勇×魔

刃と肉

第1話 始まりの国 リスタット編

冒険者ギルド前で口喧嘩で騒いでいるボロボロな外套を被った二人組がいた


「あんたいつになったら薬草の見分けつくのよ!いい加減受付のお姉さんに『あはは。ただの草混じってますね』って恥ずかしいのよ!」

「わっかるわけねえだろ!薬草ったって草だぞ草!根本が赤いだの青いだの覚えてられっかっつうの!」


口喧嘩をしている二人組の名前は薬草が見分けられる方がユーシア、見分けられないのがマオである


「もうっ!次はジョバンノ遺跡で魔石集めよ!これやらないと今日の晩御飯すら食べられないんだからね!」

「なん…だと!?またもや大自然のサラダバーとやらでヘルシーで質素な生活をしなければならないのか!泣け無しで買ったドレッシングはもうないんだぞ!?」

「はいはい。そうならない為にも働きましょうねー」

「いたっ!?いたたた!」


はっはっはと周りの先輩冒険者からは笑われ、マオは耳を捕まえられながらジョバンノ遺跡へ向かった


〜ジョバンノ遺跡〜

リスタット国から徒歩1時間程で辿り着く遺跡型ダンジョン

出てくる魔獣は比較的弱く新人冒険者向けとなっている


入り口に辿り着いた2人は集める魔石の数を確認して中へ入ると、先に行っていた新人冒険者がいたのかジャラジャラと袋を鳴らして向かって来た


「おうクラマじゃないか」

「リーンも元気そうね」

「やあ。キミ達も魔石かい?」

「ええ。そちらもおかわり無いようですわね」


黒髪黒に近い茶眼の青年剣士と銀髪金眼の何処か神々しい法衣を纏った娘だ

この2人組も新人冒険者でユシアとマオが登録した頃と同じような時期に冒険者となっている


「クラマ君てば順調そうだし、相変わらずウチのポンコツと違って優秀ねえ」

「いやいや、同じ頃に冒険者なったんだから優劣なんてないよ」


何気ない。

何気なーい会話をユシアとクラマは繰り広げるのだが…


ギリギリギリギリ…


「あ゛ーくせぇくせえ。神気臭くて敵わねえなあ!?」


ぎゅむっ

「うっせぇぞこの馬鹿うましかがぁ!?お前と居るとウチの至高の可愛さを誇るクラマたんに魔族が移るわ!あっちいけ!」


至近距離とは言わずに最早頬を擦り合わせて口喧嘩をするマオとリーン

初めて顔を合わせてからずっとこんな調子である


「こらマオ!辛気くさいだなんて失礼でしょ!ごめんね?リーン」

「ほらほらリーンも言葉に気を付けて?マゾ気が移るだなんて失礼だし、はしたないぞ?」


「「でもこいつが!」」

「「でももヘチマもありません!」」

「「…はあい」」


シュン。とした2人を他所にクラマはそう言えばとユシアへ教えてくれた


「そう言えばね?ここの1番左奥の区画になんか下に降りられそうな階段見つけたんだよ」

「ふーん?更に下?」


このジョバンノ遺跡は地上のフロアしかない

昔の上級冒険者が調べ尽くし、弱い魔獣しか出て来ないと言う事で新人冒険者向けと設定しているのだが、そこから更に下層へ続く階段を発見したとなれば危険度は未知数だが手付かずのお宝が眠っている可能性が高い


「未知数だからリーンと話して上級の人達に見て貰おうかと思ってさ」

「ふふふ。堅実な考えをするクラマは素敵ですね」

「そりゃせっかくこの世界に…っげふげふ。慎重だと言って欲しいね」


「更に下層ねえ…」

「なぁ?それってチラッと中見るだけなら俺達行ってもいいか?」


ユシアが何かを考えていたが、マオはまだ未開拓の階層があると聞いて心が躍った


「え?いいけど危ないよ?層が増えれば増える程魔獣だって強くなって行くんだよ?」

「何、チラッと見るだけ見るだけ。こんな貧乏拳士二人組に出来る事なんてたかが知れてるだろう?」

「まぁ、新人冒険者の僕らに出来る事は限られてるしね。でもそうだな…キミ達も行くなら僕らも行ってみようかリーン?」

「クラマ!?こんな陰気臭くてジメジメしたナメクジと一緒に行動してはなりません!」

「何だって!?」


ぎゅむっ

「「あ゛ぁ゛ぁん!?」」



結局4人で下層へと行く事になり、件の左奥の区画に来た

周囲は朽ちて蔦がカーテンの様に壁に生え、建物の柱であったであろう太い柱達もヒビ割れて折れていた

全部で9本ある内の入り口から5番目の柱の裏に下層への階段があった


「おお。ここか」

「ちょっと暗くて下が見えないわね」

「ワタクシが明かりを灯しましょう」


照明魔法イルミネイト


リーンが唱えるとポワポワと大きめな雪玉の様な光が目の前に現れ、操作をして階段へと向けた


良く見ると階段は長く、1番下は扉になっている為それ以上は見えなかった


「雰囲気あるねぇ?行くかいマオ?」

「ふふ。愚問よ兄弟!前衛がびびってたら後衛が着いて来ないではないか」

「あーはいはいサッサと行ってやられちゃってくださーい。そしたらユシアも私達のパーティーに入って貰ってキャッキャうふふするんだから」

「っけ。言ってろ。じゃじゃ馬同士じゃクラマの気苦労が絶えないな」


そう言ってマオは下へ降りた


階段も朽ちて居るとはいえ、しっかりとした造りになっており、軽い戦闘では壊れなさそうだ

マオ、クラマ、リーン、ユシアの順番で扉へと到着し、マオはわくわくしながら扉を開けると中は地上とは違い、ヒビ割れた壁やフロアも無く所謂いわゆる生きたダンジョンとなっていた


「うわっ。凄いわね」

「どれ。僕が索敵でもしようか」

「要らん。剣を少し抜け」

「ん?いいけど…どゆこと?」


クラマは腰に帯刀している剣を鞘から少し出すと、マオは指に少しばかりの魔力を乗せて剣を弾いた


キィイイイイン……


綺麗な高い音が反響し、マオは目を閉じて集中する


ふむ

魔獣の反応が…ない?

いや

ここから更に下層に一体の反応があるな


反響索敵エコーロケイト


使用魔力は熟練度によるが魔力を音に乗せて索敵する魔法

本来ならば魔力の元になる魔素に敏感な種族でなければ使えない魔法で、人間族であればまた別な索敵魔法がある


「魔獣はこの階層には居ないみたいだな。お宝探し放題だぜ!」

「おお。凄いねマオ?なかなかその索敵する冒険者って居ないよね?」

「そうなのか?まぁいいじゃないか」

「ナメクジの次はコウモリの真似ですか。本当に人間なんですかあ?」

「やかましいわ!…ったく。魔獣も居ない事だし、探してお宝あったら発見者優先の6対4でいいか?」

「うん。大丈夫だよ!元は上級冒険者にお任せする予定だったしね。それじゃ行こうか」


壁から床まで真っ白な神殿風の通路を歩く4人


途中途中で部屋があり、魔獣の骨は見つかるがお宝は見つからない


「なかなか転がってないものねー。お宝って」


ユシアは飽きて来たのか頭に手を乗せて最早探す気は無い様だ


「そう言えばさ。噂になってる事あるんだけど」


思い出したかのようにクラマはユシアとマオに話し掛けてきた


「噂?」

「うん。なんかこの大陸の少し下にある無人島が半年位前だっけかな?元々は鬱蒼とした森とか山があったらしいんだけどさ。今では島の半分は海に沈んで、残った陸地もほとんど更地になっちゃって、膨大な魔力の使用もあってか魔素も乱れちゃってまだ天候も不安定になってるんだってさ」

「む、無人島?」

「この大陸の南方面…」


それを聞いた2人は一瞬考えて青くなるが、直ぐに平静を取り戻し会話を続けた


「へ、へぇ。世紀末な戦いでもあったのかね?」

「そ、そんな場面に遭遇しちゃったら私達なんて一溜まりもないわねぇ」

「噂では魔王復活の予兆じゃないかーとか、何処かのFランクパーティー同士が大喧嘩したんじゃないかーとか言ってるみたいですわね。まぁ天候自体は収束に向かってるみたいですけれど」

「はぁ。ファイナリストってのはそこまでか」

「あはは。まぁ僕達には雲の上の存在だからねえ」

「クラマはすぐにでもFランクになれますわ!ワタクシが保証致します」

「いや、その前にBランクに上がらないと…」


この世界の冒険者制度はランクがある

下から

S→B→C→D→E→F

と順に上がって行く

それぞれ

新人→ビギナー→中堅→大ベテラン

→エリート→ファイナリスト

と呼称されることもあり、4人は現在Sランクの新人冒険者である


「そんな事よりもあっちから妙な感じがするんだが行ってみないか?」

「そうね!もしかしたらお宝があるかも知れないわ」


2人は会話を逸らす事に成功し、1番奥に置いてあった何かを乗せていた石造り台座の元へ向かった


「何も無いですわね?ナメクジさん?嘘ついてクラマの体力を無駄に消耗させるのは失礼ですのよ?」

「あらあら頭の栄養すら乳に行ってるのかしらこのおバカさんは?ウチのユシアと大差無いでございますわね。おほほほほ」


「「なんですってえ!?」」


ゴスッ

「どぅわっ!!!」


「…今のはマオが悪い」


ユシアとリーンのダブルパンチがマオの顔面にクリティカルヒットし、ビタンッと台座の後ろにあった壁に激突した


「ひ、ひてぇ…おっ?おぉぉ!?」


あ〜れぇ〜〜と激突した衝撃でボロっと崩れた壁の先に更に下層へと続く階段があり、マオは転がり落ちて行った


「あだだだ…これはちと予想外だったなあ…あ?」

「………」


更なる下層には扉は無く部屋の端を視認出来る程には明るかった。

そんな部屋の入り口でむくりと起き上がると、目の前には骨の山を築き上げている何かがいた


「マオー!大丈」

「待て!飛び出してくるな!!」


マオの一言でユシアを始めとした3人は戦闘体制を取り、ユシアとクラマは身体強化を、リーンは障壁を張る準備をした


「何がいたの?」

「ほれ」


恐る恐るマオに近付き話しかけるユシアがマオの指差す先を見ると、そこには骨の山の上に骨の卵…否。密集した骨の翼で身を包んでいる何かが居た


「マオ…アレはヤバいよ。逃げよう」

「ワタクシも同意です。今すぐにでもっ!?」


リーンが後ろを振り向いた瞬間に骨に魔力が宿り入り口を格子状に塞がれてしまった


「随分とヤラシイ誘い方するもんだなおい。これなら確かに迷い込んで来る魔獣も逃げられない訳だ」


マオの一言に反応したのか骨の山の何かは遂に動き出した


「コーツコツコツ。人間のお客様は何百年振りでコッツ」

独特な言い方をするそれは骨の翼を広げ、姿を現した


人間族の体に4対の骨の翼が付き、骨で造られた杖を携えていた


「ふむ。言葉を交わす事が出来るのか。では交渉しないか?俺はマオ。そちらは?」

「我が骨はオーバータイラントボーンのフイラーノでコッツ。交渉でコッツ?」


リーンは内心なんでコイツは目の前の存在にビビらないんだと思うが、それが沸々と「なんか悔しい」と怒りに変わり震えていた体もしっかり力が入るようになった


「そうだ。お前も暇してたのは分かるが、俺達ってまだ新人冒険者なんだよ。そんな雑魚殺したってつまらないだろ?だからオタクさんの実力に見合いそうな上級冒険者を連れて来ようかと思うんだが?アレだろ?オーバータイラントボーンだなんで不死王の親戚みたいなもんなんだろ?」


「…コツコツ。それはそこの出来損ないを喰らうよりも面白そうでコッツな」


コンコンと杖を地面に突いて考えるフイラーノはリーンを指差し「出来損ない」と言ってきた


「しかしでコッツ…」

「おん?」

「せっかく面白そうな気配をしているソナタらを逃がす我が骨では無いでコッツ」

「…めんどくさ。オタクさんとこのチンチクリンに対しての意見は同意するが、勘違いが一つだけあるんだなー」


「むっか」


「ほう?それは是非ともご教授願うでコッツ」

「なに、簡単さ。目覚めて早々に悪いが純粋な悪ってのは流行らないんだよ。それに出来損ないは辞めておけ、流石に可哀想だ」


「え?」///


「頭の残念な女ってとこで許してやれ。…ん?そうなるとユシアもそうなるのか?」


ぷちんっ


「「やかましい!!!」」


どぅわ!?

       どぅわ!?

              どぅわ!?


見事にダブルパンチで射出されたマオはフイラーノへと向かうがそれを通り越して骨の山へと着弾し


パカーンッと乾いた骨が散った


「全くなんなんだあのナメクジ!?存在が失礼みたいな奴だわね!アイツとまとめて滅して差し上げますわ!」

「ほんと失礼しちゃうわね!私が居なかったら今頃そこら辺で野垂れ死んでる奴が良く言えるわよ!」

「…うん。今のはマオが悪い」


「コツコツコツコツ…コーツコツコツコッツ!」


カラカラと体中の骨を鳴らし、フイラーノは笑うが4対の骨の翼を開き莫大な魔力を放出して周辺の骨の山へと魔法を掛ける


煉獄兵団パガトリーコープス


骨の山から無数の骨が浮き上がり、赤い糸の魔力が繋ぎ止めて数十体のボーンナイトが姿を現した


「魔王様から我が骨が四天王の拝命を賜り幾百年。神の出来損ないとその眷属。塵芥に等しき存在など障害にならんでコッツ!」


カラカラと4対の骨の翼をはためかせて宙に舞い、ボーンナイト達もカラカラと雄叫びを上がるが如く上を向いて骨を鳴らすのであった

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