第25話 闇の業火ベアリアル ④
セイラとブリギッドは、悪魔の業火に覆われた。
これで、終わりだ。
全てが上手くいくー。
もう、誰も私の邪魔は出来ないー。
乳白色の強烈な炎が、辺りを覆い私はあまりの眩しさに、咄嗟に目を閉じた。
多分、ブリギッドの仕業だろう。
ブリギッドは、紛れもなくドル・イドだ。
悪魔や魔女と対立する側ー、光の側の僧侶だ。
前々から、オーラで分かってはいた。
でも、無駄だ…
こんなんじゃ、勝てないー。
私がこの学校に入学した理由は、よく分からない。
多分、校長先生の気まぐれであろうとは分かった。
私は、母子家庭で人と魔女のハーフだ。父は悪魔学に取り憑かれ、そして蒸発してしまった。
多分、悪魔に連れ去られてしまったのだろう。
父は、薄暗い書斎に蝋燭を灯し床に直径1メートル程の円と六芒星、幾何学模様を複雑に描きこんだ。
また、その日によってバリエーションは違っていた。
母は、父を制したが諦め、いつしか夫婦仲は冷えきっていた。
母は私を引き連れて別居する事にした。
私は、父の影響で悪魔に人一倍詳しかった。
初めは興味本位であったが、いつしか悪魔に精通するようになっていった。
私が、悪魔に興味を持つようになったきっかけは、私が人と魔女のハーフで虐めにあっていた事と、私の親に何やらよからぬ秘密があるからである。
その詳細は知られてないが、皆、私を変な目で見て避けるのだ。私に親切にしてくれた人も、私を裏切った。
私の心は、次第に歪むようになっていき、悪魔の虜となったのだ。
そして、いつしか奴らに復讐をしてやる、親にも復讐をしてやると、強く悪魔に誓ったのだ。
私は、悪魔に関する分厚い500~600ページに跨る本を、30冊も読み漁り召喚方法について調べあげた。
ルシファーやベリアル、ベルゼブブなどといった有名な悪魔は勿論のこと、アモナデウスやマルコシアス、マモンのようなマイナーな悪魔まで熟知している。
召喚に関する知識までをも身につけ、30回、40回失敗を繰り返した。
私は、本物の悪魔に取り憑かれているかのように眉間に皺を寄せ幾度となくチャレンジをくし返した。
そして、55回目にして遂に悪魔を召喚することに成功したのだ。
初めて召喚に成功した時は、強い爽快感を覚えた。
しかし、その直後、私は強い目眩と頭痛、嘔吐のような症状が襲い、全身が鉛のように重く両手を床に張るような状態だった。
私は、ここで覚悟を決めた。
私を愚弄してきた奴らに復讐をしてやるのだとー。
どの悪魔も、私に優しくしてくれるし色んな知識を教えてくれる。
私は、その度に視野が広くなり新たな見識を身につけるようになった。
しかし、彼らは賢過ぎるのか、誰もが私を見ると物足りなさそうな顔をし、首を横に振った。
彼らは、人生経験が未熟で魔力も大して強くない、精神も不安定な思春期の魔女と取り引きしたところで、何の見返りが来ないのは、知っていたのだ。
下手したら、私が灰になるだけで終わる事だろう。
彼らは、非常に聡明で慧眼の持ち主だ。私の思考や感情、今までの人生経験は勿論見通してしまう。また、私の環境から遺伝、性格、特性や弱点に及ぶまで全て読み取れてしまうのだろう。
彼らは、私に天使のように優しく森羅万象の法則や、人の心、魔法界の物事や、過去と未来を教えてくれた。
しかも、何の見返りも求めない
どころかまともに取り合ってはくれない。
皆、苦い顔をする。
彼らは、私の事を10歳そこそこの小娘としか見てなかったのだろう。
私は、全身から力が抜け、どっと燃え尽きた。
それ以来、半年程召喚はしない事にした。
この学校に入学してから、フラストレーションは更に溜まった。
いつも通り、皆私を変な目で見てくすくす笑う。
そんな中、私は久しく悪魔を召喚してみることにした。
私は、自分にまともに相手をしてくれそうな悪魔呼ぶことにした。
そして、このベアリアルにたどり着いた。
彼女は、思春期の少女の前にしか姿を現さない。
私の悩みを聞いてくれ、まともに取り合ってくれることだろうー。
彼女は、16か17位の少女のような風貌をしていた。
その人は、とても美しい容貌をし聡明で私の悩みを何でも聞いてくれた。
今までの悪魔にはない優しさだ。
しかし、彼女は神経質で過敏なのか、いつも暗く静かな場所にしか姿を現さない。
だが、私の苦しみを全部聞いてくれ願いを叶えてくれた。
たが、私自身に関する願い事に関する条件は、私の頭を悩ませた。
私が金持ちになる、容姿や能力を向上させるということは、その代わりの対価を支払わなくてはならない。
その対価とは、寿命である。
一つの取り柄を得る度に、寿命が5年ずつ短くなっていく。
私は、今までヤケを起こして一回使ってしまった。
痩せるおまじないだ。
些細な悩みだったが、ずっとコンプレックスでよくからかわれ虐めにあっていたのだ。
しかし、2回目からはまだ覚悟は出来てはいない。
私も、セイラのように明るく社交的で皆に気を配れる優しい性格になりたいー。
箒で、自由に空を飛び回り周りの喝采を浴びたいー。魔力を読む力が欲しいー。
ブリギッドのように、膨大な専門知識と慧眼さ、精霊の力で魔力を操る力が欲しいー。
私は、根暗だし頭が悪いし体力もない不細工だし、臆病者だ。
目の前の乳白色の光が、オレンジ色の業火を飲み込み強い花火のような眩い光が辺りを包み込んだ。
ーああ、駄目だ…負けてしまう…
私は、咄嗟に1番言ってはいけない願いを追加した。
「私の寿命の殆どをあげるから、勝って!なんなら、私が悪魔になる!」
ベアリアルは、いつも通りに天使のような悪魔の笑みを浮かべた。
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