第3話【高性能メイドゴーレム】

俺は屋敷に支えているメイド長のドロシー婆さんを呼び出すと完成したばかりのアビゲイルを紹介する。魔法仕掛けのアビゲイルを紹介されたドロシー婆さんは目を丸くして驚いていた。


「おやおや、まあまあ。この大きなお人形さんがゴーレムなのですか」


アビゲイルはテレパシーで受け答える。


『よろしくお願いいたします。名前はアビゲイル四式と申し上げます。どうぞアビゲイルとお呼びくださいませ』


「お人形さんなのにお名前があるのね。凄いわぁ。しかも口を動かさずにしゃべれるなんて摩訶不思議ですわね」


俺はアビゲイルの肩に手を添えるとドロシー婆さんにお願いする。


「済まないがアビゲイルにメイド服を用意してもらえないか。いくらゴーレムでも裸で置いておくのはいたたまれるからさ」


『私は全裸でも構いません』


「いや、こっちが困るんだよ」


するとドロシー婆さんが丁寧な口調で言った。


「畏まりました、坊っちゃん。メイド服ならば御古が数着ほど予備が有りますので直ぐに用意出来ますとも」


「頼むよ、ドロシー婆さん。あとしばらくの間、アビゲイルを預かってメイドの仕事を指導してもらえないか」


「彼女をメイドとして屋敷に置くのでありますか?」


「ああ、しばらくはね。それとコックのヨーゼフにお願いして、調理もアビゲイルに仕込んでもらいたい」


「畏まりましたわ。それではメイド服を着せたら、早速仕事についてもらいますわよ」


「頼んだぜ、ドロシー婆さん」


するとアビゲイルがテレパシーで言う。


『これは花嫁修業ですね。早くマスターに嫁げるよう頑張ります』


「違うがな……」


こうしてアビゲイルが屋敷で働きだして五日が過ぎた。


俺は朝食の席でドロシー婆さんにアビゲイルの調子を訊いてみる。


「なあ、ドロシー婆さん。あれからアビゲイルの様子はどんな感じだい?」


俺の質問にドロシー婆さんは深い溜め息を吐いた後に元気少なく答えた。


「わたくしの自信が揺らぎますわ……」


ドロシー婆さんは小さな声で返答した。皺だらけの顔がしょぼくれている。


「どう言うことだ。やっぱりアビゲイルにはメイドの仕事はキツかったか?」


「いえ、違います。その逆ですわ……」


「逆?」


「アビゲイルさんはメイドとしてもはや完璧です。もう教える仕事が何一つ有りませんわ。ベッドメイキングも清掃も、料理までも一通り完璧に習得しましてね。しかも効率は抜群。更には眠らないで仕事をこなせるためにわたくしのやることがないくらいです……。このままではわたくしが失業してしまいますわ……」


「失業って、それは無いから安心してくれ」


「はい、坊っちゃん。感謝いたします……」


「なるほどね。アビゲイルの性能は一流並みなのか」


これは好都合だ。これで俺の旅立ちも早まったってものである。冒険の間は俺の身の周りの面倒を見てもらえるぞ。


するとドロシー婆さんが話を変える。深刻な表情で俺に問い掛けてきた。


「ところで坊っちゃん。アビゲイルさんにひとつだけ問題が御座いまして」


「なんだ、やっぱりひとつぐらいは問題があるんじゃあないか。でえ、それはなんだ?」


「それが、なんですがね……」


ドロシー婆さんは言いにくそうに助言した。


「アビゲイルさんは、ノーパンノーブラなんですよ……」


食事を食べていた俺は口の中のスープを吐いた後にスプーンを皿の中に落としてしまう。


「それは、本当か……」


「はい、坊っちゃん……」


俺は側に立つアビゲイルを爪先から舐め上げるように上へ上へと見回してから言った。


「じゃあ、何か。調理中も掃除中もベッドメイキング中も、外に買い物に出る際もノーパンノーブラでアビゲイルは闊歩していたと言うのか……」


「はい、そうでありますわ……」


「むむむぅ。な、なんてふしだら!」


俺が妄想に興奮しているとドロシー婆さんが提案する。


「どうでしょう、ここは町に買い物に出て下着を購入してきては如何でしょうか?」


俺の顔面が瞬時に沸騰して赤くなる。


「俺自らが女性物の下着を買ってくるのか!?」


「いや、アビゲイルさん本人が買い物に出ればよろしいかと」


「あいつに正しい女性物の下着が選べるのか、ドロシー婆さんよ!?」


「それは分かりません」


「ならば、同伴が必要だろう!」


「それが一番かと」


「ならば仕方有るまい。俺が同伴して下着を購入してこよう。問題無いな!」


「却下いたします」


「却下された。何故だ、ドロシー婆さん!?」


「お金をお預けいたたければわたくしが同伴して下着を購入してまいります」


「だから、なんで俺だと駄目なのさ!」


ドロシー婆さんは真面目な表情で言う。


「もしも坊っちゃんが美少女ゴーレムを連れて下着を買いに行けば、更に坊っちゃんの変態説が町で高まりますわ」


「なに、俺って町で変態だと思われているの!?」


「それは当然でしょう。何せ屋敷に引きこもって如何わしい彫刻を生業にしているだけでなく、ゴーレム作りの魔法使いとして名前が売れているのですよ。変態だと謳われても仕方ありませんわ」


「畜生……」


俺は強く拳を握り締めた。まさか自分が変態だと後ろ指を指されているとは思いもしなかったからだ。


だが、考えてみれば当然の結果かも知れない。


何せ俺が作る彫刻は現代アートと言うよりもオタクが好むような萌え萌えキュンキュンなフィギュア風なのだから。しかも露出度の高い美少女ばかりを作っている。


この世界の芸術品とはかけはなれ過ぎていて卑猥と言われても仕方有るまい。


良く良く自分を遠巻きから客観的に見てみれば変態の部類に思えてきた。


そんな俺が実寸大人型美人ゴーレムを連れて女性物のエロエロでスケスケのおパンツ様とおブラ様をセットで数着買い込みに行ったら、そりゃあ変態だと思われても仕方有るまい。


って、それは変態説が確定する瞬間ではないか……。ドロシー婆さんの助言は正しいだろう。


だが、ここで俺だってあとには退けない。たかが変態と言われようとも自信作のゴーレムが着衣する下着ぐらい買いに行けなくて何がゴーレムマスターだ。その程度で挫けていては天童の名が廃る。


するとアビゲイルがテレパシーで言った。


『私はノーパンノーブラどころか全裸でも構いませんが』


「いやいや、全裸はあかんだろ……」


そして朝食を終えた俺は財布を懐にしまうとアビゲイルを連れて町に出る。


屋敷の玄関前で俺はドロシーに言った。


「では、ドロシー婆さん。買い物に行って参る!」


俺は自信と興奮を心に秘めて屋敷から一歩踏み出した。


「お気をつけまして、坊っちゃん……」


礼儀正しく頭を下げてメイド長に見送られた俺は、ノーパンノーブラのアビゲイルを連れて町に繰り出した。


目的地は女性の下着売場だ。


本日がアビゲイルの初御披露目である。


今日が、この天童ゴーレムマスターであるアトラス様の新たな伝説が始まる瞬間であった。





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