第32話 果てしなき深淵 ⑤

白銀の炎がメラメラ燃え広がり、そして爆発した。


「な、何だ、あれは…?」

2体の悪魔は、その光景を呆然と眺めている。


「殿下、もしや、罠に…罠に掛かってるのやも知れません!これは、外部の者の仕業です…何やら、強烈な磁場を感じます!」


小男は、わけも分からず震えた声でキョロキョロ当たりを見渡す。



「あ、あれは、何だ…何故、急に…?」


アンドレアスと小男は、遙か上空にそびえ立つ霧のような巨人を見上げては驚愕する。


さっきまでいるはずの無かった奇妙な生命体が、こちらに向かって歩いてくる。



2人が術式を展開しようとしたところで、強烈な冷風が刃物のように襲いかかる。



「ま、魔法使いの仕業だな…?」

アンドレアスは、炎でバリケードを使い弾き返すと、苦虫を噛み潰したような顔をし、そのすぐ後に嬉しそうに悦に入った。


「殿下…何が面白いのですか…?敵が、敵が居るんですよ。すぐそこに…」

小男も、黒灰色の炎で応戦する。

二色の炎は、混ざりあいその威力をやや強めた。

「いやさ、こんなに複雑なトリックに騙されるとは、流石の儂も、大分歳を食らったものだな…この、複雑で巧妙な術式は、並の魔法使いでは無いことは、解った。」


アンドレアスは、パチンと指を鳴らした。


すると、辺りに複雑な記号が羅列された透明の帯状の紋様が浮かび上がった。




ーしまった…!


こちらの存在を、知られてしまったのだろう…


相手は、強烈な力を持つ悪魔の王だ。


下手したら、自分らの魂も喰われかねないー。


ここは、ロイドに託すしかないのだろうか…?


私に出来ることは、無いだろうか…?


このままだと、シリウスが吸収されてしまう。



朱色の炎が、メラメラと燃え広がり花火のように次々と弾けた。


「下がっておれ。」


ロイドに促され、セイラは後退りする。



地獄の業火は、こちらにいざなっているかのようにメラメラ拡がりそして竜巻状になり、長い蛇のようにグネグネ蛇行し巨人目掛けて、襲いかかる。


巨人は、右手でその炎を受け止めるとその炎を吸収し身体を風船のようにふくらませた。


身体をふくらませたら、今度は思いっきり口から吐き出し、自身の風圧も同時に被せた。


朱色の炎は、徐々に弱くなりそして消えた。


「ふふふふ。やるな。魔法使い。出来れば貴様のような者を器にしたかったが、魔力が反発し合ってね…我々は、同じ磁石のS極同士…プラスとプラス同士…性質が同じ者は、反発し合う運命なのだよ…」


アンドレアスは、帯状の無数の複雑な術式を掴むとパチンとその掴む手で弾いた。


帯状の術式は、みるみる弱くなりそして、消えた。


それと共に、霧状の巨人も姿を消した。


セイラは、気づいていた。さっきからずっと、ロイドは全魔力を注ぎ、体力の限界を来たしている事をー。


非力な自分は、ただー祈ることしか出来ないでいるー。


ずっと、このままでいいのか…?


セイラは、ただ目の前に悠然と闊歩する未知数の魔王に戦慄し、睨みつけていることしか出来ないでいた。





ロイドの額から、汗が滲み出た。


彼は、アンドレアスをじっと睨みつけている。


彼も、知っていた。目の前の少年は悪魔本体ではなく、巧みに唆され器になってしまった少年だということをー。


「この少年と、お前らはどんな繋がりがあるのかね?」

ロイドは、狼のような険しい表情をし片膝をつきアンドレアスを睨みつけた。


「この少年は、儂を裏切ったのだ。」

「裏切った…?」

「このシリウスという名の少年とは利害が一致してな、儂は、そこで彼に、ちょっとビジネスを持ちかけたのだよ…」

アンドレアスは、左右非対称の笑みを浮かべた。


「何…?ビジネスだと…?」

ロイドの表情は、益々険しくなった。


「それは、最初は、拒んだよ。素性の知らない者からいきなりビジネスの話をされたら、誰もが詐欺だと思って拒絶するだろう…だが…少年は、明らかに心に闇を抱えていた。北風と太陽というのがあるだろう?儂は、彼の抱えている闇に興味を持ってな。」

アンドレアスは、腕を組み顔を上げカッカッカ…と、乾いた笑い声を上げた。

「この、人の闇に入り込んで弄び悦らっていたのだろう…?それに、お前の肉体は、500年もの間、地上には出ることが出来ないでいる。今迄、何百もの器を使い同化を試みたが、器は耐え切れず消滅してしまった。だが、この少年とは何故か波長がピタリとあった。この器と同化させれば、お前の願いは成就することだろうな。」


「そレじゃあ、シリウスは同化してしまったら、どうなるの?彼の魂は…?」


ここで、セイラも再び口を開いた。シリウスが、消えるということは、自分の心にぽっかり穴が空くと言うことだ。何なのだろう…?この、強い心のざわつきは…?恋愛感情では無い事だけは、ハッキリわかる。だが、彼を見ていると、どこか、懐かしいような全身が震えるような感覚を覚える。セイラは、シリウスを見た時から感じるざわつきに、セイラはずっと頭を悩ませた。


「喰われることだろうな…そして、彼は悪魔そのものに成り果ててしまう。」


「…」

ドクンと、セイラは強烈な胸の痛みを感じた。


「同化するとは、そういう事を言うんじゃ…同化に失敗すれば、魂は消滅してしまう、同化に成功すれば魂は吸収されてしまう…いずれにしても、彼の身は安全では無いな…」

ロイドの顔は、益々険しいものとなっていくー。




召喚魔法には、時間制限がある。

あまり長く召喚し続けると、召喚者の体力がもたない。


死者や悪魔ともなると、召喚者は引っ張られてしまう恐れがある。

最悪、死に至るか、魂を喰われてしまう。



ロイドを召喚してから、20分程が経過した。

自分の体力が、じわりじわりと削がれていくのを感じる。


もう、時間が無い…。



「吾輩の前では、誰もがひれ伏す。約束を破棄する癖にだ。吾輩は、この少年に復讐を果たす手助けをし、この少年の心を復讐へと導いてあげたのだ。その代償を支払うのの、何が悪いと言うのだね…?」


アンドレアスは、再び左右非対称の奇妙な笑みを見せた。


マグマはぶくぶくと泡を立て、バチバチ弾けた。


映画でみるかのような、花火が弾けたような強烈な炎の塊にセイラは怯み、身震いした。


「さて、どうする…?どうする事も出来まい。」


アンドレアスは、大笑いをし天を仰いだ。



セイラとロイドは、眼光を強め地獄絵図のような世界を息を飲んで見ている事しか出来ないのだった。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る