第31話 果てしなき深淵 ④
ロイドは、セイラの手を引くと眼を吊り上げ杖を振るい俯いた。
「今、魔力を時間稼ぎわお願い出来るかな?お嬢ちゃん…」
彼は、自身の箒を強く握り締めた。彼の周りを取り囲む白銀の光は、益々光を強めていった。
「分かりました。やってみます…」
セイラは、白銀の光に包まれ全身に強いエネルギーがみなぎった。
すると、箒のスピードは勢いを増しぐんぐん前へと前進した。
辺りの景色が目まぐるしく様変わりする。
セイラは、時速1000キロもの感覚を覚えた。
「あ!シリウスだ…!」
すぐ目の前には、湾曲しながら箒に乗るシリウスの姿があった。
すると、彼はいきなり急降下した。
「風の精霊王、アロア、ゆる彼を護れ。」
セイラは、箒を急降下させると杖を振るった。
風に包まれたシリウスは、一瞬宙で停止しそのままぱたりと地面に倒れた。
セイラも着地すると、シリウスの前に駆けつけた。
その時、シリウスの足元から、ジリジリと朱色の炎がマグマのようにふつふつ放出された。
「な、何よ、これは…悪魔…?」
マグマは、バンと爆発したような強い音を立てた。
マグマはドロドロと零れ、辺りは朱色の灼熱地獄となっていた。
キコキコと、強い金切り声が響き渡るー。
地獄のような修羅のような、おぞましい金切り声ー。
セイラは、身体の芯からビリビリと感電したような支配されたかのような不快感を覚えた。
シリウスの眼は、真っ赤に光り顔や首筋、手の甲にくっきり太い血管が浮き出ている。
鋭い突風から、セイラは5メートル後方に吹き飛ばされた。
「嘘…どうしよう…取り憑かれたんだ…。」
セイラは、不安になりロイドの方を向いた。
しかし、彼はずっと目を閉じ腕を組んでブツブツ何かを唱えていた。
ー何か、何か、呪文を唱えないと…!
しかし、全身が恐怖で強ばり身体は動かないー。
それに、直接シリウスを攻撃する訳にもいかないー。
目の前の、摩訶不思議な目に見えない敵に対して、セイラは、石膏のように固まり、口を開けて眺めていることしか出来ないでいるのだった。
ふつふつとマグマが一番大きく膨らんでいる所がボコボコ浮き出てきた。それは、人のような姿を成し姿を現した。
人のような姿をしたマグマの化け物は、ゆっくりこちらへ向かって歩いてくるー。
セイラは、息を飲んで呆然と立ち尽くした。
マグマはどんどん剥がれ落ち、中から黒灰色の肌をし尖った耳の小男が姿を現した。
背中には、蝙蝠のような漆黒の羽根を生やしている。
シリウスの身体は、ガクガク大きく前後に揺れ、眼を大きく見開いた。
彼の瞳は、真っ赤に光り白目は黒く変色した。
口元には、鋭い牙を生やしている。
これは、夢だろうか?幻だろうか?
いや、そうあって欲しいー。
シリウスは、今、無事で華麗に箒を乗り回していることだろうー。
恐る恐る、自分の頬を強くつねった。
痛みがある。やはり、現実なのだ。
シリウスの眼は吊り上がり、眼光は正しく悪魔そのものだ。
怒り、憎しみ、憤怒、嫉妬、強欲、妬みなど…あらゆる邪気が彼の目に現れていた。
「ようこそ、おいで下さりました。王よ。」
小悪魔は、シリウスに向かって丁寧にお辞儀をした。
「ふぅ。この世界は100年もの間、ご無沙汰だったが…ようやく封印の解き方が解ったわ…随分退屈しとったわ。器からを介さなくともこの身が解放されれば、500年振りの自由となる。」
シリウスを器とする悪魔は、カッカッカ…と、渋く低い笑い声を出した。
「アンドレアス殿下…この世界は、まだ窮屈でしょう…この器を乗っ取り同化させれば…」
「名前を呼ぶな!と、言っておるだろう!」
シリウスは、眉間に皺を深々と刻んだ。
口から、硫黄のような煙を小男向かって吐き出した。
小男は、5メートル程吹き飛ばされ大きく尻もちをついた。
「す、すみません…大変、申し訳ありませんでした!殿下…」
小男は、ケホケホ咳き込みシリウスの元へと戻った。
シリウスの足元で、鳥の頭をした影がゆらゆら不安定に大きく揺れた。
そこで、セイラは気がついた。
ーこの2人は、私が見えてないのだろうか?
ブリギッドとロイドの魔力に護られているのだろうかー?
それとも、母の力なのだろうかー?
今は、あれこれ考えていても仕方がないー。
今は、シリウスの救出が肝心だ…
だが…彼を直接、攻撃出来ない…
どうしたら…
セイラは、ごクリと唾を飲み込み勇気を出しもう一度、呪文を唱えた。
「風の精霊王、アロア、水の精霊王、マリン、今、私の傍に君臨し、大地を優しく覆い尽くし、地獄の覇者から救って…エクスペリアムス!」
杖の先端から、風がみるみる渦を成しそれは次第に威力を強めた。水が弾丸のように、次々と放出され花火のような威力となった。
シリウスの額に、風と水が弾丸のように連続して当たり、彼を器とするアンドレアスはキョロキョロ当たりを見渡した。
「な、何だ…?一体、何なのだ…?」
「はて…」
小男も、眼を大きく見開きキョロキョロ見渡した。
ーやった!これで、シリウスを…
「良くやった。お嬢ちゃん。」
ロイドの、いつにもない低く深い渋い声を出した。
天候が、急に様変わりした。
あたり一面が、霧や塵が渦を成し竜巻を形成した。
雷鳴が轟き、雨が暴雨となって容赦なく降り注ぐ。
それは次第にまとまり、全長5メートルの巨人が姿を成した。
巨人は、悪魔二体に向かって悠然と歩いてくる。
彼らは、こちらが見えておらず不思議そうに首を傾げている。
「これが、伝説の魔法使いな力なの…?」
それは、まるで、雷に撃たれたかのような光景だった。
セイラは、その光景を目の当たりにし、彼の魔力の凄まじさに強く胸を打たれた。
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