第18話【お人形のような妖精さん】

俺はゴブリンの洞窟前にある腰掛け岩に座りながらアビゲイルに指示を出す。


「アビゲイル、ゴブリンたちから下着を剥ぎ取ったら箱に戻しておいてくれ。それからゴブリンたちの右耳を刈り取ってくれないか。ゴブリン討伐の証拠品として持ち帰るからさ」


するとゴブリンの死体からブラとパンティーを剥ぎ取ったアビゲイルが下着を俺に見せながら言う。


『マスター。下着がゴブリンの血で汚れています。このままチェストにしまいますか。それとも洗濯してからしまいますか?』


確かにアビゲイルが見せる下着はゴブリンの鮮血を浴びて血みどろになっていた。これでは売り物にならないだろう。だが、俺が受けた依頼は下着の回収だけである。汚れているいないの有無は俺には関係無い。


「まあ、洗濯は依頼者の仕事だ。俺たちには関係無いからそのまま箱にしまっておけ」


『畏まりました、マスター』


そして、アビゲイルが下着回収と耳削ぎ作業をやっている隙に俺は洞窟の中を覗き込んだ。少し漁ってみる。


「なんか、珍しい物でもないかな~」


洞窟は岩の斜面に出来た狭い穴蔵である。横幅が20メートルほどで奥行きも15メートルぐらいしかないワンルームであった。


しかも目立った物は殆ど無い。藁を集めただけの寝床に焚き火を炊いていたと思われる炭が散らばっているだけだ。


それに何より臭くて堪らない。ウンコの香りがモンモンと漂っている。よくよく観てみれば床のあちらこちらにウンコが散らばっていた。


「こりゃあ、臭いなあ……。んん、おや?」


俺が洞窟内を見回していると岩の棚に鳥籠がひとつ置かれていた。中に何か居る。


「な、なんだ?」


俺はウンコが散らばる洞窟の中をウンコを踏まないように壁際の鳥籠まで近付いて鳥籠の中を覗き見た。


すると鳥籠の中に小さな人形があった。それは膝を抱えながら丸くなっている。大きさは俺の頭と同じぐらいだろうか。髪の毛の色は汚れているが水色だ。


「なんだ、これ?」


鳥籠の中の人形には背中から羽が映えていた。トンボのような透き通った羽である。


だが、人形自体は小汚ない。薄汚れて泥だらけの服を着ている。髪の毛だって水色で美しいはずなのにボサボサである。


俺が不思議そうにそれを観察していると、それが僅かに揺れた。動いたのだ。


「動いた。生き物なのか?」


俺は軽く鳥籠を揺らしてみる。すると鳥籠の中の人形が頭を上げた。


その表情は窶れて目の下にも隈を作っていた。何よりボサボサの髪の毛のせいで浮浪者のように伺える。


窶れた人形は体育座りのまま俺を見上げると死んだ魚のような瞳で語りかけてきた。


「に、人間な、の……?」


「しゃべった! こいつ人語がしゃべれるのか」


俺が驚いていると人形が俺に助けを求めてきた。


「お願い、あ、あたいを、助けて、ちょうだ、い……」


力少ない声だった。まるでしゃべるのがやっとと言った感じである。相当に弱っている様子。


「ああ、分かったよ」


俺は言いながら鳥籠をパカリと上から開けてやった。しかし人形は膝を抱えたまま動かない。逃げやしない。いや、逃げ出すどころか動く体力すら無いようだ。


「ちっ、仕方ねえな~」


俺は異次元宝物庫を開けると中からヒールポーションを取り出した。それを人形の頭からぶっかけてやる。


すると人形が一瞬だけ淡く光った。ヒールポーションが効いたのだろう。


もしもヒールポーションが効いたのなら、こいつは人形じゃあない。生き物だ。だとするならば、このサイズなのだから妖精なのだろう。


俺は妖精を見るのは初めてだ。そもそも人間とは生息圏な違うからなかなか見れる物でもないのだ。


確かモンスター図鑑には妖精が一種だけ記載されていたはずだ。ウッドフェアリーだったかな。名前の通り森に住む妖精だ。


そして、俺が妖精の様子を伺っていると、妖精が元気良く頭を上げた。その表情からは目の下の隈が消えており、驚きで相貌を見開いていた。


その顔は窶れていたころと比べて可愛らしくなっている。


「あ、ありがとう、人間。助かったわ」


「おまえ、こんなところで何をしてたんだ?」


「ゴブリンに捕まって、食べられるところだったの……」


「そうか、それは命拾いしたな」


「う、うん……」


なんか妖精の様子が可笑しい。逃げればいいのになかなか逃げない。


「おい、もう逃げてもいいぞ。俺は妖精なんて食べないからさ」


「ほ、本当に……?」


「本当だ」


「恥ずかしいこともしないのか?」


「恥ずかしいことって……?」


妖精さんは気恥ずかしそうに華奢な身体を動かしながら言う。


「人間の生◯器を無理矢理あたいたちの生◯器に捩じ込んで楽しんだりとか……」


「おまえ、そんなことがされたいのかよ……?」


「あ、あんたが望むなら、あたいは吝かでもないよ……」


「だ、大胆な妖精だな……」


頬を赤らめながら言う妖精は恥ずかしがってはいたが自ら望んでいるかのようにも見えた。


だが、そんな誘惑的に振る舞う妖精さんは、俺の煩悩には引っ掛からない。何せ華奢で貧乳だ。俺の好みはジェシカみたいなムチムチボディーなのだから。何より身体のサイズが違いすぎる。


でも───。


「こ、この妖精さんはふしだらだ!」


「助けてもらったお礼に、ペロペロだってして上げるよ。あんた、あたいのタイプたしさ……」


俺の脳裏に直感が走る。


「こいつ、ビッチだな!」


この妖精さんはビッチだ。しかもR指定されそうなぐらいのビッチだぞ!


そして、更に過激なことを口走る妖精さん。


「もしもあたいがあなたのをペロペロしたら、あなたもあたいのをペロペロしてくれる。出来れば乱暴にさ」


だーめーだー!


こいつ、完璧に変態だ!!


ド変態な妖精さんだぁぁあああ!!!


これは、とんでもない妖精を助けてしまったぞ。どうしよう。処分に困ってしまう。



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