第4話 始まりの国 リスタット編

〜リスタット 山盛り食堂〜

「せーの!」


「「「「かんぱーい!」」」」


夕食どきのここは冒険者で賑わい、一日の疲れを労う

仲の良いパーティ同士で情報交換をしてみたり、パーティで依頼の反省会をしてみたりと色々ある


いつもは皿洗いをしながら眺めているだけの側だったが、今回はそれをする側だ!


キンキンに冷えたエールが美味い!

肉が香ばしい!

草じゃない!


「っくぅうううう…美味い!」


強めのシュワシュワが喉を通ると今日の疲れが共に落ちて行く

最近はここの賄い飯も食わせて貰っていたが割と質素な生活を送ってたから美味い美味い


「ぷはぁあ。やっぱりこれだよねえ」

「ふふふ。クラマ?お口に白いお髭が生えていますよ」

「ありがと」


これが普段コイツらの日常なんだろうな


…それに引き換えウチの狂犬ったら



ガツガツガツガツ


          ゴクッゴクッ


   カッカッカッカッカッ


           …っけぷ


「おばちゃーん!チャーハン浪漫盛りとマーブルボアの丸焼き追加でー!」


はいよー!



「……はなではないな。うん。華では」

「?、ふぁひほ?」

「ちゃんと食ってから話せ!」


「あはは。2人とも仲良いねえ」


「「どこが!!」」


「そ、そう言う所?ごめん」

「クラマそこは謝ってはいけません。このナメクジさんは遺跡のお宝を1人で強奪し、1人でコソコソ換金してたクズ野郎なのです」


「おいこら指さすな指を」


「でも結構な金額になったものねー。これなら半年間は毎食ここの定食くらいならいけちゃうかもね?」


ガタッ

「なんだと!もう折半でドレッシングを買う事もないんだな!?」

「もう!恥ずかしいから辞めて!しかも他に贅沢しないでってのが条件ですからね」

「はっはっは!草生活を考えれば毎日山盛り食堂なんて贅沢の極み!!」


「もう会話が夫婦のそれだよね」

「あぁ。ユシア師匠はこんな奴の為に質素な生活を…」


そう

俺は結構な金を手に入れた

大量に朽ちかけた金銭と装備を持って行ったら〆て46万円

それより下の端数は手数料で持っていかれた


ここの世界は円と言う通貨で世界中どこでも利用出来る


鉄のコインなら1円

銅  10円

銀  100円

白銀 1,000円

金  10,000円


と割と分かりやすい


換金時に一悶着あったがそれはバレた俺が悪かったと言う事で


…なので今回は俺とユシアコンビの奢りとなっている


食べ進めていると酔いも回って来ると言うもの

ほろ酔った勢いで聞きにくかったクラマも心が緩くなったみたいだ



「アーラ・ディアスとリトルディア・ユスティーナって誰かってか」

「うん。僕も自分の事話すからどうかなぁって」

「なんだそんな事か。いいぞー」

「私もいいわよ。それくらいなら」


「え?軽っ!?軽くない?」


「もう終わった人生語るくらいなら何でもないって事だよ」

「うんうん」

「んじゃそうだな。さくっと自己紹介みたいに軽く行くぞー」


「え?あ、はい!」


「俺の前世はアーラ・ディアス。開闢世界かいびゃくせかいグンニプーオの煉獄領域。そこの親玉だった」


「次は私ね。前世はリトルディア・ユスティーナ。終焉世界しゅうえんせかいフィニス。そこに現れた化け物討伐の筆頭剣士だったわ」


「なんだか分からないけど、凄く恐ろしそうな世界だ…」

「そうな、では無く本当に恐ろしいんですよ?」


軽く言っただけなのだがリーンにはどんな世界だったのか分かるようだ

使いっ走りでも神は神か


「開闢世界は他の世界へ魔王を排出している言わば魔王生産工場なんです!…ひっく。終焉世界と言うのは実は魔王の出荷が最後だったから…と言われております」


「出荷って…んな魔王を商品みたいに」


「ふーん?外からならそう見えるのかね」

「つまりは何?あんたがウチの世界に迷惑な化け物吹っ掛けて来たわけね。やっぱり全快したら素っ首跳ねてわざと失敗した次元転移陣に放り込んでやるわ」


「返り討ちにしてやるわ。そもそも出荷なんて……おお成る程そう言う事か。あははは!」


「「気持ち悪」」

「いやいや可哀想でしょ!?」


「「おまたせしましたあ!」」


ゴトリと置かれたのはマーブルボアの串焼きの山

香ばしい香りは満腹に近い腹でも食欲をそそってくる


「よう!ヤーちゃんマーちゃん!」

「こんばんは!」

「よう!」



茶髪キノコ頭の2人はこの山盛り食堂の看板娘「ヤーちゃん」と「マーちゃん」

ここを切り盛りしているおばちゃんの娘さんの子供達だ

普段から出来上がった料理を2人で運んだり、食べ終わった食器を洗い場に持って行ったりする孝行娘

リスタットは大概大らかな冒険者が多いので例え運んでいる料理を落としてしまっても笑って許す方が多く、安心して2人はお手伝いができるのだ


そんな今日なのだが…


「どうした?今日はもう遅いぞ」

「マオさんが珍しく豪勢な食事してるからおやすみ前に見に来たのです!」

「のですー!」


「あはは。そう言うことか」


「ユシア師匠にもっと贅沢させるのれすー!この甲斐性なし!」

「己は貶めないと気がすまんのか!」

「なんかすみません」

「ちゃんと躾とけ!ウチの狂犬なんか物理的な事以外は寛容なんだぞ!」


ゴスッ

「あだ」

「…今のはマオが悪い」


褒めている様で9割方バカにしている言い方に、ムカついたユシアから一発を貰い、頭を抑えているとヤーちゃんとマーちゃんにもマオは笑われていた


「ふふふ。今日は機嫌が良い。全てを許そうではないかね」

「どの口から言ってるのよ」


「あ、そう言えばユシアさんマオさん」

「はいマオさんですよ?」

「どうしたのかしら?」

「あの…その…」


何か言い辛い事があるのかもじもじとヤーちゃんは下を向いてしまった


「大丈夫。ユシアお姉ちゃんが何でも解決しちゃうわ」


ユシアが頭を撫でながら優しく諭すとヤーちゃんはうん、と


「後はおやすみだけなんだけなんですけども、その…マ、マーちゃんのお人形が壊れちゃっておやすみできないなーって」

「違う!ヤーちゃんとクマさんのお人形取り合って喧嘩しっ」モゴモゴ


ヤーちゃんは何故か少し顔を赤くしてマーちゃんの口を手で塞いでしまった


「うん?お人形を直して欲しいの?」

「はい。。お母さんここが終わるまでは一緒におやすみ出来ないから…」


「ふむ。任された!ならここに持ってこい?」

「…いいんですか?」

「もちろん」

「あ、でもお裁縫道具が無いわ」

「む〜…」


シュン…と服の端を掴み、分かりやすく落ち込むヤーちゃんは目の端に涙を蓄え始め…


「そんなもんは要りません」


「え?でもお裁縫しないとくっつけられないですよ?」

「そうだな」

「じゃぁ…うっ。うっ」


「最低ですねこのナメクジは」

「小さな子に上げてから落とすのは悪魔ですやん…」

「やかましいわ!」


マオは当然そうだと言ってマーちゃんは再び泣きそうになるが「だから」と言葉を続けた


「特別な方法…?」

「そう。いつもいい子にしている2人には特別にこのマオさんが一肌脱いでみせよう。だからほれ、持っといで」

「う、うん」


「それと」


マオはヤーちゃんにだけ聞こえるように耳に口を近づけて囁くと「で、でもお」と、もじもじと赤くなるが、やがて決心したのかマーちゃんを残してトコトコと厨房奥にある階段を上がっていった



「これなんですけど…」


ヤーちゃんが持ってきた人形は右腕が取れたクマさんと左足が取れたクマさん人形だ

左足が取れたクマさん人形は他にも何ヶ所か直した後があるが、大事にしているのか汚れやシミが殆どない


マオは丁度隣のテーブルが空いたのでそちらを使って人形を上に乗せて、ひとまずくっつける腕と足を取れた部分に置いた


「よーし。やるか」


「あんたどうすんのよ?本当に針も糸も無いのに」

「ふふふ。今の俺は機嫌が良い」


イラッ

「…だから?」#


「不可能なんて無いんだよ」

「はぁ?じゃぁ何でやるのよ?」


「まぁ見てろ。ほんとはこの前外套縫ったとこほつれたから使おうと思ってたんだが」


マオはおもむろに胸ポケットから澄んだ青色をした短剣を取り出した


「マオ!?それミスリルだよね!?わあ。初めて見ちゃった!」


魔法金属 ミスリル


金属にも魔力の伝わり易さ、つまり伝導率が存在する

鉄や銀でも魔力は伝わるがすこぶる効率が悪く、故にネームバリューはあったとしても名工が叩いた剣でもリーズナブルに買う事が出来る

伝導率が良く、安い物から並べると

ミスリル→ダマスカス→アダマンタイト

そして伝説級のヒヒロカネ


ミスリルやダマスカスは鉱山から可能性は低いが採掘可能で、アダマンタイト、ヒヒロカネはその名を冠した魔獣を倒さなければ手に入れる事は出来ない


そんな安くてもレアな金属なのだが…


「おう?良く知ってるな。今日ので手に入れたんだが、この2人の頼みとあっちゃ使わざるを得ないな」

「それでどうするのよ?切る事しか出来ないじゃない」

「ぷー!くすくす。これだから魔導に浅い奴は。ほれ!ヤーちゃんにマーちゃん!こっちゃこい」

「はい!」

「むー。ねむねむ」


「あはは。ごめんな?すぐ終わるからちゃんと見てるんだぞ?きっといい思い出になる」


認識阻害空間レコニションフィルド


マオはヤーちゃんとマーちゃんを含めた6人の空間を認識阻害空間にし、周りには気付かれないように作業を始めた


「先ずはこのナイフを糸に換えてしまおう」


そう言ってマオはナイフの刃の部分をググッと握り締めた

当然の如くクラマやヤーちゃんマーちゃんは「危ない!」と止めるが、マオの手のひらから落ちてきたのは赤では無く、青白く光る糸であった


「え?どういうこと?」

「むう…ナメクジの癖に生意気です。綺麗な糸で感動してしまいました」


「「ふわぁ!すごーい」」


「ふふふ。昔人形好きなヤーちゃんマーちゃんみたいな元気いっぱいな姉妹が居てな?『ドールムスタル人形の支配者』だなんてカッコいい呼び名まであった子達に教えて貰ったんだよ。その姉妹のお人形はまるで生きてるみたいに意思を持ってたし、面白かったよ」


「どーるむすた?」

「えー?でもマーちゃんのクマさんは動かないよ?」

「お?クマさん動いてくれたら嬉しいのか?」

「うん!マーちゃんは嬉しい!おしゃべりもしたいなー!」

「うーん。おしゃべりまではあの子達に教わらなかったなー。動くだけじゃダメか?」

「ううん!それだけでも嬉しい!」

「ヤーちゃんはどうだ?」


「う、うん。お願いします…///」

「それじゃいくぞお?」


マオはグリップだけになったミスリルナイフを置き、指をくるくると回し出した


すると未だ青白く光っているミスリルだった糸は浮き上がりクマさん人形の右腕と左足をスルスルと縫い止め、あっという間に治ってしまった


「さて、仕上げだ」


親指をひと噛みして人形の足元に一滴づつ血を垂らすとクマさん人形がすっぽり入る程度の小さな魔法陣が現れる


降魂契徒ドールゲート


「うおおお。すげー!なにこれ!?」


キラキラとシャボン玉のような虹色の小さな玉が魔法陣から湧き上がり


「あら?これウィスプかしら?」


ふよふよと上から白い火の玉が現れ「シュポンッ」と小気味良い音がしてクマさん人形達に入り込んだ


「はいっお終いー!」

コンコンッ


マオはテーブルを軽く小突いて認識阻害を解いて満足した顔でクマさん人形を眺める


「マーちゃんのクマさん治った!ありがとうます!でも動かないよ?」

「ふふ。この子達も恥ずかしいのかな?じゃあヤーちゃんとマーちゃんは6からカウントダウンしてみようか」


「…うん?いいよー!ヤーちゃんせーの!」


ろーく!ごーぉ!よーん!さーん!にーぃ!

いーち!


ぜろー!


ぴくっ


「契約完了だ」



ピップ ピップ

          ピップ ピップ


…キュー!


「「わぁあ!!クマさんが動いたー!!」」


一歩一歩歩く度に「ピップ ピップ」と軽快な音が鳴り、ヤーちゃんとマーちゃんの前に立つと腕を上げて挨拶をした


「すげー!ほんと凄いよマオ!!」

「これは確かに中々楽しかったわね」

「はっはっは!そうだろうそうだろう!」


遅くなってはいけないと子供達に寝るよう促して、ヤーちゃんとマーちゃんは喜んでクマさん人形を引き連れて行った



「これは今日は眠れないかもしれないね」

「悔しいですが完璧な魔法陣でした……ぐぬぬぬぬ。。。」

「ふーむ」

「どうかしたの?さっきのは私も凄いと思ったわ」


マオは1人首をかしげて先程までクマさん人形があった場所を見ていた


「いやー。何でも無いと言うか、結果的にはめちゃくちゃ大成功なんだがな?」

「ならいいじゃない」

「普通魔法陣から湧いてくる玉みたいなヤツって白とか透明なんだよなーって。虹色なんて初めて見たわ」

「まさか初SSR引いちゃったのマオ!?生SSRヤバ」

「SSR?何言ってんだ?」


「良くぞ聞いてくれました!!それにはまずワタクシことクラマ・マダラメの故郷を語らせて頂きましょう!」


「ふぉっ。どうした?どうしたいきなり?」

「いいじゃない。面白いし聞いてあげましょ?」


4人の夜はこれからが本番


程よく頬を紅潮させたクラマは機嫌良く立ち上がり、クラマの故郷だった「地球」の話をするのであった



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る