第12話 回遊


「ということで! 見事C級初挑戦で華麗な勝利を見せたスライムくんに大きな拍手を! チャンネル登録も忘れずに!」


「それでは、ありがとうございました!」


 俺はぺこりと頭を下げた後、配信停止のボタンを押した。


「くぅ〜! やっぱり凄いね、釘張くんは!」


 あ、こっからはもう釘張なのね。褒めてもらったことは素直に嬉しい。何せ、相手はあのホムラなのだから。


「ほら見て! 数字もすごいことになってる!」


 ホムラはスマホを指差しながら言った。そんなに凄いのか。俺も確認するため、配信アプリを立ち上げた。すると――


「な、なんじゃこりゃ……」


 視聴回数80万回、同時接続者10万人、チャンネル登録者20万人。これは、あの『1回きり』の配信で稼いだものだ。


「ほらね! 言った通り! やっぱり君は凄いんだよ!」


「はは……どうも」


「ん? どうしたの、そんな浮かない顔して。なんか、悩み事でも?」


 ホムラは顔を覗き込んで言った。別に、不満とかじゃないんだが……はは、ホムラにはやっぱりバレちゃうか。


「いや、俺は今の今まで、ずっとノンスキルだったんですよ。だから、こうして配信出来て、視聴者の方に見られているのが、なんか、現実感がないというか……夢なんじゃないかって……」


「ふっふー、そういう事か〜」


 俺の言葉に、ホムラは不敵な笑みを浮かべた。


「それじゃ、釘張くんのチャンネル登録者数が50万人超えたら、デートしてあげる!」


「え……」


 今、ホムラ、なんて言って……で、デート!?


「ほ、ほげ、ほげほげぎえぴあああああ!」


 俺、また頑張らなくっちゃ!


――


「それでは、今日は終わり。そろそろ部活動決めとけよ。それじゃ、さようなら」


 下校の挨拶とほぼ同時に、俺はバッグを背負い教室を後にする。


「むむむ……」


「何を悩んでいる?」


「うわっ! お前、危ねぇなぁ……」


 いきなりスライムが出てきたものだから、びっくりしてしまった。幸い、周りに人はいなかった。俺はそそくさと人目のつかない場所まで行く。


「それで、何を悩んでいる」


「部活だよ、部活! 正直、何をやろうかなって……」


 運動は好きだ。でも、運動部なんてなってしまったら配信の時間なんて取れない。中学では野球部だったが、もし高校で野球なんてやろうものなら……


「こういう時こそホムラに聞いてみればいいんじゃないか?」


「あ、それ名案」


 そうだ。生徒会長かつ配信業もあるホムラに相談するのが1番いい。スライムにしてはいい案だな。


「じゃ、明日聞いてみるか」


 俺はそう決め、駐輪場まで急いだ。


――


(うーん、部活か……)


 それは、俺が悩み事をしながら自転車をこいでいる時であった。


「おい、どけよ!」


 急に、前から猛スピードで自転車が突っ込んできた。それも、怒号を飛ばしながら。


 このままではぶつかる――そう思った瞬間、無意識に身体が反応した。対向車にも、壁にもぶつからない微妙なライン。人間業ではない。スライムか。スライムが助けてくれたのか。


「危ねーぞガキ!」


 運転手の男は自転車から降り、さらに怒号をぶつけてきた。流石の俺でも、苛立ってくる。


「なにをー! そっちが危険運転したんだろ!」


 どんな面してやがんだ? 俺はじっと、奴の顔を覗き込む。


 俺の目に入ってきたのは、切れ長の目をした、人相の悪い男の顔だった。眉は太く、少しのそばかすが目立つ、よくある顔。


 だが、俺はこの顔をよく覚えている。


「お、お前は……」


「あん……あ! き、貴様は……」


 あの男の正体、それは――小学校の時、ノンスキルであった俺をいじめてきた奴らの主犯格、葛生遊くずうゆうであった。

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