第11話【初めての依頼】

昼食代わりに鶏肉とエールを胃袋に流し込んだ俺は掲示板の前に立っていた。掲示板を見上げる俺の横には淑やかに振る舞うアビゲイルが付き添っている。


そして、学校の黒板サイズはあるだろう横長の掲示板には複数の依頼書が貼り付けられていた。


掲示板に貼られた依頼書の内容はランク付けされている。下はEランクから上がAランクだ。


今現在は貼られていないがSランクからSSSランクもあるらしい。


まあ、SSSランクになるとドラゴン退治レベルになるらしく、冒険者ギルド全員で挑んでも勝てないレベルらしいのだ。ドラゴンとは神にも近い存在なのだろう。


「さてさて、どんな依頼があるのかなぁ」


俺は一枚一枚掲示板の依頼書を読んでいく。依頼書の内容は様々だった。


Eランクの仕事は町の周辺で薬草採取などの簡単な仕事ばかりで、Cランクの仕事からモンスター討伐依頼などが増えていく。


討伐依頼のほとんどが人間の居住区側に巣を作ったモンスターの退治ばかりだ。


この世界のモンスターは森に入れば直ぐに遭遇するし、平原や街道などに出現するモンスターも少なくない。場合によってはアンデッドモンスターだって珍しくないのだ。


だから旅の商人は複数人でキャラバンを組んだり武装してコンボイを築いて旅をする場合も少なくないのである。


一歩でも町の外に出てしまえば過酷な自然が広がっている。それは俺が前に生きていた世界よりも残酷な大自然なのだ。


それだけこの世界ではモンスターが間近である。故にモンスターで命を落とす人々も少なくない。だから冒険者たる職業が成立するのだろう。


それに俺が本業で作っている萌え萌えフィギュアの素材である木材も冒険者ギルドに依頼して採取してもらってきている物らしい。俺はそれを問屋から購入しているから詳しくは知らないけれどね。


『マスター。どのような仕事からデビューするのですか?』


掲示板の依頼書を眺めていた俺にアビゲイルが問い掛けてきた。俺は依頼書を眺めながら答える。


「まずはCランクの討伐依頼からかな。俺たちは二人だけで旅をするから、あまり最初っからハードルの高い依頼は受けないぞ」


『畏まりました、マスター』


すると後ろで俺たちの話を訊いていた人物が声を掛けてきた。


「なんだ、お前ら二人だけで冒険に出るのかよ」


「んん?」


俺が振り返ると知った顔の人物が立っていた。


短髪黒髪で頬に派手な刀傷が刻まれた男は上半身だけのプレートメイルを纏っている。


確かこいつはスカーフェイスって言う冒険者だったはず。昨日は敵意満々で俺の前に立っていた男が今はフレンドリーに話し掛けていた。昨日の醜態が嘘のようである。


スカーフェイスは中の良い友人のように俺に問い掛けてきた。


「お前さんはパーティーは組まないのか?」


俺は掲示板のほうに向き直すとスカーフェイスの質問に答える。


「仲間は面倒臭いから一人で旅に出たいんだ。それに俺の目的はお金じゃあないからな。経験を欲してるんだよ」


「何を意味が分からんことを言ってやがるんだ、少年」


俺は首だけで振り返るとスカーフェイスと目を合わせてから言う。


「呼び方はアトラスでいいよ」


「じゃあ俺はスカーフェイス先輩で構わないぜ」


俺は面倒臭いのでテンションをスカーフェイスに合わせてやる。もう同じギルドの仲間なのだから名前で呼び合っても構わないだろう。


だが、絶対に先輩なんて呼んでやらないけれどね。


そして、俺は掲示板から一枚の依頼書を手に取った。それはゴブリン討伐の依頼書である。ランクはCだ。


その依頼書を覗き込むスカーフェイスが助言する。


「おいおい、始めての冒険がゴブリン退治で大丈夫なのか。しかもちゃんとしたパーティーを組まないでゴーレムちゃんと二人で受けるのだろう。やっぱり最初は薬草採取とかが良くないか」


「依頼書の内容を見るからに洞窟に巣くうゴブリンが10匹程度だろうさ。それならアビゲイルの戦力だけで余裕だろう。問題ない」


だが、スカーフェイスは俺の手から依頼書を摘まみ取るとその依頼書をヒラヒラと振りながら言った。


「この洞窟は昔っからある洞窟でな。数ヶ月起きに何かしらのモンスターが入れ替りで巣くうスポットなんだよ」


「入れ替りで巣くう?」


「巣くっているモンスターを討伐しても、数ヶ月後には別のモンスターが直ぐに入居する人気スポットなんだよ」


「なんだ、それ?」


「洞窟に巣くうモンスターを討伐しても、洞窟は残るだろ。その洞窟に直ぐに別のモンスターが引っ越してくるって感じの洞窟なんだぜ」


「なんだよそれ。そんな洞窟は、さっさと埋めてしまえよ」


「俺も初心者なころに何度かお世話になった洞窟だ。まあ、初心者パーティーの人気スポットでもあるんだけどな。でも、二人で10匹のゴブリンを相手に立ち回るのはキツくないか」


そしてスカーフェイスはアビゲイルに視線を移しながら述べる。


「それにゴーレムちゃんは強いから問題ないが、お前はどうなんだ。お前は強いのか?」


「俺の強さが問題なのかよ?」


「だってそうだろう。ゴーレムちゃんは複数のゴブリンと戦いながらお前の身を守れるのかい。ゴブリンたちにお前さんとゴーレムちゃんが分断されたら不味くないか?」


「パーティーの分断は二人だろうと複数だろうと変わらないピンチのはずだ。それに俺だってマジックユーザーの端くれだぜ。自分の安全は自分でそれなりに守れるよ」


「だといいんだけれど……」


スカーフェイスは納得いかない表情で依頼書を俺に返してきた。その依頼書を受けとると俺はジェシカが立つ受付カウンターに向かった。正式に依頼を受ける。


「さて、最後は消耗品を買って帰ろうか」


俺は買ったばかりのモンスター図鑑を異次元宝物庫に入れる。


異次元宝物庫とは冒険者だけでなく旅商人などの間で重宝されている倉庫系のマジックアイテムである。


それは指輪や腕輪などに加工されたアクセサリーの外観をしたマジックアイテムで、異次元に繋がる倉庫であった。


収納出来るスペースはアクセサリーのサイズでことなるが、指輪サイズの異次元宝物庫でも財布袋からタンスサイズと様々とある。だが、アクセサリーのサイズが大きいほどに収納スペースが広くなる性能だ。


俺が持っている異次元宝物庫は腕輪サイズが二つである。そのスペースは洋服タンス程度の部屋が一つずつの腕輪であった。


もちろん指輪と腕輪で収納スペースが異なるのだが、値段も数倍となってくる。


それに異次元宝物庫の優れている点は大きな物を持ち運べるだけでなく、異次元宝物庫内が魔力で保存されていることが最大の利点だ。


簡単に言うと異次元宝物庫内は時間が止まっているのだ。だから中に入れている物は風化しないし腐りもしない。ただし酸素も無いから生物は生きていけないと言った欠点もある。


故に旅の途中で異次元宝物庫内に避難して雨宿りを試みるなどは出来ない。そこまで万能でもないのだ。


それから俺とアビゲイルは雑貨屋を回って消耗品を買ってから屋敷に帰った。ランタンの油や食料品の類いである。


テントや毛布の必要品は冒険者になるんだと決めたころから少しずつ揃えていたから問題ない。そして屋敷に帰るとそれらを最後にチェックしてからベッドに入った。


明日は始めての冒険だ。俺は頑張るぞと意気込みながら眠りに落ちる。



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