第26話 闇の業火ベアリアル ⑤

オレンジ色の業火に包まれた奥から、


「駄目!」


と、いう強い叫び声が聞こえてきた。


セイラの声だー



私は、ハッとし声のある方へと視線をやる。


「森の精霊王、アラベスク、今、ここに参上せよ。」


ブリギッドの呪文と共に、乳白色の光は渦を巻き益々強大になった。


その光の中から、樹木のつたがニョキニョキ大蛇のように生えてきて、業火を包み込んだ。




私は、ハッとしベリアルに視線をやる。


ベリアルの背中の黒い翼がみるみる大きくなっていったかと思うと、彼女は両手を拡げ黒い羽根を弾丸のように、セイラとブリギッド目指して飛ばした。


ブリギッドは、ツタを鞭のように盾のように自在に操ると黒い羽根を次々と弾き返した。



私は、何処と無く強い違和感を覚えた。

私の、身体全身がビリビリ痺れてくる。

ベアリアルの実力は、こんなんじゃないー。

もっともっと強大で、人を恐れさせる強大なブラックホールのようなものだー。


私はここで気が付いた。


ベアリアルは、手加減してるのだと。


だとしたら、何のためにー?


私は、不安になり頭を抱えた。



ベアリアルは、いつも通り優しい笑みを浮かべている。



「ベアリアル…」

私は、不安になりベアリアルの方へ視線をやった。


「後戻りは出来ないのよ?」


ベアリアルのその言葉に、私は強く頷いた。



私の手の指の爪はグレーになっていきみるみる伸びていくー。


恐る恐る、向こう側の姿見に視線をやる。


そこには、制服を着た奇妙な姿の私がいたのだ。



耳はとんがっており、眼は金色ー。鼻は鷲鼻で先端が異様に尖っている。



肌の色は青白く、血の気が抜けたようになっている。


「だ、誰…?誰なの…?」


私は、ガクガク震えた。


ー違うー。これは、私の本当に求めていたものじゃないー。



私は益々強く震えた。


部屋全体が大きくぐらつき、姿見はひび割れた。


ショーケースの硝子は、粉々に割れた。



「いやっ!!!」


私は、目を閉じ耳を塞ぎ首を大きく振った。



「怖がることは無いわ。これが、貴女が求めていた異能の力なのよ。」



「…え?」



確かにそうだ。悪魔になりたい、強くなって復讐したいと願ったのはこの私なのだ。



再び、部屋全体が益々強くぐらついた。



わたしの右手の人差し指から、青紫色の炎がボワッと音を立てて出現した。



部屋中の物アンティークは、無数の髑髏に変貌した。



「貴女は、今まで出会ってきた誰よりも純粋で素直で、真っ直ぐで育てがいがあるわ。美味しそう。」



ベアリアルは、口から八重歯を覗かせ

舌をペロリとなめ回した。



「貴女、悪魔と取り引きする意味を全く分かってない。」

ブリギッドは、いつにも増して厳しい口調でたしなめた。


「え…っ?」


「悪魔と取り引きすると言うことは、完全に向こう側になって二度と戻っては来れない。精神も肉体も骨の髄から魂までをも、悪魔に捧げるという事なのよ。洗脳されて、二度と戻っては来れないって事なのよ。それに、あ貴女、自分のしていることの意味が全く分かってない。年頃の貴女には、まだ未知なる領域だろうけど…」

ブリギッドの眼光は、厳しいさくら光っていた。


「そ、そんな…?」



「貴女が今まで出会ってきた悪魔が、何故貴女とまともに取り合ってくれなかったのか、理由分かる?」


「分からない…」


「彼らは、魔力が未熟な貴女の相手をした所で何も得るものがないからよ。未熟な魔女の卵を相手にした所で、時間が無駄になる。徒労に終わるから。」


「だ、だから、何なの?」

このドル・イドは、核心をついて抉ってくる。胸がバクバクズキズキしてくるー。

「貴女は、光の側ー。光の側の魔女だから、彼らは貴女の相手をしたくはなかった。一番苦手な属性だから。光は闇を脅かす存在なのよ。貴女は、光なのよ。だから、この学校に来た。」

ブリギッドの口調は、益々強くなった。

乳白色の光は強くなり黒い羽根を弾き返し続けた。


「あ…」


悪魔達のあの表情ー。あれは、自分にとって脅威になるからなのだろう。




「選んで。」


黒い羽根の弾丸を弾き返すブリギッドの顔は、険しく声もどっしり重いものとなった。

「…は…?」


「私達の側に戻るか、向こう側になって二度と戻って来れないか…今なら、まだ間に合う。」

ブリギッドは、再び念押しした。


「ドル・イドなんかに惑わされたら、駄目よ。貴女。」

ベアリアルは、眼を細め蜂蜜のようなねっとりした声で私の頭を優しく撫でた。



悪魔に執着し蒸発してしまった父、怪しげな活動をし洗脳され散財してしまった母、


そして、非力な自分自身ー


周りから馬鹿にされクスクス笑われ、陰口叩かれ異邦人と罵られ、すっかり浮いてしまった自分ー。


どんなに頑張っても、頭は悪くコミニケーションも取れずろくに魔法は使えない…


親に対する憎悪が、自分自身に対する非力さ…


容姿は悪い…


自分自身の醜い感情は、最早、ブレーキが効かない所まで来ていた。


劣等感や憎悪が増幅していきブラックホールのように渦巻いて爆発した。



そんな私を救ってくれたのは、悪魔だ…



禁断魔法に手を出したのは、仕方の無いことなのだ。


自分の味方なんて、学校にもどこにも居ないー。


自分は、醜いアヒルの子のままなのだ。


ずっと、このままでいい…


心も、身体も骨の髄まで悪魔に一生捧げてもいい。


もう、手遅れなのは分かりきっている。



乳白色の渦から、叫び声が聞こえた。


「あなたは、まだ、怖いだけなんだ。他人に心を許すのが…今まで、怖かったから。でも、あなたを利用し不幸を撒き散らし人を陥れるのは、本当の友達じゃないよ!」


セイラのその言葉に、私はハッとした。

胸の鼓動は、益々強くなった。




「そうなの…貴女、光の側なの…」


ベアリアルは、不気味にほくそ笑むと顔が青白くなった。


彼女は漆黒の翼を拡げ、全身がみるみる毛深くなったと思ったら、黒い羽根が生える。

身体はどんどん大きく膨れ上がり、天井を貫いた。


辺りは、重苦しいブラックホールのような渦に包まれた。

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