第4話【二人でお買い物】
俺はアビゲイルを連れてギランタウンのメインストリートを歩いていた。
ギランタウンは高い防壁に囲まれた城塞都市で人口は約一万人が生活している。主な収益は貿易だが、塀の外には麦畑が広がり農業も盛んな町でもあった。
「久しぶりだな。町を歩くのも」
俺はメインストリートに並んだ露店の賑わいを眺めながら呟いた。そんな俺の後ろをアビゲイルが静かについてくる。
その姿は一見普通のメイドに伺える。
腰まである長い黒髪。ガラス玉とは思えない美しい瞳。細くて華奢だが、完璧なまでに人間の動きを模倣した歩みは、どこから見ても麗しいメイド娘であった。アビゲイルはロボットのようなカクカクした動きはしていない。
これでテレパシーなんかでしゃべり際しなければ人形だとは気付かれないだろう。アビゲイルの擬態は完璧に近い。
そして、俺が路上を進んでいるとストリートチルドレンの子供たちに囲まれて、訳の分からないガラクタを売りつけられそうになるが、一言「うるせぇ。そんなガラクタ買うか」っと凄んで見せると子供たちは直ぐさま散っていく。
俺の身形は金持ち風の上等な洋服を纏っていた。それにメイドまで引き連れて歩いているのだ。貧乏な子供たちから見たらボンボンの馬鹿息子にでも見えるのだろう。カモだと思われて寄ってくるのだ。
「それにしても、この世界の町は相変わらず汚いな……」
この世界のどこの町も同じようなものである。町のあちらこちらに貧困層の子供たちが溢れている。臭くて汚い。
モンスターに親を殺されたり、戦争で住むところを失った子供たちだ。産みの親に見捨てられて街角に捨てられた子供たちも少なくないだろう。
この世界では貧困の差が激しい。様々な理由で不幸な子供たちが溢れているのだ。
俺だって不幸な子供たちを救ってやりたい。やりたいが、数が多すぎるのだ。それをすべては救ってやれない。
それに一人を救ってやれば他の子供たちが不平を溢しながらすがってくる。それらを公平に助けていたらこちらが破産してしまう。
それに彼らはすがるだけで生きる技術を学ぼうとしない物が多い。一度助けたら次も助けてもらえるものだと勘違いして生きる。その結果、人を騙してまでも救いを求めようとし始めるのだ。
これは俺が昔生きていた日本では有り得ない感覚である。だが、この世界の貧乏人は、そのように考えるのだ。そこから正さなければならないのは苦難である。片手まで出来る問題ではない。少なくとも、それらを改善する方法を俺は知らない。
世界を救う。その課題は並大抵では出来ない大問題だ。それは俺以外の転生者にお任せである。
この異世界は、魔王を倒せば世界が平和になる。そのように単純な仕組みでもないのだ。
俺に今出来ることは、新たな人生を真っ当することである。その仮定で世界を少しでも幸せに出来れば、それに手を貸す程度であろう。
「さて、女性物の下着はどこに売っているのかな。買ったことがないから分からんぞ」
これだけは男の子に産まれて彼女が居ない歴36年プラス16年の若造には難しい問題だ。彼女どころか母親と一緒に下着すら買いに行ったことがないんだもの。こんなことならドロシー婆さんに付いてきてもらえば良かったかも知れない。
ここでその辺の女性に下着売場を訊くなんてことも出来ないだろう。そんなことをしたら、それこそ変態だと思われてしまう。
「困ったな……」
そう呟いて俺が首を傾げているとアビゲイルが道の先を指差しながら言う。
『マスター。あちらに目的の物があるのではないでしょうか』
「えっ」
俺はアビゲイルが指差す先を凝視した。そこはガラス張りのショーウィンドウに綺麗なドレスが飾られた店だった。店構えからして高級品を揃えていそうな感じである。貴族や金持ちのための店であろう。
「おお、ここなら下着も売ってそうだな。寧ろここで売られてなかったらどこに売っているか謎だぞ」
俺は店の扉を開けると店内に堂々と入って行った。俺の後ろにアビゲイルも続く。
店内には女性用のドレスが煌びやかに並んでいた。どれもこれもが高級品に伺える。
そして、俺が店内に入ると中年の女性店員が対応してくれた。
気品に溢れて上品な洋服を着たおばさんだった。売り物ほど高価そうな服を着ていなく、かと言って粗末な服でもない身形だ。服屋のてんいんとしてバランスが取れている。
そして、店員のおばさんは揉み手をしながら俺に近づいて来た。
「これはこれはお客様。何かお探しでしょうか?」
店員のおばさんは俺の身形から金持ちだと察したのだろう。若造を相手にしながらも丁寧に対応してくれていた。
なので俺は率直に言う。
「済まないが店員さん。後ろのメイドに下着を数着ほど見繕ってもらいたいのだが」
店員のおばさんは俺に指差されたアビゲイルを見ると一瞬だが動きを硬直させた。直ぐにアビゲイルが人間じゃあないことに気が付いたのだろう。
まあ、まじまじと見られるとアビゲイルが木製の人形なのはバレバレなのかも知れない。
そして、店員のおばさんはアビゲイルのスタイルを観察するように見回した後に俺に言った。
「お客様は、どのような下着が好みでしょうか?」
おそらく店員のおばさんは人形よりも人形の持ち主に趣味を訊いたほうが明確だろうと考えて俺に訊いてきたのだろう。
俺は首を傾げながら聞き直す。
「好みとは?」
すると店員のおばさんは分かりやすく説明してくれた。
「まずは素材ですね。シルクとかレースとかいろいろとございますよ。それに色です。白、黒、赤、ピンク。選り取り見取りですわ。デザインも様々ですよ」
「ん~、良く分からないな。サンプルを見せてもらえないか」
俺がそう言うと店員のおばさんは少し微笑みを引きつらせた後にサンプルの下着を数着ほど店の奥から運んで来るとカウンターの上に並べた。
実に彩り取りの下着が上下のセットで並べられている。それは清楚系からセクシー系までといろいろと揃っていた。
その中には紐パンツや変なところに穴が開いている機能的に謎の下着も混ざっていた。子供の俺には難しい下着である。
俺は技とらしく子供な口調で質問した。
「ねえ、店員さん。この穴はなんなの?」
「お客様、それは訊かないでください……」
「俺は童顔だが、もう16歳だ。だから説明してくれても良いだろうさ」
店員のおばさんは言いずらそうに答える。
「それは別のお店で学ばれたほうがよろしいかと思います……」
「まあ、いいや。なあ、アビゲイル。お前はどれが好みなんだ?」
俺がアビゲイルに問い掛けると彼女が並べられた下着を覗き込んだ。だが、どれも選ばない。
『私はマスターの好みで構いません』
「そうなのか……」
アビゲイルがテレパシーで話しているのを目の当たりにして店員のおばさんは驚いていた。
まあ、当然だろう。町に住んでいる限りゴーレムすら見るのは珍しいのに、それが人型で、更にはテレパシーで会話をするのだ。仰天しても不思議でもない。
「この際だ、これを全部くれ。全部アビゲイルに着てもらってピンっと来た物を今後の専用にしようじゃないか」
『畏まりました、マスター。そのように致します』
「店員さん、全部包んでくれ」
下着の大人買いである。金持ちの特権だね。
「か、畏まりました……」
店員のおばさんは少し戸惑いながらもカウンターの上に置かれていた下着を紙袋に包んでくれた。俺は支払いを済ませる。
「女性物の下着を初めて買ったけれど、結構値段が張るんだな。馬鹿にはならない金額だぞ」
そしてアビゲイルが店員のおばさんから商品が入った紙袋を受けとると言う。
『マスター。今現在私はノーパンノーブラなので、早めに下着を装着したほうがよろしいでしょうか?』
「そうだな、折角買ったんだ。直ぐに装着するか。なあ、店員さん、ここで装着してもよろしいかな」
「は、はい……。こちらに婦人用の試着室がございますので、どうぞ……」
顔を引きつらせた店員のおばさんがアビゲイルを試着室に案内してくれた。そしてしばらくするとアビゲイルが戻ってくる。
『お待たせしました、マスター』
「もう、着て来たのか?」
『はい、店員さんに装着の仕方を教わりまして、無事に装着出来ました』
言いながらアビゲイルがメイド服のスカートを捲し上げる。そこには黒レースのおパンティーが輝いていた。
やっぱり、生のおパンティーよりも装着しているおパンティーのほうが輝いて見える物なのだな。ひとつ勉強になったぜ。
そして、アビゲイルの後ろに立つ店員のおばさんが更なる商品をおすすめしてきた。
「お客様、こちらのメイド殿はストッキングを掃いておりません。ストッキングはいかがでしょうか?」
「ストッキング?」
「こんな感じの穿き物です」
店員のおばさんは白と黒のストッキングの他にガーターベルトをカウンターの上に並べた。それは大人っぽい誘惑的な下着だった。
そして、店員のおばさんが説明してくれる。
「ご婦人のお客様は冬になると大変肌寒くなるので、このような下着を装着するのですよ」
「ガ、ガーターベルトにストッキングか……」
これはエロイ!
「とりあえず、ここに並べた物をすべて頂こう!」
「有り難うございます」
店員のおばさんは丁寧に頭を下げた。そして、俺が店を出る姿を満面の笑みで見送ってくれる。
どんなに変態なお客様でも上客には丁寧な接客を心掛けているようだ。良い心掛けのお店である。
「またのお越しお~」
こうして俺とアビゲイルは店を後にした。本日の目標は達成されたのである。
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