第16話【ゴブリンとの戦闘・前編】

ゴブリンの洞窟前で件のゴブリン11匹と向かい合うアビゲイル。


ゴブリンたちは手に粗末な武器を取り威嚇に牙を剥いている。それに対してアビゲイルは無表情を涼しげに済まして礼儀正しく立ち尽くしていた。


流石はゴーレムだ。11対1という数的に不利な状況に臆していない。そもそも臆する感情すらアビゲイルは持ち合わせていないのだろう。


それを見守る俺は森の中に潜んで状況を伺っていた。念のために異次元宝物庫からショートソードを取り出して武装はしている。しているが、俺は剣士ではない。マジックユーザーだ。剣技なんて専門的には習っていないからお飾りに等しい。まあ、ショートソードはお守りである。


何故にお守りに頼るかと言えば、俺はマジックユーザーだが、ゴーレム系の魔法以外は殆ど使えない。戦闘に使用出来るような攻撃魔法や防御魔法は習得していないのである。


何故にって?


完全にスキルポイントをゴーレム系魔法に全振りしているからだ。


まあ、才能が片寄っているから天才なんだよね。てへぺろ。


そして、ゴブリンたちと向かい合うアビゲイルが頭を下げてお辞儀した。頭を上げるアビゲイルがテレパシーで語る。


『ゴブリンの皆様方には誠に申し訳ありませんが、ここで皆様を討伐させてもらいます』


「「「キョェエエエエエ!!!」」」


畏まるアビゲイルに対して奇声を上げて威嚇を見せるゴブリンたちが各々が持った様々な武器を翳して騒ぎ立てる。


その姿はおぞましい。蟹股で跳ねている。


ゴブリンの身長は150センチぐらいの小柄で細い体型。なのに頭が少し身体と比べて大きい。そして、その表情は小鬼のように悪意が見られる。


しかも、その身体は小汚ない。全身が赤だらけで離れていても家畜のような悪臭が漂ってくる。


そのような身体に女性用のランジェリーな美しい下着を纏っているのだから奇っ怪だ。否、場違いだ。


今回のミッションは、ゴブリンの壊滅のほかに、現在ゴブリンたちが着込んでいるランジェリーな下着の回収である。


ってか、なんでこの糞餓鬼どもは下着を着込んじゃうかな。面倒臭い仕事が増えてしまったじゃないか……。


俺は嫌だよ。死んだゴブリンの体から女性用の下着を丁寧に脱がすなんて作業はさ。マジ、キモいじゃん。


どうせ脱がすなら ジェシカのようなムチムチエロエロの美少女からセクシーな下着を脱がしたいってもんだ。皆だってそう思うだろ。


まあ、ゴブリンを討伐するのも、ゴブリンから下着を剥ぎ取るのもアビゲイルにお任せだから俺には関係無いんだけれどね。本当にアビゲイルが居てくれて助かったぜ。


「さてさて、それではアビゲイルのお手並みでも拝見しますか──」


俺が森の中で潜みながら呟くとアビゲイルが構えを築く。その構えは冒険者ギルド本部でドリトルが見せたボクシングの構えと瓜二つだった。


左足を前に、頭と腰を低く落とし、両拳を眼前に並べた攻撃的なファイトスタイル。ボクシングで言うところのインファイターの構えである。


「もしかしてアビゲイルはボクシングで戦うのか?」


俺が疑問に思った刹那、戦闘が開始された。数匹のゴブリンとアビゲイルが同時に飛び出す。


だが、速いのはアビゲイルだった。蟹股で飛び迫るゴブリンと、低空でダッシュしたアビゲイルとでは速度が違った。


そのダッシュもドリトルが見せたフットワークを摸倣した動きだった。おそらくアビゲイルは冒険者ギルドでの一戦からボクシングの足裁きも学んだのだろう。流石は桃色水晶球だ。学習能力が非常に高いな。


そして、戦闘で飛び出したゴブリンとアビゲイルが激突した。硬くて生々しい音が響く。


途端、アビゲイルの眼前からゴブリンが一匹弾き飛ばされた。それは物凄い速度で後頭部からひっくり返って地面をゴロゴロと転がったのである。


しかも、転がったゴブリンが止まると寝転んだまま痙攣している。更にその顔は鼻が陥没して顔面がへこんでいた。へこんだ鼻や口から血反吐を吹いて周囲を鮮血で汚している。


アビゲイルのストレートパンチだ。その一発のパンチでゴブリンをKOしたのだ。否、一発KOどころでは無い。一発でゴブリンを殺害したのである。


「すげぇーパンチ力だぜ。あんなので殴られたら顔だってへこむわな……」


アビゲイルの放った一撃必殺で静まり返る洞窟前。アビゲイルの強打を目撃したゴブリンたちの足が止まっていた。しかし、アビゲイルの攻撃は止まらない。滑るようなフットワークを生かしてゴブリンたちに迫り寄る。


「ギョェエエ!?」


そして、仲間が瞬殺されて呆然としていたゴブリンの眼前にアビゲイルが迫った。


『シュ!』


ジャブ。


今度は瞬速の速度で放たれるアビゲイルの左ジャブだった。それはまるでフラッシュの如く素早くゴブリンの顎を正面から叩いた。


ゴブリンは顎先を叩かれた瞬間に視界を白く濁らせる。その白銀の世界で大きな衝撃を顔面の中心に感じていたのだろう。


それは、骨が砕かれる響きと、肉が押し潰される感触が混じりあった激痛。白銀の視界が次の瞬間には真っ黒に染まっていた。闇である。


「ゴハァ……」


ボクシングで説明するならワンツーパンチ。ジャブの次にストレートパンチを組み込んだコンビネーションの基本技だ。


そして、打たれたゴブリンは顔面を陥没させながら後ろに倒れた。失神している。いや、死んでいるのだろう。動かない。


またもや瞬殺。僅か二撃でゴブリンの二匹目を撃破したのである。


撲殺だ。


アビゲイルに打たれた二匹の共通点は顔面の陥没。アビゲイルの拳は肉が木材で骨が鉄骨だ。更に筋力は筋力強化魔石四つ分で強化されている。それはハンマーで殴り付けられたのと代わらない打撃だろう。


そんなパンチの持ち主がドリトルからボクシングの技を盗んで使っているのだ。メリケンサックを装着してなくっても同等の破壊力は有しているだろうさ。


それは一撃二撃のパンチでゴブリンだって玉砕してしまう。マジで恐ろしい。





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