第13話 決闘


「葛生……お前……」


「おうおう、誰かと思えば釘張クンじゃないかぁ! 元気にしてたかい?」


 葛生はその鋭い眼光をニタニタと曲げながら、こちらを嘲笑する。舐めやがって。


「ああ、おかげさまでな」


 こいつだけは、絶対に忘れられない。あの時の俺が、忘れさせないだろう――


――


「葛生くん、返してよ! 僕の大事なものなんだ!」


 葛生は僕の手から、お年玉で買ったカメラを取り上げ、それをポケットに入れた。


「へん! ノンスキルのお前が何言ってんだ! ダンジョンなんて行けないお前には、こんなカメラなんて必要ないんだよ!」


「そ、そんな……」


「みんな、そう思うよな!」


 葛生は周りの取り巻きに呼びかける。


「そーだそーだ! 雑魚の釘張は黙ってユウくんにカメラを渡せ!」


「やーいノンスキル!」


「「「ノンスキル! ノンスキル!」」」


「ひ、ひどいよ……」


「ひどい? 馬鹿野郎! 俺にものを献上出来て、幸せだろうが!」


 葛生は怒号を飛ばしながら、僕の腹目掛けてパンチをしてきた。痛い。思わず涙が漏れる。


「雑魚! 雑魚雑魚雑魚! お前は生まれた時点で、負けなんだよ!」


「う、う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


――


 くそが。今思い出すだけでも胸糞悪い。こんなことが、毎日毎日毎日、永遠行われていた少年時代。その主犯格である葛生。まさに、クズ中のクズ。関わるだけ、無駄。


「悪いが、急いでるんだ。通してくれないか」


「おいおい、何寝言言ってんだ?」


 その時だった。下腹部に、鈍い痛みが走る。あまりに速いそれに、俺の反射神経は対応出来なかった。葛生の拳だ。何度も、何度も食らった味。身体が覚えている。


「ぐっ……ふゥ」


「まぁ、御託はいいからさ……金、よこせよ」


 葛生は醜悪な笑顔を見せながら俺の胸ぐらを掴んだ。でも、ここでスライムを使ったら……最悪、こいつを殺してしまう。抑えろ、怒りを。


「ヤダって言ったら?」


「ダンジョンに連れて行ってお前をボコす。ここで受けるのとは勝手が違うぞ?」


 確か、こいつはスキル『筋肉暴走マッスルミュージカル』を持っているはず。これは、単純に筋力、五感など、あらゆる身体能力を強化するB級スキル。シンプルだからこそ、強い。


 でも、俺のスライムには及ばんな。


「いいぜ。行こうよ、ダンジョン。PVPしようぜ」


「お前、正気か!? 俺は登録者30万人の最強格配信者だぞ!? お前なんかが勝てるわけ……」


 30万人で最強か。ふん、甘いな。


「とりあえず、行こうよ。やってみなきゃ、わからんだろ」


 葛生は「意味わかんねぇ」だの「頭おかしい」だのほざいていたが、渋々納得したように自転車にまたがった。


――


「PVPルームへようこそ! ご利用はおふたりで?」


「はい、そうです」


 そう言って俺は小銭を取り出す。葛生は財布を出す仕草すらない。仕方なく、俺は2人分の金を出した。


「ありがとうございます! それでは中へお入りください!」


 係員の誘導に従い、俺たちは門の奥へと進んだ。まるで、ダンジョンの入口そっくりだな。


「俺が飼ったら払えよ、金」


「狂言もここまで来ると鬱陶しいな」


 へ、言っとけ。


――


「ここがPVPルーム……」


 俺は周りを見て唖然とした。辺り一面、白い壁。まるで、ロープによる仕切りがないプロレスのリングだ。


 PVPルーム――その名の通り、対人戦を行うためだけに作られた場所。限りなくモンスターが少ないダンジョンを改修して作っている。教科書で見たことはあるが……まさかこんな場所だったとは。


「お前のリンチを全世界に配信するけど、いいよな?」


「ああ、構わないよ。その代わり、俺も配信させてもらうがな」


「は? お前が? ……たく、ほんとどうなってんだか」


 ま、これは了承ってことでいいだろう。俺はそそくさとバッグに入っていたカメラを取り出した。


「はいどうも! ブレイクチャンネルのユウだ! 今日は〜何か知り合いの陰キャが喧嘩売ってきたからボコしますw」


 ふん。何が陰キャボコす、だ。まぁ、こんなこと言っても許されるのは、あいつの視聴者がガラ悪いからだろうな。ホムラのところでやったら、やばい。


「よし、準備完了……」


 俺は大きく息を吸って……配信開始のボタンを押した。


「どうも、スライムヒーローです。緊急で配信回してます」


 さぁ、どうだ……? どれだけの視聴者が来てくれるか……


《お》


《ゲリラ来た》


《スライムだ!》


《何するん?》


 お、なかなか来てくれたな。同接は……5万! 上々すぎる! 登録者30万人でも、同接1万を稼ぐのは難しいからな。それも、ゲリラ配信で。


「今日は……知り合いに街中で喧嘩売られたので、受けてみました」


《マンガじゃん》


《てか相手ブレイクのユウじゃね?》


《うわ、大物やん》


 やはり、葛生はそこそこ有名みたいだな。これを圧倒してこそ、盛り上がるってものだ。


「ふん、準備はいいか?」


「ああ、何時でもこい」


 俺は葛生が戦闘態勢に入ったことを確認し、軽く腰を落とす。さ、どう来るか。


「いきなり行くぜ……はぁっ!」


 葛生は爆上げした身体能力を活かし、右手を突き出しながらロケットのような勢いでこちらに飛び込んでくる。この勢いの乗ったパンチは、凶悪だな。


 だが、俺にはあいつがいる――


「スライム!」


「既にぬかりない」


 葛生の拳が身体を捉える、刹那にも満たない瞬間とき――俺はその核弾頭を右手で押さえ込んだ。


「な、何……!?」


「はん、どうして驚いてるんだ? 俺は雑魚じゃなかったのか?」

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