第23話 闇の業火ベアリアル ②


学校内では、次々と、生徒が消えるという神隠しのような現象が起きた。



「ねぇ、エリアスとイルマは見なかった?」

「知らない…そういえば、ベアトリスやベネロペも見てないわ…」

「ニーナも、シエルもずっと見てないわね…」

「寮には居なかったの?」

「うん。」

「変ね…」




学校内では、その事が取り上げられ生徒一人ひとりに事情聴取が行われたが、翌日には何も無かったかのように平穏に時を過ごしていた。




人は次々と消えていき、その度に奇妙な植物や岩が姿を現した。

それは、ホラーさながらであり絶叫した人やしゃがみこむ人、逃げ惑う人など様々なリアルな樹木があった。

夜見たら、お化け屋敷さながらかのような不気味さがそこにあった。



スピカは、嫌なことがある度に奇妙な部屋に行きベアリアルを召喚する。


「あのね…私、アイツらがね。」

「あらぁ、それは、可哀想に…」

「私、奴らより凄くなって復讐してやりたいの!奴らなんか…!」

スピカは、怒りを爆発させた。

「あなた、分かってるの?強くなるという事は、いずれ貴女の魂は…」



ベアリアルのその言葉に、スピカはハッとした。

「ちょっと、考えさせて。」



しばらくの間ー、重たい沈黙が流れた。




翌日ー、一次元目は魔法薬学の授業があった。


生徒は、グループに別れてそれぞれ指定された材料で調合していく。


「ええと、ニワトコの杖、ドラゴンの鱗、ルーンの翼…」

スピカは、テキストを読み上げると材料を鍋に投入していく。


キーンと、強い音が脳内に響き渡るー。

スピカは、強く耳を塞いだ。



「馬鹿じゃないの…?」

周りで、クスクス笑い声が聞こえてくるような気がした。


何処と無く強い違和感のようなものを感じた。


スピカは、今まで小馬鹿にされからかわれできたが、このようにあからさまに邪険な扱いを受けたのは自分の勘違いなのでは…?とも、思った。


もしかして、エリアスやイルマの時から自分は既におかしくなったのだろうか?


この、強い耳鳴りが関係してるのだろうかー?


自分の性根がねじ曲がり過ぎたのだろうかー?



だが、クスクスという笑い声は益々強くなっていき、スピカは我慢出来ず耳を塞ぎながら席を立ちその場から走り去っていった。




ー悔しい!悔しい!悔しい!悔しい!



スピカは、今まで溜まっていた怒りが爆発しその場を去った。


いつもの図書室へ向かい、呪文を唱え奥の書架を開け例の部屋へと向かう。


合言葉を唱え部屋へ招かれると、強い口調で声を張り上げた。


「出てよ、地獄の王、ベアリアル!」


スピカのその怒りの叫びと共にマグマがふつふつと湧き上がり、中から金の玉座に座ったベアリアルが姿を現した。



「今日は、どうしたの…?」

「あのね…皆、要らない!邪魔、皆、木にして!」

スピカは、眉間に深く皺を刻み鬼のような形相で、まくしたてた。

「取り返しがつかないってこと、分かってるわよね?」

ベアリアルは、優しく微笑むと念押しした。

天使のような美貌を持つ悪魔は、透き通る琥珀色の瞳でスピカを優しく見つめ、歩み寄る。そして、優しく頭を撫で頬に手を当てた。

「うん。」

スピカは、強く頷いた。



生徒らが、いつものように麗かな日常を過ごしている中ー、セイラとブリギッドだけ顔を見合わせて首を傾げていた。


「どうも、おかしいわ。」

ブリギッドは、眉を寄せ辺りを見渡す。

「うん。私も何か、何か、強い違和感があるの。でも、分からない…思い出せない…早急に何とかしないといけないことだけは、分かるの…この学校で、生徒の誰かが大変なのは、分かるんだけど、まさか、ね…」

セイラは、信じたくはなかった。


「あの不気味な木々や岩、急に現れた動物からして、物語ってるわ。誰も、それすらも何とも思わないでいる。その子のバックには強力で狡猾な悪魔がついているのね。」

ブリギッドは、急に真顔になりいつにも増して真剣な口調になった。

「えっ!?で、でも、どうして周りは普通に過ごしてるの?」

「どうも、それが引っかかるのよね。多分、貴女はお母様譲りの魔力を感知する才能があるのよね。その、悪魔について、ちょっと、図書室で調べてみましょう。手掛かりが見つかると思うわ。」


2人は図書室に入ると、二手に別れその奇妙な悪魔について調べる事にした。


セイラがしばらく中を歩いていくと、奥の方に1番古めかしいい奇妙な古びた本があるのが見えた。


「これかしら…?」




セイラは、興味本位にその本を手に取るとペラペラページをめくった。

「ええと、この時代はー。わ、かなり昔じゃない…」



セイラのいた日本からしたら、1700年代半ばー。江戸中期になるー。


そして、そこに奇妙な古めかしい写真が挟まっていた。



セイラは、徐にその写真を手に取った。



大樹を取り囲み、ドル・イド達の集合写真があった。


その中に、校長とブリギッドとそっくりの2人の姿がそこにあった。


「校長先生とブリギッド…?まさかね。」


校長は初老ぐらいで、ブリギッドは自分と同じ歳だ。


こんな大昔に2人が生きていたなんて到底考えられない。


過去にタイムスリップしたのだとしたら…いや、それも有り得ない。


それは禁断魔術だ。行ったら、自分の身が崩壊するどころか世界も巻き添えになる事だろう。

冷静沈着で穏和な2人がそれをやるとは、到底考えられないー。




セイラは、ふと、ずっと前にブリギッドが、魔女の模擬試験で、「合格点に届かなかった」と、嘆いていた時の事を思い出した。


そして、占いの先生のあの表情…


それは、もしかしたら…


ブリギッドは、魔女ではなくてそれと対極する側の存在だとしたら…


魔女や魔法使いを嫌悪すると有名なドル・イドが、2人に対して嫌な顔ひとつせず友好的に振舞っている。


だとしたら、2人は僧侶側の者だということになる。


ブリギッドは、魔女の素質は確かにない。僧侶と魔女は、互いに相反するなる存在なのだ。


性質や役割は、全く異なる。


僧侶は、祈りの力と精霊の力で魔力を発揮する。

己に天界の者や精霊を己に宿し、魔力を駆使する。

死者を鎮魂し、それで悪魔と戦う。

努力より、元からの特性や才能が大きく関係する。


一方で、魔女は、呪文により、魔具を振るい、呪文を唱える。

そして、使い魔を使う。

死者を使い、自身の守護霊にする。

元からある己の特性が関係するが、それなりに長い年月をかけた鍛錬…修行が必要になる。


時には、悪魔の力を借りたり死者を甦らせる。



僧侶は、自然や精霊の力を使い対話する反面、魔女は自身の元からある性質を利用する。


そして、ブリギッドは魔力で不老不死になってるのだとしたら…


ブリギッドは、歳の割に落ちついており博識だ。


だからと言って、確証はない。


「ま、まさかね…考え過ぎだよ…」



「ね、セイラ、これ…」


「え、?!あ、何…?」


セイラは、アルバムをしまい元に戻すと、ブリギッドの方まで歩いて行った。


「これよ。これ見て。」


ブリギッドは、分厚い本を開くとゴスロリ服の角を生やした少女の絵を指さした。

オレンジ色の炎に包まれた金髪の美少女がゴスロリの服を着ており、脚を組んで首を傾げて金の玉座に座っている。林檎を齧り無邪気な笑みを浮かべていた。


「これよ。年頃の少女にしか目に見えない悪魔と言われていて、何でも願いを叶えてくれると、言われているの。」


「この悪魔に会うには、どうしたらいいの?」


「それが、召喚方法がかなり難しいのよ…大前提として、引き付けられないために強い精神力が必要で、召喚もかなり複雑でもし失敗してしまったら、魂が喰われてしまうと言われているわ。最悪、召喚者の仲間も犠牲になるというのよ。」


「その仲間って、学校の先生や友達、家族ってこと…?」


「ええ。召喚者の信頼し合える強い絆がある者の魂をも喰らってしまうというのよ。召喚者の弱みにつけ込み、当事者が心を開くようになったら、五感を支配されせ孤立させるのよ。そして、召喚者は、味方に牙を向けるようになり、やがてじわりじわりと樹化していくの。」


「そんな…もし、生徒の中に召喚者が居たら、大問題よ…」


「そうよ。だから、大事にならないうちにその問題の生徒を見つけ出すのよ。動物、樹木や岩になった生徒は、徐々に記憶が無くなっていきやがて本当のそれに成り果ててしまうから。」


ブリギッドの眼は鋭く、いつにも増して頼もしかった。


セイラは、その眼から亡くなった父方の祖母の若い頃の写真と重ね合わせて見ていた。

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