでは無いだろう。


「ま、まあ、良いでしょう。約束通り回収は出来たのですから。これでも洗えば売り物に成るでしょうさ。どうせ着衣するのは私じゃあないんだし、お客が知らなければ……」


「うわ、モラルの低いセリフが出たぞ、糞商人だな。まあ、しょうがないか……」


それから俺たちはジェシカにゴブリン討伐完了を告げて、ゴブリンの耳を提出すると報酬の代金を貰うと冒険者ギルドを後にした。


そして、屋敷に帰る前に魔法ギルドに寄るとファミリアの儀式に使う魔法陣を買い込んでから屋敷に戻った。


これからアンジュと使い魔の契約を結ぶ。この儀式が済めばアンジュは正式な俺の使い魔だ。ファミリアと言うだけあって、これで本当の家族に成るのである。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る