第15話【ゴブリンの洞窟】

現在俺たちは森に囲まれたゴブリンの洞窟が見える丘の上で潜みながら待機していた。


ゴブリンの洞窟まで100メートルちょっとだろうか。その間に森が広がっている。


そして、高台のこちらからはゴブリンの洞窟が良く見えるが、向こうからはこちらの様子は伺えないだろう立地である。


そんな丘の上で俺とアビゲイルは腹這いで潜んでいた。俺の手には望遠鏡があるからゴブリンの動きまでもが良く見える。


ゴブリンの洞窟は岩の斜面に横長の亀裂が走っただけの洞窟であった。幅30メートルほど、奥行き15メートルほどの大きな穴である。


洞窟と言うから迷路のような洞穴を想像していたが、思ったよりも質素な洞窟だった。野外から洞窟の中が見渡せる程度の深さと広さである。


まあ、リアルに考えれば、これが普通の洞窟なのかもしれない。鉱山のようになった洞窟なんて、本来珍しいのかも知れない。


この勘違いはファンタジー小説ばかりを呼んでいる現代社会の若者ならばありきたりな妄想なのだろう。


本来の洞窟のほとんどが、このようにショボいのが現実なのだ。


そもそも洞窟と洞穴の違いを知っているだろうか?


洞窟とは自然に出来た穴である。一方、洞穴とは人工的に掘られた穴である。トンネルや鉱山などが洞穴に該当する。


だから依頼書に洞窟と記載されていた段階で、ベテラン冒険者ならば、このようなことは想定出来たのだろう。


「これはダンジョンを探索っていう感じじゃあないな……。少し詰まらないがゴブリンたちをさっさと壊滅して、略奪品を回収して帰ろうか……」


俺がガッカリと項垂れていると、ゴブリンたちの動きから目を放さず監視していたアビゲイルが報告してくる。


『マスター。ゴブリンたちが略奪品だと思われる箱を漁り始めました』


「ええ、本当かよ。あいつら散らかすなよ。あとで回収するのが面倒になるじゃあねえか……」


言いながら俺が望遠鏡でゴブリンたちの様子を伺うとアビゲイルが報告してくれたとおり、ゴブリンたちが木箱を漁って女性用の下着を取り出していた。


そして、ゴブリンたちは、その下着を穿き始める。


「おいおい、穿くな! 汚れる!」


ゴブリンたちはシルクやレースのお色気パンツを穿くと小躍りして見せる。穿き心地が良いのか歓喜していた。中にはお揃いのブラを装着しているゴブリンまでいやがった。


「け、汚れた……。あのお色気満点な下着の数々がゴブリンに汚されていく……」


『マスター、どういたしますか。今すぐ襲撃致しますか?』


俺は望遠鏡を覗き込みながらパンティーを装着してはしゃぎ回るゴブリンたちの数を数えた。その数は11匹だ。


「ゴブリンの数は11匹だけど、行けるかアビゲイル?」


『問題ありません、マスター』


「ならば、行くぞ。そして、パンティーたちを助け出すんだ!」


『了解しました、マスター』


俺とアビゲイルは一回後退してから森に入るとゴブリンたちの洞窟方面に進んだ。出来るだけ足音を殺して、気配を消して接近を試みる。


そして、ゴブリンたちの洞窟と森との境目までたどり着いた。ゴブリンたちは俺の接近に気付いていない。それどころか居眠りしている者も多かった。


ゴブリンとは夜行性が高いモンスターだ。だから彼らにしてみれば、夕暮れにもなっていない今の時間代は深夜から早朝の時間帯のはずだ。だから見張りもお粗末だったのだろう。


そして、俺は森に潜みながらアビゲイルに命令を下した。


「アビゲイル、ゴブリンたちを皆殺しにして来い。出来るだけ一匹も逃がすなよ」


『了解しました、マスター』


ゴブリンを取り逃がすってことは、ゴブリン討伐の不完全な達成になってしまう。報告しなければ誰にも分からないことだが、初冒険の依頼を俺は完璧に達成したかったのだ。だからゴブリンたちを一匹も逃がしたくない。


それにゴブリンを取り逃がすってことは、ゴブリンたちが装着しているエロエロ下着すら救出出来なかったことになる。それもなんだか悔しかった。


なのでここは壊滅あるのみである。


そして、森から姿を晒したアビゲイルが腰の前で手を組ながら歩んで行った。その仕草は気品溢れるメイドの歩みである。森の中で、ゴブリンの洞窟の前で見せるような素振りではない。


そして、静かに歩み進むアビゲイルに気が付いたゴブリンの一匹が奇声を上げた。その奇声に驚き他のゴブリンたちも武器を手に取る。


森から歩み出て来たメイドの人間。ゴブリンたちにはアビゲイルがゴーレムだと理解できていないだろう。だから不思議そうに警戒していた。


何故に人間の娘が一人で自分たちの巣に現れたのか?


その疑問が理解できない。だからゴブリンたちが逃げ出すと行った選択肢を取ろうとする者もいなかった。それどころか唐突に現れた雌型の人間に股間をおっ立てているゴブリンまで居やがる。


俺は呆れながら呟く。


「まさに本能だけで生きているモンスターだな」


そして、手に手に様々な武器を持つゴブリンたちがアビゲイルに迫って行った。


ゴブリンたちが持っている武器は粗末な物ばかりだ。鉈や薪割り斧、木の槍や木の混紡ばかりである。お手製の原始的な武器か、農具のような物ばかりであった。


だが、このゴブリンたちは普通と違うところがある。それは全員が高価でスケスケなランジェリー下着を身に付けていることであった。


それが、不思議なぐらいおぞましくも見えたのだ。ゴブリンの癖に高級女性用下着姿──。なんかスゲーむかつく。


俺は森に潜みながら感想を述べる。


「所詮はランクCの依頼だ。敵の強さも底辺なんたけど、下着姿がむかつくわ……」


静かに立ち尽くすアビゲイルに武器を手に取った下着姿のゴブリンたちが近付いて行く。その表情は狂犬のような眼差し。鼻の上に深い威嚇の皺を寄せ、ダラダラと涎を垂らしながら牙を剥いている。完全にアビゲイルに向かって襲いかかる気満々だ。


森のブッシュに隠れる俺は緊張感に殺した声を漏らす。


「始まる──」


アビゲイルvs下着姿のゴブリン11匹。


ゴブリンの洞窟前で1体多数の戦闘が始まろうとしていた。


本当にアビゲイルは勝利出来るのだろうか?


それにゴブリンを一匹も取り逃がさずに討伐出来るのだろうか?


ここでアビゲイルの戦闘力が鑑みれるだろう。貴重な一戦である。





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