第27話 闇の業火ベアリアル ⑥

ベアリアルは、全身黒い毛むくじゃらの鳥に姿を変えた。


それは、トトロが巨大化し毛が黒くなったような異様な姿だ。


目がワシのように鋭く尖り、金色に光った。


彼女は、口からオレンジ色の炎を吐き出す。



部屋中のものがぐにゃりと歪み溶けだし、それらは無数の髑髏と骨の山へと変化した。



全身に、とてつもなく強い重力を感じる。


私は、床にへばりつく。


私は、今までにない恐怖で戦慄した。


ーこれが、本物の地獄というものだろうかー?


胸の動悸が、益々強くなっていくー。


魂が取られてしまうのは、時間の問題だ…



いや、私達は、さっきまで幻覚を見ていたのだ。



これが、現実なのだ。



ーこれが、ベアリアル…?


ー友達とは、一体、どんなものを言うのだろう?私とベアリアルは、本当の友達なのだろうか?お互いに対等に、良い意味で刺激し合い、高めあっていただろうか?


私は、今までずっと孤独だったから友達の概念が分からなかった。


醜いアヒルの子は、白鳥の概念がずっと分からない。



友達とは、一緒に居て、安らぐ、楽しい、何でも話せる、協力し合えるものだとは、周りを見てきて学習した。


私とベアリアルは、こういう関係ではないのだろうかー?


こんな醜い容貌になって、私の仲間を傷付けて欲しくないー。



ーベアリアルは、私の友達じゃないー。



私は、悪魔に良いようにされていた子分なのだ。


私の口から、牙がにょきにょき生えてきた。



ブリギッドは、懸命に立ち続け呪文を唱えた。


「精霊アラベスク、我が魂に宿りし力給え。」


ブリギッドの放つツタから棘が無数に生え、羽根の弾丸を弾き返しベアリアルに巻きついた。


ブリギッドは、それを引っ張ると更に呪文を唱えた。



「銀のオベリスク、偉大な精霊王、銀眼の女王、イライザ、今、ここに現れよ。エール・マーレ・バーン」


ブリギッドの眼が銀色に光り、茨のツタが、銀色に輝いた。


ブリギッドの全身から汗が滝のように流れ、迸った。


「アスクス・白銀の精霊ユニコーン、今、私に力を与えて!」


セイラも、呪文を唱えた。セイラの手前の床が、白銀色に輝き半径1メートル位の円を描いた。

その中から、白銀色に光り輝くユニコーンが姿を現した。


ユニコーンは、そのまま猛スピードでベアリアルに突進してくる。



ベアリアルは、銀のツタを握り閉めると口からオレンジ色の炎を吐き出し、それで溶かしユニコーンを飲み込んだ。




ーど、どうしよう…ブリギッドもセイラも限界だ。ブリギッドは、全身汗だくで頑張ってる。セイラは、床に両手をついて荒い息をしている。



もしかして、ベアリアルは私の事を試しているのではないだろうかー?


ベアリアルは、きっと、私に本当の友達というのを選ばせ分からせるのだ…


残酷な様をこの私に見せ、弄んでるんだ…


私は、きっと、この悪魔に依存していたのかも知れないー。


もしかしたら、私は、彼女からそうするように仕向けられていたのかも知れないー。



だが、私はこの悪魔について何も知らない。


書物に書き記されていた事でしか、彼女が分からない。


ベアリアルに関するその他の情報を、語らない。


彼女は、自分の事は何も語らない。



言ってはならない深い秘密があるのだろうかー?


長いまつ毛、ブロンドの髪、天使のような煌びやかな風貌ー



「皆、望まれて生まれてくるのよ。望まれない命なんて存在しない。神や精霊に護られていらるから。」

ブリギッドは、再びツタを出現させるとベアリアルの身体を縛り付けた。



私の身体も、感電したかのようなビリビリした強い痛みが迸った。身体の芯から強い熱を帯びた。


私の全身から、汗が滝のように流れた。


ベアリアルは、得意げになり声を張り上げた。


「ふふふ。私が封印されると、この子の身体も滅ぶ。私達は友達だから。契約してるから。」


ー!?


ベアリアルがわざと力を抜いて戦った理由が分かった。


私の肉体が滅ばないように手加減していたのだ。


私の魔力は未熟だ。ベアリアルのような強大な魔力を有する悪魔が本気を出せば、私の肉体は一瞬で塵と化すことだろう。


「友達ごっこは、もうお終いにしましょう。」


ブリギッドの声は冷淡で低くなった。彼女の掴むツタが、乳白色に輝きを増し花火が炸裂したようにバチバチ強い光を放った。


光属性だろうかー?


光属性のブリギッドと、闇属性の悪魔は互いに相性が悪い。


しかも、このドル・イドは強い。



外見は少女だが、きっと何百年も生きてきたのだろう。


炸裂した乳白色の花火の中から、白銀の光に包まれたユニコーンが出現した。



花火の光線と、ユニコーンが電光石火のようなスピードで、ベアリアル目掛けて襲いかかってくる。


ベアリアルは、2人に無数の黒い羽根を弾丸のように飛ばした。



ー私が犠牲になれば、全てが終わるー。



私は、ベアリアルの前に背を向け立った。ベアリアルの黒い羽根が、私の全身に突き刺さる。


「あら…助太刀に来たの…?貴女の邪魔者は皆、殺してあげると約束したじゃない。」


ベアリアルは、ねっとりした甘い声を出した。口からオレンジ色の炎が漏れ出す。



「待って!私のペンダントは、精霊王の力が備わってるの。だから、一緒に戻ろう。」


「もう、私達の力は持たない。早く、こっちに戻って生きて償うの。」


私は、懸命に訴える2人に対して首を横に振った。


「もういいよ。今まで、沢山の人達が私のせいで犠牲になってきたの。その犠牲になった魂を、ベアリアルは喰らった。」



「やめてー!!!」


セイラの叫び声を振り切り、私は両手を拡げた。


私の周りでぐるぐると、強烈な黒い渦が形成された。


ーこれが、悪魔の力というものなのかー?


全てが小石のように感じ、ちっぽけに感じる。


私は、苦笑いした。



その渦はツタの先端とユニコーンの角を引き寄せた。


私は、茨のツタに腹部を貫かれユニコーンの角に胸を刺された。



ベアリアルは、びくっと仰け反り私の方を向いた。


そして、動きは緩慢となり岩のオブジェのように停止した。


ー想定外だろう。


臆病で、受動的で言いなりにばかりなってきたこの私が、自発的な行動をするとは思ってもみなかった事だろう。


私は、セイラとブリギッドの方を向いた。


彼女らは、互いに依存はせず、補いあい、共に同じ方向を向き、共に戦う。


羨ましい。


これが、本当の友情というものなのかな…?



「あなた、やっぱり僧侶らしいよね。」


私は、弱々しく笑った。


「あなた、ドル・イドでしょう?初めて見た時から、分かってた。何か、違うなって…何の為にここに入ってきたのかは分からないけど…」


「…え?」

セイラは、ハッとしブリギッドの方を向いた。


ブリギッドは、真顔でじっとこちらを見つめている。


クールな表情の裏に、沢山の深い闇が隠されていることだろうー。


今迄の苦労が沢山詰まっていることだろう。それは、茨のように険しいものだったろうー。


「あのね、私、ベアリアルと身体を共有してるの。契約しちゃったから。つまり、ベアリアルを倒して呪いを解くと、私の肉体も滅ぶ。」



「そんな…」

セイラの瞳孔が不安定に揺れた。


セイラは、優しい。いや、お人好しだ。


天真爛漫で純新無垢だ。


あまりにもピュア過ぎて、砂糖菓子のようだ。



「私、もっと早く、あなた達に出会えていれば違ってたのかな…?」

私の身体は、骨の髄まで熱を帯びた。私の血は黒ずんでいた。身体の芯まで髄液まで悪魔色に染まってしまっていたのだ。


じわりじわりと悪魔色に…




「そんな…ブリギッド、どうしたら…」

セイラは、涙ぐみオロオロしている。


「こうなったら、あの手を使うしかないわね。かなりの体力を削ぐけど…」

ブリギッドは、眼光を鷹のように光らせ知恵を絞っている。


人からこんなに真剣に思われたのは、生まれて初めてかも知れないー。


家族仲は冷えきっていた。

周りの皆は、私を邪険に見てきた。


私は、永遠に出口のない迷路を彷徨い続けていた。


いや、もしかしたら、私自身が自分で薄暗い迷路の中で安堵していたのかもしれないー。



「もう、いいの。ありがとう。」

私は、弱弱しく微笑んだ。


私とベアリアルは、光の粒子のシャワーに包まれた。



私は、強い恍惚感を覚えた。



全身が、すっかり軽くなり血も自然に無くなっていた。



何だか凄く幸せだ満たされている。


私とベアリアルは強烈な光の渦に包まれ、


そして、消えた。


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