第2話 始まりの国 リスタット編

ガラゴロ

       ガラゴロ


「っぱー!やっと出て来られたぜっ!?…あ〜」


コーツコツコツコッツ!


マオが骨の山を掻き分けて漸く上に上がった頃、フイラーノから莫大な魔力が発生して山が崩れてもう一度骨の底に沈んで行く


「っくぅ。骨の海もう一回おかわりかよ。まぁでもならユシア達でもイケるだろう」


そう言ってもう一度上がろうとするが…


チャリン


「お?」


過去に新人冒険者を喰らった魔獣達が居たのだろうか

骨の所々に朽ちかけた金銭や武器や防具が混じっていた


ニタァ


これは……数売れば金になる!!!


「うぉおおお!!!!!」


マオは上へ這い上がるのを辞め、手当たり次第に金銭や武器を手持ちの袋へと入れていくのであった



「うぉおおお!!!!!」


一方でクラマ達は無数のボーンナイトに攻めあぐねていた


「リーン!離れるなよ!」

「はい!」

「それにしてもキリがない…!」


クラマとリーンは壁を背に、リーンが障壁を維持しながらクラマが次々に迫ってくるボーンナイト達を切り捨てる戦法を取っていた訳だが…


「コツコツコツコツ…幾ら倒しても無駄でコッツ。魔力を再び分け与えれば…」


切り捨てられ、砕かれた骨は骨の山から補充されカラカラと音を立て復活してくる


「っく。何とかして骨の格子を壊して逃げられないものかな!?」

「クラマを何とかして逃がしたいのは山々なのですが、ワタクシの今の魔力ではビクとももしなさそうです」


リーンはフルフルと下を向きながら首を振り、不可能である事を告げる


「くそ!!やっぱりまだ早かったのかな?ゲームなら今頃格好良く一撃で皆んなを守れてるんだろうなあ」

「それもこれもあのナメクジのせいです!生きて帰ったらあの野郎ギッタンバッコンにしてやる゛ぅ゛」


ギリギリとリーンはマオが間抜け面をしてこちらを見て居る妄想に駆られ歯軋りを立てて怨み節を呟く


「…そうだね。まだ冒険は始まったばっかりだよね!弱音吐いてる場合じゃない!あんな骨野郎倒して皆んなで帰ろう!」

「はい!…所でユシアが見当たらないのですが」


リーンが周囲を見渡すとユシアの姿は見えなかった

視界はボーンナイトで満たされ先程よりも数が増したと錯覚さえ覚える

何とかして骨の山でカラカラと笑っているフイラーノの元へ辿り着きたい思いと、いつまでこの苦しい状況が続けられるのだろうという恐怖が混じり精神的な余裕は無くなっていく


「っぐ!?」

「クラマ!!」


骨を棍棒代わりにしていたボーンナイトにクラマは右肩を強く殴打され剣を取り落とし、そこから均衡を保っていた戦線は崩れ去って2人は壁に背を付けしゃがみ込んだ


「いてぇ」


ジリジリとボーンナイト達は2人に迫り、カラカラと感情の無い頭蓋を揺らし手にしている朽ちかけた剣や斧、棍棒をゆっくりと振り上げていく


「は、はは…好奇心は猫を殺すって言うけど、本当だねえ。こんな世界じゃ幾つ命があっても足りないよ」

「いいえ。ワタクシがきちんと止めていればこんな事には……うん。仕方ありません」

「リーン?」


リーンの体が光を帯び始め「最高神へリーン・ネイトが誓願。神の権能を求める」とクラマを抱きしめて呟き続ける


「ダメだ!そんなことしたらキミは消えてしまう!!」

「大丈夫。貴方様だけはワタクシが守ってみせます。ちょっとだけを受けるだけですから」


ニコリと笑うその顔は柔らかく、そして全てを包み込み安心感を与える聖母の様であった。


神の権能は神の住まう空間で無ければ発揮出来ない

それを超法規的措置で行使する事は神法違反に抵触するのだが使えない訳ではない

が、何らかの神罰が下る事となる


消滅・封印・神格の剥奪


神格の剥奪であれば軽めなものだが

封印は数千、罪の重さによっては数万年

消滅はその名の通り存在が消える事である


予めそこら辺の説明をされていたクラマは安心ではなく絶望を覚え止めようとするが…リーンは止まらない


「ダメだ!リーン!!辞めろ!また僕を探してくれたらいいじゃないか!」

「ふふふ。クラマは我が儘ですね?さて」



「行きます!!!!」

「やめろぉお!!!!」


リーンの体の光が閃光となり、武器を振り上げたボーンナイトが光に飲み込まれた瞬間


パチンッ



2人はこの時この瞬間だけは生涯忘れる事は無いと後に語る


心臓の音がうるさく感じる程の静寂が周りを支配し、いつまでも来ることのない痛みに最早死んでしまったのかと2人は勘違いをする程に


クラマとリーンは眩い光りで閉じていた目を恐る恐る開くと、継ぎ接ぎだらけの外套を羽織った2人がいつの間にか目の前に居た



「はぁ。全くなんでこんな雑魚に殺され掛けてるんだっつの?芝居か?芝居なのか?よっこらしょっと」

「あんたがすぐ来ると思って2人置いてちゃったじゃない!」

「やかましいわ!こっちだって大漁だったんだぞ!直ぐに来れるかっての」

「大量?あんたの方によっぽど強化した骨が行ったのかしら?それでその袋はなによ?」


その話す姿は現在の状況でおよそSランクとは掛け離れた光景で…


クラマは周囲を見渡すとボーンナイトはおらず、復活する兆しも無かった


「「どうして?」」


「え?」

「あははは!まぁ言いたい事は色々あるだろう。た事は後で話そうや」


「ねえ!その袋の中身ってなーに!」


「あ、ああ…?」

「ならこれ頼むぜ」


乱暴にマオはクラマの前に袋を置き、フイラーノへと向き直した


「さて、待たせたな不死王の親戚さん」

「ねぇってば!」


「コツコツコツコツ…構わないでコッツ。我が骨の術が効かなくなったのは予想外でコッツが、そうでなくては骨の足しにもならんコッツ」

「ふむ。腹の足しでは無く、骨の足しか…上手いぞ不死王の親戚!!俺もなんか考えるかな」


「あんたが考えたって碌なもんじゃないわよ。早くしなさいって。それと中身は何なの?」

「わかったわかった、後でな」


なんなんだろうこの人達は


「お褒めに預かり光栄でコツ。さりとて貴様らは今日より我が骨のコレクションになるでコッツ」


「おいおい。聞いたかユシア!!俺達今日からコレのコレクションだってよ!怖すぎてヘソからエールが湧き出るかもしれん」


「ばっかじゃないの?でもそうね。私達をコレクションにするには色々足りてないわね」


「コッツ!?」


こんな化け物相手にどうして冷静で居られるんだろう


「どうせあれだろ?分霊魔法で自分は滅びないからって余裕なんだろ?あはは」

「ダッサ。キモ。クサ」

「我が骨を侮辱するコッツは朽ち果てるまで使い尽くしてやるコッツ!!」


コォオオオオオオオオ!!!


フイラーノから更に膨大な魔力が産まれ黒紫色のモヤが赤紫へと変化を始めた



でも



「あはは!怒った怒った!コイツ第何形態まで隠してるかな?」

「四天王ってくらいだから最低三形態までは欲しいわね。実は4対の翼が変化して6本腕になっちゃうとか!」



…かっこいいな



「「……あぁ。。。」」


「何だよ!何にもしてないのに第二形態に移行しやがって!しかもユシアの予想ドンピシャかよ」

「そうよ!私も許可してないわよ!戻しなさい!!」


「今その減らず口を黙らせて差し上げるでコッツ」


邪骨四魔将ボーン トゥラン コーツ


フイラーノはユシアの予想通りに翼を腕に換えた


そしてその4本の骨の腕は早々に赤黒い粒子となって消え、フイラーノの周囲に四つの召喚陣が現れる


「コツコツ。先程のとは違いコレは」

「あー面白くな」

「興醒めね。骨尽くしとか芸が無さすぎよ!骨の無い軟体魔獣とか少し捻りを加えなさい?「骨なのにぃ!?」とかツッコマせなさいよ」


パキンッ


「コツ!?貴様らいつの間に!?」


フイラーノが気付けば両隣にはマオとユシアが腕を組んで立っており、召喚されているはずの四魔将は出現する前に倒されていた


「貴様らは何者でコッツ!?」


慌てて飛び退こうとするがマオに頭を、ユシアに肩を掴まれ力を入れても動く様子は一切無かった


「っぐ!?う、動かないコツ!」

「次に会う時に期待してるさ。大丈夫。手心加えてやる」

「四天王で満足してる時点で負けてるのよ貴方は」


2人はそう言って空いた拳に魔力を込めるがフイラーノはそれに秘められた魔力量に絶句した


「……ッ!!!こっ、こんなコッツ!!!」


「「はぁああ!!!!!」」


勇拳ブレイズインパクト

魔拳デーモンブロウ


ズパンッ!


部屋一面に激しい閃光と空気の入った袋を割った様に短く弾けた音が響き渡った



「クラマ!…クラマ!」


ゆさゆさとリーンはクラマを揺らすが目を見開いたまま動く様子がない


「……」


それはアニメやマンガで見てきた光景だった


チートスキルを持った主人公や成長した英雄や勇者達が難敵を討ち倒す為に発揮される絶大な力


「ふぅ。いい準備運動だったぜー」

「何言ってるのよ全く。調子いいんだから」



そして打ち倒した後に話す何気無い会話


「クラマ!」

「…っは!」


漸く自分の世界から戻って来たクラマは「助かったのですよ」と両目に涙を蓄えているリーンを見て激しい安堵感に襲われて…



「「うわぁああん!怖かったよぉおお」」


再び2人は生きている喜びに溢れて泣き出した



「やれやれ。いつまで抱き合って泣くんだこいつらは?仲良しか」

「ふふふ。いいじゃない?実際死ぬかと感動もひときわってもんよ」

「ふーん?」


びぇえ…と恥も外聞も関係なく涙も鼻水も流して泣く2人を眺めるマオとユシアは気が済むまで待つ事にした



「2人とも助かったよ!ありがとう!」


それから少しして落ち着いたクラマは立ち上がって2人にお礼をした


「はっはっは!晩飯で手を打とうではないかね」

「もちろんだよ!それくらいはしないとバチが当たっちゃうからね」


「うわっ。図々しいわね」

「いいのですよユシア。私達は命を助けて貰いました。それには対価が必要でしょう」


「お前はまだだろう?」


ピタリとマオ以外は止まり「何言ってるんだコイツは?」と訝しげな顔をしていた


「何言ってるのよあなた?」

「ったく。準備運動ってさっき言ったばかりだろう?さ、行くぞ」


マオはガチャりと大量にお宝の入った袋を背負い戻る為に階段を上がっていく


「待ちなさいよー」

「マオ!どういう事なんだい?」

「……」



ゴーン

       ゴーン


「ここって…」

「え?どこ?ここ?」

「…」


階段を上がりきるとそこには神殿風の景色は無く、真っ白な空間が何処までも広がり鐘の音が響いていた


マオの姿は確認出来たが何処に行くのか分かって居る様にずんずん真っ直ぐ進んでいる


「マオ!ここは何処なんだい?何だか見た事あるようなないような?」

「ふん。お前がその感覚あるって事はこっち側に指は引っかかってるらしいな」


「マオ…?」


追いかけて声を掛けるが、返って来た言葉は良く分からなかった


「こらマオ!なんでここに跳んじゃうの?あんた分かってるんでしょ?教えなさい!」


「そこの駄女神に聞いてみろ。全く世話の焼ける」


「……」

「どういう事よ?」


リーンは俯いたまま黙り、コツコツとひたすらに歩く


「お前はきっと素通りだったろうが、普通は無理なんだぞ?」

「はぁ?だからなんだってのよ!」

「顔近い近い近い。そろそろ着くぞ」


ユシアもマオへ問い詰めるが一向に要領を得ない

更に少し歩くと誰かがパイプオルガンを弾き出したのか鐘の音と共に重厚な調べが4人の耳に届き、頭の中に男の声が入ってきた



罪人 リーン・ネイト


罪状 神界外での神力解放


減罪 大罪人 アーラ・ディアスの連行


   次代戦乙女候補 

   リトルディア・ユスティーナの同行


判決 千年の封印後に神格を昇格するものと

   する



「っ!?」


白い霧の中から巨大なパイプオルガンが現れると演奏が終わり、弾いていた人物が立ち上がった


「始まりの大罪人と終わりの勇なる者が共に居るとは驚きだが、良くぞ連れて参った!褒めてやろう」


金色の長い髪で、修道服に似た物を着る彼は仰々しく両腕を天に仰ぎ、下卑た笑みを4人へ向けた


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