第5話 始まりの国 リスタット編

「はーい。昇格試験の薬草採取ですねー。それでは精査しますのでお預かりします」


ゴクリ…


クラマ達と色々あって数日後

俺はついにBランク昇格試験を受けていた


クラマの奴に戦闘訓練を施すと言う契約で、代わりに薬草の見分け方を教えて貰っていたのだ

毎回じゃじゃ馬娘達のヤジが邪魔だったが、今回は自信がある


何せ薬草しか生えて居ない場所をクラマから教えて貰ったからな!

はっはっは

間違えようが無いだろう

持つべきものは何とやらなのだ


ほらほら

合格通知をお姉さんが持って来たぞ


「凄いですよマオさん!これまでに無い成果でしたよ!」

「っふ」


「おめでとうマオ!」

「まぁそこら辺の石ころよりは評価してやっても良くってよ」

「遅いのよ。今日はあんたの奢りでお祝いね!」


2名程何を言っているのか分からないが、まぁまぁまぁ


さぁ結果を!!!



「結果は不合格なんですけどねー。はは」


「「「「……」」」」


「なにぃ!?」

「あ、あんなに教えたのに…」


「「ぷぷぷ」」


「ど、どう言うことだお姉さん!間違い無く薬草だったろう!?」

「いやー、薬草は薬草だったんだけどねー。試験内容は『体力回復の薬草』採取なのですよ」

人差し指をピンと立てコレ重要とお姉さんは注意をしてくれた


「マオさんの今回の内訳はただの草が1、回復薬草が7、解毒薬草が2の割合でした。いつもはただの草が4割は入ってるのでこれは目覚ましい進歩ですよ!」


「……えぇ」


「「あっははは!」」

「寧ろあの場所でただの草採って来る方が難しいわよ。。っぶふ」

「才能ありありですわねナメクジさん…ぷぷっ。万年Sクラス冒険者として名を欲しいままに馳せること間違い無しですわ!」


「くっそぉおおおお」



「燃え盛れ!ファイボーぉおおうぎゃあ!」


プゴッ

      プゴプゴッ


「ほれほれ!立ち止まって詠唱なんてしてっからどつかれるんだよ。つうかいるか?」

「うぉおおおお!そ、そんな事言われたってえー!」


昇格試験に落ちた後、ジョバンノ遺跡の裏側にあるジョバンノ森に来ていた


手頃なボアが近くに居たので今日はコイツにしようと決めたのだが…


「切り裂け!ウィンドカッふぁあ!!!」


パコーン


    プゴプゴッ


今日は魔法で倒したいらしい

それで体当たりされて数メートル飛んでいたら世話ないんだが…面白い!


確かにコイツは筋が良い

駄女神からの転生トクテンとか言うやつで人よりも成長が早く、感覚もずっと鋭い。

そう遠くないうちにあのフイラーノの奴と互角程度にはなるだろう


なので武器を使えば最早こんなボア程度ならば秒殺出来るはずなのだが、戦いに勝利条件を持つと難易度はグッと高まる


のだが…


「押し退けろ!ウォーっそぉおおい!!」


パコーン


プゴッ


「あーはっはっは!!」

「笑ってないで何かアドバイス頂戴よ〜」


今日は喧しい2人は居ない

クラマが着いて行きたそうにしているリーンを説得して今に至る

尚ユシアはクラマを信用しているようで、リーンと2人で魔法の練習をすると言っていた


それはさておき


「なら、叩き込んでやろう」

「え゛?まさか…まさか」


マオ式 魔操制糸スパルタレッスン


「う゛っ」


しゅるしゅると伸びた魔力糸がクラマの手、足、胴体、頭に刺さっていった


「魔法指南その1 詠唱はイメージを補助するものであり本来ならば必要ない」


「っ!?」


僕の頭の中に小さな火の映像が流れ込むと同時に右手はボアに向けて居た


下級火魔術ファイア


ボッ


プギャアア!!

「ウギャアア!!」


アッツイ!!

指が火傷してしまうよお

くっそお

マオはまた笑ってるし

…でもそうか

魔法って言葉に色々囚われていたのかもしれないね


鼻を焼かれたボアはガシガシと地面に擦りつけて消火をして、また僕に狙いを付けてきた


さっきは驚いて少し抵抗しちゃったし今度は全部任せてみよう


「魔法指南その2 魔力とは森羅万象悉くへと干渉して強制的に発現させる力である」


四鎖束縛影カトルレスト


頭の中にボアの影から4本の黒い鎖が現れて、ボアを地面に縫い止める映像が流れる


力を抜いてマオに任せていると先ず先に頭から熱くなる

そこから全身に巡っている魔力の元「魔素」が魔力を創る心臓へと集まって出口…今はボアに向けている右手へと向かって魔力が放出される


アニメや漫画を観ているだけじゃこの感覚は絶対に味わえない



「魔法指南その3」


「常に自分の糧となる相手には感謝を忘れるな…でしょ?」


「正解!後は出来るな?」


マオは僕に掛けていた術を解いてまた静観に戻ったみたいだ

僕の魔力でやったからボアの拘束時間はそんなに長くは無い

でも今の感覚ならそれで充分かな


「ありがとう!僕の糧になってくれて!僕はキミを倒して更に強くなるよ」


中級土魔法ニードルロック


プギャアア!!


しっかりとイメージした今の僕には詠唱なんていらない

ボコリと地面に縫い止められていたボアのお腹辺りが盛り上がって鋭い槍の様に隆起して串刺しになった


「うひょー。やっぱ成長早いねえ!やるじゃん」

「ちょっと強引だけどマオの教え方が分かりやすいからじゃないかな?」

「それでもさ。もしかしたら戦いなら俺とも並ぶ存在になれるかも知れないだろ?」

「ははは…それはちょっとイメージ沸かないかな」

「ふふふ。楽しみにしてるよ。それで?感覚は掴んだみたいだが続けるか?」


「うーん。今日はもういいかな?それでさ、実はこの前美味しそうなデザート出してるカフェ見つけたんだけど行ってみない?」

「む?そんな贅沢してるとユシアの奴に」


確かに金は持っているが、奴は用途外使用をすると必ずガミガミと怒ってくるのだ

この前だって薬草が分かる様になる魔導書が3万で売ってるのを発見して買おうとした所にチャチャを入れて来たのだ

全く!俺の金だと言うのに全く!



「大丈夫大丈夫!僕がご馳走するからさ」

「…ならば良し!早速戻るとするか!」


リスタットへの戻り最中もクラマの話しは止まらない

飲みの席でもそうだったがおしゃべりが基本的に好きらしい


ドラゴン程の高さもある搭乗式のゴーレムやら5人揃って初めて力を発揮する色取りな目立つ服装のパーティ、笑ったのは自分のせいで強制的にピンチになったのにも関わらず、才能があるからと魔道具を初対面の人間に押し付け、ヒラヒラしたドレスアーマーに変身させてしまう他力本願な妖精の話しだ


だがなかなかどうして


それぞれの物語の主人公の人生背景や性格も相まって話を聞くだけでも興味が湧いて来る


いつかコイツの居た世界に行く事があれば是非ともマンガとアニメなるものを堪能してみたいものだ



談笑をしているとリスタットに着き、例のカフェへと連れられるとギルドから割と近場にあった

普段からも目にしては居たのだろうが、自分とは関係の無いところだと意識の外にあったらしい


店内だけでは無く、テイクアウトで外に設置されているテーブルでも楽しめるようだ

何故か建物の入り口辺りが妙に新しく補修してあるのが気になったがきっと古くなって直したのだろう


そこの丁度木陰になっている場所があったのでそこにひとまず腰を下ろす事にした


「ちょっと待っててね。気になってるデザートとコーヒー持ってくるから!」

「うむ」


テケテケと店内に入って行ったクラマと交代する様に、ほどけかけた全身包帯まみれの獣人娘と魔道士のローブと目深に被ったとんがり帽子の女の子がこちらへ向かって来た


「あ〜。狙ってたトコ取られちゃってるのだあ」

「仕方ないのです。別のところにするのです」


「ん?ここに座りたかったのか?ならどけて違う所に…」


周りを見渡すとさっきまでは一つ二つ空いていたのに今は満席状態だった

流石に誘ってくれたクラマの気になってるデザートを立って食べる訳にはいかない


「良いよ良いよー。アチキ達はギルドにでも行って食べるのだ」

「その通りなのです」

「ん?ギルドってあんたらも冒険者なのか?」

「にゃはは。この国だったらある意味高ランク冒険者なんだけどねえ」


「ふーん?ある意味ね?…まさか…あの!?」


まさか…そんな事があり得るのか!?

ある意味だなんてこの俺に勿体ぶるだなんでそれしかないじゃないか!


「ふふーん。やっと気付いちゃったのだ?」


「薬草採取のプロで有名だったのか!?」

「そんな訳ないのだ!」#


「もしかしてキミも冒険者なのです?」

「そう!最強のSクラス冒険者マオとは俺の事さ!」


「おお。新人さんなのだね!」

「ふふふ。私達も最初の頃はそうだったのです」


何故か生暖かい目で眺めてくる2人は「相席で良ければ座っても良いですか?」と尋ねて来たので椅子もクラマの分も含めて残り3席

ならば良いかと一緒に座る事にした



「自己紹介がまだだったのだ!アチキは猫人族のパンスだにゃん」


解けかけた包帯まみれのおかけで顔は余り見えないが、どうやらその下をチラリと見るとユシアやリーン程では無いがハリのある双丘は若さを物語っている


猫人族と言えば「妖気」又は「仙気」と言う魔力とは波長の違う力を操り、魔法とは毛色の違う面白さだ

妖気ならば魔術寄り

仙気ならば物理寄りな力を発揮する


服装も知っている限りでは黒の狩衣かりぎぬっぽいのは妖術使い、白のは仙気使い…のはずなのだが、こんなに包帯まみれと言う事は怪我でもしているのだろうか?



「私はドワーフのルギサなのです」


パンスが160センチ程ならば、その半分と言ったところだろうか


ローブにとんがり帽子と魔女っぽいが、そもそもドワーフと言えば「物理」だ


俺の知ってるドワーフは大槌を振り回して山を二つに割ったり、人間族では加工不可能な鉱物や細工の魔道具なんかを分解・修理・加工しちゃう酒好き職人肌な種族のはずなんだが…


「俺はさっき言った通りマオだ。よろしく頼む」

「ほーい」

「ところでマオさんはお一人でこちらに?」

「いや、今日は連れられて」


バコーンッ


「ふぁああ!!」


「来た…ん…だ?」


お目当ての物を買いに行ったクラマは他に2、3人程居たが入り口を破壊して外に弾き出されて飛んでいた


何だ?

店内にボアでも居たのか?



「はんっ!ウチのレシピを盗ろうなんざ100年早いぜ!」


縦長の帽子を被った気の強そうなロール髪女性が何やら1メートル程の長細いパンをパンパンと鳴らし、吹き飛んでいった人達を睨みつけて言い放っていた


なんだ

実はクラマはレシピを盗もうとしていたのか

言ってくれれば手伝ってやったのに


「ってそんな場合ではないか!」



「いやー!すまなかった!これは俺っちの奢りよ!」

「は、はぁ」

「全くクロワは傍迷惑なのだ」

「もう少し穏便に済ますのです」


俺が間に入るだけでは「また仲間が増えた」と言って長細いパンで刺突を繰り出して来た。

たかだかパンだろうと思ったが魔力の篭ったパンは驚く程に硬く、危うく俺もクラマと同じ目に合うところだったよ

俺が間に入ったことでこの中にツレが居ると気付いたパンスとルギサが収めてくれたのだが…

周りのお客さんは日常茶飯事なのか我関せずでお茶を楽しんでいた


…それでいいのか?



「でもおめえ達も遂に色気付くなんてなあ。大きくなったもんだぜぇ」


ニヤニヤとパンスとルギサを見ながら彼女はそう言った


「ち、違うのだ!ついさっき狙ってたテーブルに座ってたから相席を頼んだのだ」///

「そうなのです!それにこちらのクラマさんは素敵な人がもういらっしゃるのですよ!私達だなんて失礼も甚だしいレベルなのです」#


「ふーん?」


「そ、それよりも先輩達はここのオーナーと知り合いだったんですねえ」


良しいいぞ

せっかくのじゃじゃ馬娘が居ないときに

アイツらの話をされたら敵わないからな

そもそもコイツらは知り合いだったのか


「クロワはウチ達が冒険者になった時の先輩だったのだ」

「未だに何故パンで切ったり突いたり出来るのかは謎なんですが…」

「はっはっは!そりゃあパンだって本気出せば魔獣切り裂いたり蜂の巣に出来るに決まってるだろう」

「絶対パンの本気の方向性が違うと思うのだ…」


「まぁまぁだから今年から引退してパン屋始めたんだろう?今日はたまたまここの店長に高値でレシピが売れてな!届けに来たところに覗いてくる輩がいたから盗まれると思ってついつい」


ガッハッハと豪胆に笑ってみせるクロワは間違い無く強い


怒り猛っているように見えてその実

体には一切の強張りもなく自然体そのもの

最小最短で突き出されたパンを食らった者はひとたまりもないだろう

だが今の問題はそこではないのだ!


「確かにあの突きは見事だった!軽く鍛えた程度のクラマでは歯も立たないであろう。そして、この美味そうなパンとあいすくりーむ?とやらは食べても良いのだろうか?」


そう!

目の前に広がっているご馳走を早く食べたい!!

さもなくば何やら良くないような予感がびんびんとしだしたのだ


「割りと本気な突きを何なく受け流したのは気になっているが良いだろう!お詫びにここは食べ放題と行こうじゃないか!はっはっは!」


「良し!それでは溶ける前にあいすくりーむとやらを!頂きまー」


「「ふーん?」」


…遅かったかぁああ!


「こっちは魔法訓練してるときに」


「そっちは女の子と美味しそうなスイーツを囲んでキャッキャうふふですか」


ゴゴゴゴゴ…


そんな効果音が相応しい暴君とも言える2人が背後に聳え立っていたのだった


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る