第24話 闇の業火ベアリアル ③


スピカは嫌な事がある度に、まやかしの悪魔、ベアリアルの元へ向かい己の怒りをぶつけつづけた。


「ねぇ、ベアリアルは、ずっと私の味方でいてくれる?」

スピカは、目を閉じた。そして、ベアリアルの膝の上に頭を乗せると膝枕のような状態になった。

「ええ。勿論。」

ベアリアルは、ゆっくり優しくスピカの頭を撫でた。

「やったー。私に心強い親友が出来た…!」

スピカは、無邪気に笑った。

しかし、その笑みは左右非対称の歪んだ歪な感じであり、本来の彼女のはにかんだ純粋な笑みとは全く異なるものであった。



学校内は、日に日に異様な光景へと変貌していった。


人が一人、二人と、徐々に少なくなっていくのに、誰も気にも止めてない。


校内では、鳥が飛び回り猿や犬や猫、植物が生い茂り、まるで動物園のような植物公園のような摩訶不思議な光景が広がっていた。


「どうしよう…早く、何とかしないと…」

セイラは、辺りの異様な光景に目を疑った。

肝心な悪魔の手がかりはまだなく、今はその生徒の事が気がかりだ。

「まだ、この学校内に悪魔と繋がりのある生徒がいるだろうから、その子を探さないと…」

ブリギッドのこういう指を重ね合わせた真剣な眼差しは、昔チラッと見た父方の祖父に似ている。祖父は、何か思い詰めると目に皺を寄せる癖もある。


「悪魔は、悪魔は、何処にいるの…?」

「あの悪魔の出没する条件を思い出して。」

「あ…っ。ベタリアルは、太陽が嫌いだって…だとしたら、夕方とか…夜に出るの…?」

セイラは、昨日見た図書館の本の内容を思い出しながら話した。

「か、若しくは、太陽の陽が届かない地下の薄暗い部屋なら召喚可能かも知れないわね。あの悪魔は、神経質で用意周到だから、僅かな太陽の光も嫌がるのよ。夕焼けも拒絶すると思うわ。」

ブリギッドは、13歳とは思えない位の大人びた表情で頼もしい口調で話した。

セイラは、270年位前の写真を思い出した。

「あ、悪魔も闇の魔女も太陽は苦手だもんね。」

「あと、彼女は賑やかな所を野蛮と見なし嫌うから、静かな所が好むわ。この学校内でお喋り禁止な一番静かな場所と言えば…」

「あっ、図書館ね。」

「そこに、向かいましょう。」


2人は図書館に向かうと、辺りに召喚のサークルが無いか確認して回った。


「六芒星らしき紋様はないよ…」

「見つかったら、大騒ぎになるのよ。あの召喚した生徒は、心に強い劣等感を抱えているだろうから、多分、私達の目に触れない、奥の奥に…」

「その、奥の奥に行けば分かるのね…」

セイラは、ゴクリと唾を飲んだ。

「ええ。あの生徒は、心の奥深くに闇を抱えてるから…」



2人は、広い図書館のひたすら奥の方まで歩き続けた。



「アローラ・エクーサ・ジー・ラスタ…」

ブリギッドが杖を振り呪文を唱えると、書架は重い音を立てて弧を描き左右に開いた。



「何?この呪文は…?」

「昔の本に、出てきたおまじないよ。この呪文は、需要が低いから誰にも知られてないのよ。」



2人は、暗く狭い通路を歩き続けた。しばらく歩くと左手に、お菓子の家のようなメルヘンで奇妙な扉が見えた。



「合言葉は?」

「え…?合言葉…」

セイラが見上げると、そこに奇妙な顔をした鈴がぶら下がっているのが見えた。

「これは、用意周到な悪魔が仕掛けた仕組みね。私達を試してるのよ。チャンスは、3回まで。4回間違えると、魂を喰われる。」


「え…?この鈴が、悪魔…?」

「悪魔のドールね。召喚部屋の門番をしてるのよ。」


「この中に、例の生徒と悪魔が…」


「ええ。そう思うわ。合言葉は、『金のオブジェ、黒鳥の羽根、ドル・イドのまやかし』よ。」

ブリギッドは、迷わずスラスラと合言葉を言った。


すると、扉は静かに開き2人は中へと吸い込まれていった。



目の前には、杖を握り締め呆然と立ち尽くしたスピカの姿があった。



「ここに居たのね?」

ブリギッドは、臆することなくスピカに歩み寄る。

彼女の背後には、オレンジ色の業火に包まれ玉座に座ったゴスロリ服の少女の姿をした悪魔がいた。頭部の左右から羊の角のような物を生やし、金髪のウエーブで整った顔立ち、天使のような美貌の持ち主だ。

彼女は、脚を組んで首を傾げて此方をじっと、見つめているのが見えた。



本の絵で見たのとそっくりの容貌をしている。


ーこれが、人の心を弄ぶとされるベアリアルという名の悪魔かー


「ブリギッド…」

セイラは、ざわざわしたものを感じブリギッドを呼び止めた。ブリギッドも悪魔に呑み込まれてしまいそうで、怖くなった。


「大丈夫よ。」

ブリギッドは、振り向かずスピカとベアリアルに近づく。

この頼もしい背中は、紛れもなく祖父のものと重なった。

昔、夜トイレに行くのが怖く、祖父の背中の後ろで恐る恐る歩いたことがある。



「何で、変身してないの?私、ちゃんと友達に頼んだのに…」

スピカは、強く杖を握りしめセイラとブリギッドを睨みつけた。

彼女の顔や言動からして、普段の大人しく気弱な感じのスピカとは全くの別人のようになっていた。悪魔に侵食されているのだろう。

「ううん。違う。ソイツは、あなたの友達じゃない。本当の友達は、友達の仲間をも大切にするから。ソイツは、あなたをただ、利用しているだけなの!」

セイラは、強く首を横に振りスピカに近づいた。


ー今、ここで引き返したりしたら、スピカは、永遠に戻って来れなくなるー。



「ふん、何かと思えば、私を馬鹿にしに来たんでしょう!?」

スピカの口調や顔つきが、段々人間離れしていく。でも、今なら、まだ間に合うー。魂は、取られてないー。

「そんな事ない!あなたを変にするのは、友達なんかじゃない!友達は、互いに高め合うものなんだよ?あなたは、そそのかされソイツに依存してるだけ…私は、スピカを…」

「私を止めに来た?それとも、助けに来た?この、偽善者。どうせ、良い事言って気持ち良くなりたいだけなんでしょう?ベアリアル、この二人を岩のオブジェにして。」

スピカの口調は、益々強く荒いものになっていった。

顔つきは、完全に悪魔のような化け物じみた形相になっており、セイラは一瞬身震いを起こしてしまった。


「仰せのままに。」


ベアリアルは、不気味にほくそ笑んだ。

メラメラと燃えたオレンジ色の業火が、セイラとブリギッドを覆い尽くした。

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