第6話 始まりの国 リスタット編
ドゥウウウン
仁王立ちした暴君を前に俺は溶け掛けたあいすくりーむを前にして地べたへ座する事を余儀無くされていた
「分かってるわね?」
「へい…」
なんなのだ…
なんなのだこの圧倒的劣勢感は!?
珍しくクラマもリーンに怒られているな
内容はちょっと聞こえないが
恐るべし…
だがしかし俺はコイツの弱点を知っているのだよ
「うちにはそんな余裕ないんだからね!贅沢は敵よ!」
「でもこれ全部こっちのお姉さんの奢りだぞ?」
ふははは!
どうだこの顔の変化は!
怒りの表情からみるみるニヤけていくじゃないか
おっと恥ずかしいのか?
恥ずかしいのか?
そのニヤけてる顔は誤魔化せてないけどな
「……奢り…ですって!?」
「おうさ!細かい事は省くが今日はウチの奢りで食べ放題でい!おたくさんはマオのツレかい?」
「ツレ…と言うかコンビのパーティと言うか…はい」
◇
◇
◇
その後もなし崩し的にクロワに押されて借りて来た猫の様にユシアは静かだった
何か苦手な要素でもあったのか?
人見知りでは無いはずなんだが…
ふむ
これは研究のやり甲斐があるかもしれんな
それはさておき食べ放題とは言え、甘い物はそう食べられる物ではない
俺とクラマはお目当てだった「あいすくりーむ」を2回ほどおかわりさせて貰ってからはずっとパンを齧っていた
「そう言えばクラマもマオも気を付けるのだ」
パンスとルギサはDクラス冒険者だった
Eクラスへと指は掛かっているらしいが、2カ国以上の王族や貴族、もしくはギルドマスターの承認が必要らしくほぼリスタットから出ない彼女達はそれで満足しているらしい
この国ではそんなに強い魔獣も現れない。
Cクラスにでもなれば更に良い依頼を求めて旅立っていくのが普通、と受付のお姉さんは話している。
ただし活動拠点と決めると住み着いてくれる冒険者もいるみたいだ。
この2人はそんな貴重な活動拠点をリスタットに置いてくれている高ランク冒険者でギルドからも重宝されているとクロワが教えてくれた。
そんな先輩冒険者からの忠告だ
「最近ジョバンノ洞窟で物盗りがあったらしいから気を付けるのだ」
「物盗り?」
「そうなのです。Sクラスのマオさんはまだいけないのですが、先程聞くとそれ以外のお三方は行けますからね」
「自分より弱い冒険者のアイテムとか装備を丸々剥がしていっちゃう悪い奴らなのだ」
「ふーん?…ふん?お三方?」
クラマとリーンは分かる
後もう1人は誰だ?
まさか…そのまさかなのか!?
「おいユシア。お前」
「あ、あ〜…そう言えば言ってなかったわねえ」
俺がゆっくりと振り向くのと同時にユシアもサッと目を合わせないように首を逸らす
目の中で魚が泳いでいるだと?
一体どんな魔法を使っているんだ!?
「ふん!あんたがいつまでも草に苦戦してるのが悪いんでしょ!」
「ぐはっ!?」
「それにいつまでもお師匠様にこんな継ぎ接ぎだらけの外套を着せてないで、仕立て屋さんに注文した物でもプレゼントしたらどうなんですの?」
「え?それはなんか冒険者っぽくて結構お気に入り…」
「黙れ甲斐性無しめえ!」
「はっはい!」
「だいたい貴方はお師匠様に対してまるでなってないですわ!」
「くぅ〜…」
◇
◇
◇
プチプチッ
プチッ
「くっそー。リーンの奴後でみてろよ」
何故かこんこんと説教が始まり奴のボルテージが最高潮になった結果がこれである
再試験
Sクラスだけは1日に2回受けることが出来る。
ただし、リスタット周辺の一定量のゴミ拾いと草むしりが必須
クラマが教えてくれた薬草ポイントから少し外れた場所で草むしり中だ
リスタットの外壁に沿った場所でだいたい外壁辺りから生えているのが雑草だと思うのだが…
なかなか上手く抜けん!!
ユシアは言っていた
「雑草は根こそぎ取らなきゃまた生えてくるのよ!」
なんと面倒な
親玉をやっていた頃に嬉々としてやっていた配下共はそう言えば火魔法使ってたな…
待てよ…!!!
そう言えば魔法禁止なんてルールは無い!
ふふふ…
ふははは!
昇格試験愚かなり!!
この俺様に魔法使用を禁止しないとは愚かだぞギルドめ!
本来自分の持って生まれた才能や知恵、技能の集大成である昇格試験なので魔法も才能の一つなのだが…
「ふんふーん…これで良し」
より確実に雑草を抹殺する為、俺様は珍しくもマーキングを掛けてそこだけに威力を集中するようにした
範囲はもちろん外周全部だ
今回は口うるさいユシアも居ないし充分な火力で駆逐してやろうぞ!!
「さあゆくぞっ」
Donッ
夕暮れの空にリスタットを覆い隠す程の赤い魔法陣が広がり、魔力でのマーキングを掛けていた最初の部分から小さな炎が走っていった
Doooo……
空の魔法陣が徐々に回転し始め、走って行った炎が外周から戻りリスタットを囲む一つの円となった
大地に響き渡る業火をもって灰燼と成せ
ゴッ
円となった炎は更に大きくなり、空の魔法陣が幾重にもなって回転し一つの大きな風の輪へと変化する
「あーはっはっはっは!根本まできっちり灰になるがいい!墜ちろ!!」
墜ちろの一言で空にあった風の輪がストンっと浮力を無くし、下にあった円の炎に激突した瞬間に炎が渦を巻き天を衝いた
「ふははは!燃えろ燃えろー!!…ついでにユシアの奴も間違って燃えてくれると面白いんだがなー」
パッカーン
どぅあ
どぅあ
どぅあ
俺は何者かの襲撃を受けてそのまま業火渦巻く中へと殴り飛ばされた
まぁ俺が近付いたのを気付かない奴は今は1人しかいないんだが…
「う゛ぅうあっつ!あっつ!!あ゛ぁあはああ!!!!」
「バッカじゃないの?」
「うるせえ!もっと気ぃ使ったとこに殴り飛ばせちくしょう。あ゛〜せっかくの冒険者っぽい外套も少し燃えてしまったぁあ」
「しょうもない事言ってんじゃないわよ。今あんたのお陰でリスタット中大変な事になってるんですからね!!」
「はぁ?たかだか草焼いたくらいで大袈裟な」
ガシッ
「ちょっと来なさい」##
◇
ヴンッ
「ほら!見なさいよ!」
「ほらって?…」
うむ
この国を一望出来る時計塔の上に転移魔法で連れて来られたが
我ながら完璧な魔法だ
本来ならば城壁の中は火の渦によって蒸し地獄と化して人間だろうが魔獣だろうが仲良く蒸し焼きが完成する
しかーし!何と言うことでしょう
唸る暴風と猛る熱波を防ぐ完璧なまでの魔法障壁!
そして魔法に憧れる子供達も大興奮するスペクタクルな光景!!
ふははは!
「これの何が悪」
スパコーンッ
「あだっ」
「悪い事だらけでしょ!下を見なさいよ下を!」
襲撃に備えろー!!!
何処の国の襲撃だ!?
女子供は家に入れろ!
魔法師団は城壁で障壁急げー!
騎士団は物資を運べ!
「…何故だ!?」
ピキピキッ##
「何故だ!?じゃないんですけど?ん゛ー?そりゃぁ平穏な生活を送ってる人々がこんな非日常な光景に巻き込まれたら混乱するに決まって居るでしょう!」
「い、いや。俺の記憶じゃ割と日常茶飯事だったし…」
「年中同族、異種族関係無しにドンパチやってた所と一緒にしないでくれるかしら!全くもう!早く消して!」
「で、でも雑草は根本までやらないとダメなんだろ?」
「この炎で一瞬にして焼かれない雑草があってたまるもんですか!ほら早く!今すぐやる!」
「お、おう」
パチンッ
マオが指を弾くと国を囲んでいた炎の渦は止み、再び平穏な夕暮れの光景に戻ると街の人々は安心し始めたのか恐る恐るではあるが落ち着きを取り戻したようだ
「あんたはもう!全くもう!」
「あははは。でもいいじゃんほら、綺麗に雑草は根絶やしになったぞ!」
「外周に生えてた薬草の類もですけどね!」#
はっ!?
俺はユシアの一言に一筋の汗を流した
「も、もももしかして…クラマの教えてくれた薬草ポイントは」
「ふふふ。当然!もちろん!当たり前に!綺麗サッパリと根絶やしになったわよ?」
「…薬草に薬草使ったら復活しないかな?」
「復活するわけないでしょ!」
「ですよねー。あははー…はぁ」
「ほんと目を離すとすぐこれなんですから。まぁ一カ月もすればこの騒ぎも収まるでしょ?人間逞しいもんよ。そして、そんなあなたに朗報よ!!」
ばばんっと一枚の紙を胸元から取り出し「私に感謝しろ」とでも言いたいのか胸を張っていた
「あー、どれどれ…」
「ふふーん。その汚れた
『薬草の都 採取依頼』
「ほほう!これはっ!まさかあの!?」
「ね!良さそうでしょ?」
「…何をするんだ?っごふぅ!?」
″右ストレートが不覚にも右頬にクリティカルヒットして、俺ともあろう者が無様な声を出してしまったではないか〟
「声に出てますから!カッコ悪いわよ。それでね?書いてあるんだけどここは…」
ユシア曰く
リスタット国領内にある徒歩で3日程
領内の都町村にも回復用、状態異常用の薬草を出荷している薬草の聖地とでも言える場所だと…
そして薬草の神様と呼ばれている女性が居ると言う
「薬草の神様!?……名前は?性格は?年は?」
「なんだってそんなに気になってるのよ?知らないわ。私だってついさっきこれ見つけたんだもの。さっ、行きましょう?」
「って今かよ!?」
「当たり前じゃないの。こんな事した責任取りなさい!だなんて言った所であんたどうにか出来る?」
「あ、いや、まぁそうなんだが…」
言った所でSクラス風情と信じて貰えず
実際に見せれば危険分子として投獄
訴えにくる市民達や休暇だった兵士や冒険者への金銭の補填
行動制御出来ると思えば人間武器として薬物投与されて思考停止の生きた屍の出来上がり
と言う所か
ふむ、と実際に考えうる可能性を挙げてみたが一つも良いものが無い
行き着いた答えは…
「良し行こう!今すぐ行こう!」
リスタット国内が騒然としている中、2人は薬草の都へと旅立つ
◇
その同時刻
豪奢な部屋の中で4人の異形の者達が円卓に等間隔で置かれた椅子に座り話し合っていた
「それにしても久しぶりだねえ?オレっち達揃うのって何十年ぶりかな?」
笑っていたり、怒っていたりとバラバラな仮面で体が構成されている者
「HAッHAッHA!ウリの筋肉を震わせる程の凄まじいパトスッ!興奮して目覚めざるおえマイ!」
筋骨隆々の体躯を持ったカブトムシ
「筋肉は相変わらず暑苦しいのでアール」
キラキラと輝く装飾を施したハットを被り、ぶかぶかな緑色の研究服を着た女の子
「コーツコツコツコッツ!魔王様がお休みになられてから660と5年。そろそろ新たなる魔王様が誕生しても良いのでコッツがねえ」
四対の翼がついた骸骨
フイラーノがそこにいた
4人は新魔王が産まれない事に悩み、良い案が思い付くまで各々好きに休んでいたが、マオの火草葬禍の莫大な魔力を感じ取って緊急で集まっていた。
「それには私に良い案がございます」
部屋全体に男性の声が響き渡り、円卓の中心に一筋の光りが差す
光のモヤが地面から現れるとそこから長い金色の髪をした修道服に似た物を着た男が現れた
「…誰なんスカー?いきなりだなんて…殺しちゃうよ?」
「まぁまぁ黙って私の考えを聴きたまえ」
コツンと持っていた錫杖を地面に突くとその音の波は大きな波動となり4人は壁に縫い付けられた
「さぁ静かになった所で矮小なるキミ達へ神の力を分け与えてあげよう」
「あっ……がっ…!!」
「凄まじい…御仁…ダガ、何が狙い…ダ」
気を抜けば押し潰されるであろう重圧の中、筋骨隆々なカブトムシは侵入者へと問い掛けた
「私は裁定の神レフルである。私は矮小なるキミ達に、私の目的を遂行する為に付き合って貰う事を決めた」
「我…々を…舐めて貰っ…ては……困るでアール!!!」
ぶかぶかな研究服を着た女の子は体に力を入れ反撃を試みるが…
「辞めておきたまえ」
「ゔっ!?」
金色の帯が4人の首から下に巻き付き、体の感覚が無くなってしまった
「…ふぅ。キミが暴れそうだから連帯責任で全員の体の時間を喰わせて貰ったよ?…って言ってもまだ理解出来ないだろう。何、簡単なことさ、キミ達は私のお願いを聞いてくれるだけでいいんだ。大罪人の弱体化と未来の戦乙女へのお仕置きを手伝って貰いたくてね」
その間にもジリジリと強まっていく重力波に4人の意識は途切れそうになっていた
「ふふふふ……ふははははは!!さぁゲームを始めようか!私を痛め付けた借りは大きいぞ!!!」
レフルはいつの間にか手元に持っている4つの珠を眺め、更に下卑た嗤いをするのであった
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