第3話 敵は、宇宙の竜
合体———そのキーワードに胸をときめかせない男の子はいないだろう。
「この戦闘機、合体するんですか? カナたん」
「ああ。
再び戦闘機を片手で指し示すカナたん。逆の手ではひたすら目の前のコンソールパネルをカタカタ叩いている。
「あ~……そういう感じか……」
ロボットアニメとかでよく見る、後半から出てくるパワーアップツール。そのパイロットが俺というわけだ。何故だか劇中では大抵、余っているキャラクターが……戦闘時にロボットに乗らずに時間を持て余しているキャラが乗ったりする。
俺は隊長……そういうことか。
今まで余っていたローニン隊長に役目を与えた、そういうわけか。
「まぁ、いいか」
ロボットには乗れない。それでもサポートメカの戦闘機に乗って、ローニン隊の女の子たちと合体でき、助けになる。
それはそれでいい役目だと思う。
「よし、できたぞ。乗り込みたまえ!」
「了解!」
カナたんに促されるままに戦闘機のコックピットに飛び込み、操縦桿を握りしめる。
コックピットの中はモニターが多く、細かなボタンが付いているパネルが座席の左右に設置されているが、概ね過去の時代の戦闘機のコックピットと変わらない。スティック状の操縦桿で機体の動きを操作するようだ。
ゲーセンでやったのと同じような要領でできるはずだ。
「……ん?」
乗せられるままに戦闘機、ゴスペルに乗ったけれど本当に俺、戦いに出るの?
死なない?
「やっぱやめ———、」
「発進!」
急速に上から
ゴスペルが急上昇しているのだ。
真っ暗な景色が目の前に広がり、点々としたライトが流れ星の様に見えたと思ったら消えていく。エレベーターの中を急速上昇しているような感覚だ。シートに強く押さえつけられ続け、吐きそうになるが———やがてガコンという音と共に機体が停止する。
目の前に———広がる大宇宙。
光————。
「うわ……」
ひたすらの、ひたすらの———無限の光。
闇などではない、ただただまぶしい景色がそこにはあった。
幾重にも重なる星雲と銀河。それぞれが小さな光る星の集まり。何とも言えない———光る星々の作り出す幻想的な美しい〝光景〟が、俺の目の前に広がっていた。
これが———宇宙。
「宇宙って闇じゃなかったんだ……」
こんなに眩しいものだったとは……。
『隊長! 行きますわよ!』
スピーカーから大きなお嬢様言葉が響き、ビクッと体が揺れる。
少し視線を下に向ければ操縦桿前に設置されている小モニターに五人の女の子の姿が映し出されている。
さっきの言葉を発したのは、金髪の巻髪の少女だ。
『行くぜ! 隊長! 号令をかけろ!』
荒々しく発破をかけるのは褐色の肌にピンク色をした髪のアラビアンな雰囲気がある少女。
『……行くの』
緑髪のお人形さんのようなおかっぱ頭が控えめに急かし、
『君たち! 隊長が困っておられるぞ! 急かさずに待て! さ、隊長!』
真面目そうな眼鏡のポニーテールの少女が信頼の眼差しと共に頷く。
『……行こう。ロニ』
最後にセレナが静かに声をかける。
「……あぁ」
首を横に向ける。
女性型のロボットがずらりとずらりと並んで、出撃を今か今かと待っている。
全機、俺の乗るゴスペルも含めて
長いレールの先には、光満ちる大宇宙。
俺が号令をかけると、急速で発射されるというわけか……。
よし———この部隊の名前は、ローニン隊だったな。
「ローニン隊、発進‼」
『『『『『了解!』』』』』
ローニン隊の少女たちが俺の声に応え、TGがレールの上を高速で滑走し———大宇宙へと射出されていく。
そして———、
「—————ッ!」
俺の身体にかかる猛烈なG。
ゴスペルもまた、レールの上を走り、大宇宙へと放り出される。
俺は少し慌てたものの、操縦桿を握りしめ、機体の制御をしてみる。
「ゲームと同じような感覚でできるな……」
ゲーセンに置いてあった第二次世界大戦を舞台にした戦闘機シミュレーター。あれをプレイしていてよかった。操作感はあれとほとんど変わらない。
初めてだと言うのに、体が覚えているように宇宙戦闘機をまるで自分の体の様に操作する。
鳥になったようだ。
『大丈夫?』
セレナの声が聞こえる。
モニターに、まだローニン隊のみんなの顔が映し出されており、全員これから戦闘に向かうという緊張感からか微笑を浮かべつつも強張った表情をしていた。
セレナが心配そうな顔で俺を見つめている。
そうだ———戦闘にこれから、命がけのやり取りをするというのに、ずっと俺の様子はおかしかった。だから心配しているのだろう。
「ああ、安心しろ。大丈夫だ!」
『そう、なら良かった———』
嘘だ。
本当は心配でいっぱいだ。
これから戦争をするというのだ。
それを必死に考えないようにして、これから「俺はゲームをするんだ」と、心の中で何度もつぶやいていた。
そう、思い込んでないと今すぐにでも逃げ出してしまいそうだ。
緊張する。
「フッ……」
そんな時は力を抜いて、気楽に構え———冗談でも一つ言って緊張をほぐそう……。
「それにしても……みんな、おっぱいねぇな……」
『『『『『はぁ⁉』』』』』
スピーカー越しに五人の女の子の怒りの声が響く。
『いきなり何を言い出しているんですの⁉』
よくよく見れば、それぞれのローニン隊の女の子の画面の下には名前が表示されている。
巻髪のお嬢様は———ミルカ・ヘルモット。
『てめぇ! 殺されてえのか⁉』
褐色肌でピンク髪の少女は———アリア・レイナード。
『……ヘンタイ』
おかっぱ緑髪の幼女は———サイ・メソッド。
『隊長! セクハラは戦闘後に。私でしたらいくらでも付き合いますから』
真面目そうな眼鏡の彼女は———レリエル・フォンドー。
『……大丈夫そうね』
そして、ジト目を向けて来る(恐らく)幼馴染の少女はセレナ・チェリッシュ。
よくもこれだけ、それぞれ個性的な女の子たちを集めたものだ。
そして、全員高校生ぐらいに見えるがよくもこれだけ胸のない面子を集めたものだ。
いや、それが普通なんだが、もうちょっとSFの未来世界なのだから、夢のある(欲望ともいうが……)ビジュアルが欲しかったと、男心に思ってしまう。
『じゃあ———備えましょう、敵はもう目の前よ!』
ローニン隊が機体を下方へ向け、船団の正面下に展開されていた———敵部隊を視界に入れる。
「あれが———
本当に———竜だった。
翼を持ち鋭い牙の生えた
さながら、コウモリの大群の様に———。
『倒そう、ロニ。敵を。敵を倒して昔々に住んでいた私たちの
セレナの言葉にハッとする。
ドラゴンの大群の後ろには大きな球体があった———。
大きな、大きな———丸い星。
『———私たちの故郷を、地球を』
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