第22話 闇の業火ベアリアル ①


セイラは、眼を覚ましハッとすると部屋の時計を確認した。

「ブリギッド、ブリギッド、私、頭が酷くガンガンするの…何があったのかしら…?」

セイラの脇に座っていたブリギッドは、顔色1つ変えずに何やら神妙な眼をしていた。

「セイラ、疲れていたんじゃない?」

ブリギッドは、紅茶を沸かすと

ティーカップに注いだ。

ブリギッドは、ティーカップをセイラに手渡すと神妙な面持ちで彼女の顔を覗き混んだ。

「ありがとう。頭が、楽になってきたような気がしてくる…」

セイラは、ブリギッドから紅茶を受け取ると啜った。

「ブリギッド、私、夢見ていたのかな?奇妙で、恐ろしい夢だった。敵が襲ってきて、ブリギッドが、急に変貌して、それで…」

「何、言ってるの?きっと、疲れていたのよ。セイラ、色々あって大変だったから。おかわりまだあるから。」

ブリギッドは、セイラのカップに残りの紅茶を注いだ。

「ありがとう。」

セイラは、一気に飲み干した。

「何だか、急に気が楽になっちゃった。ありがとう。元気がみなぎるよ。」




セイラとブリギッドが部屋を出ると、廊下で待ち構えていたように例のペンダントを奪い取った生徒が、腕を組んで足踏みしていた。

「咲山セイラ、あんたに聞きたいんだけどさ、シリウスとはどういう関係なの?私、見てたんだけど…」

彼女は、窓にもたれ掛かり口を逆Vの字に尖らせていた。

「ペンダントを探すのを、手伝ってもらっただけです。先輩、見ていたんですか?」

セイラは、直感で彼女があの1件を覗き見していたのだと悟った。

「だから、何?私は、れっきとした貴族の家系よ…彼も貴族。野暮ったいあんたなんかに相応しくないわ。」

先輩は、キーキー声で怒りを顔全部に表現している。

「何?1人では何も出来ない癖に。人の大事な物、よくもあんな事…それに、禁断魔術使ったくせに。先輩は、私の友達に、何かあったら何も出来ずに逃げてたでしょう?この卑怯者。それに、先輩のご両親がそれ知ったら、どう思うんでしょうね?良家の家系の魔女が、礼節に反する事や仲間に禁断魔術を使わせたと知ったら…」


「セイラ、行きましょう。」

ブリギッドが、セイラの袖を引っ張り2人は先輩に背を向けた。


「ふん、飛ぶことしか脳のないあなたにそれ、言われたくは無いわね!」

背後から、怒鳴り声が響き渡る。


「お辞めなさい。ベアトリス。」


「あ、生徒会長…これは、その…」

ベアトリスは、急に人が変わったかのように丸く萎れそそくさとその場を去った。


「セイラさん、ごめんなさいね。この子は、決して悪気はあった訳じゃないのよ。後で、言いつけるから。ほんとにごめんね。」



「あ、エメリアさん…?」


エメリアは、奇妙なまでに深々とお辞儀をするとその場を去って行った。




その日の五時限目の授業は、飛行術だった。



マーガレット先生の笛に合わせ、皆箒にのり競いあった。


他校との交流会ということもあって、白熱したバトルが繰り広げられた。


ドッチボールの空中戦バージョンのようなスポーツで、15対15のスリリングなゲームだ。


このゲームは、学校の名物になっており、セイラの1番の特技であった。


「セイラ、頑張ってね。」

「私も応援してる。」

エリカとブリギッドのその声援に、セイラは背中を押され箒を跨った。


チームのメンバーは、各々の箒に跨ると上昇しコース内に入った。


コースの中央では、マーガレット先生が笛を鳴らしボールを宙高く投げた。


セイラは、真っ先にボールを取ると強くボールを敵陣に向けて投げる。


ボールは強く旋回し、敵陣はちりじりになる。


体育館位の広さを散り散りに上下左右に猛スピードで動き回る。

生徒は、隼のように飛び回り下の観客席では黄色い声援が飛び交っていた。


15分後、笛が鳴り響き5分間の作戦タイムに入った。


生徒は、庭におり各々の作戦タイムに入った。


「ふん。咲山セイラ。動き回ることしか脳の無い猿のくせに。」

セイラを快く思ってないグループの一派が、セイラを睨みつけ何やらコソコソ話していた。

「ねぇ、エリアス、いい事思いついたんだけど…」

エリアスの取り巻きの1人が、何やら悪巧みを考え、彼女に耳打ちした。

「良いわね、イルマ…そこの鈍臭いスピカに…」



マーガレットの笛と共に、試合は再開した。


エリアスとイルマは、互いに目配せをしスピカに照準を合わせた。


そして、エリアスはローブのポケットの中を軽く触りブツブツ呪文を唱えた。


それと同時に、外野にいたイルマはボールをスピカ狙って勢いよく投げた。


ボールは、ロケット弾のようなスピードで飛んでいき、動きの鈍いスピカの顔面に命中した。



スピカは、顔面に当たった拍子に、バランスを失い風に煽られグラグラ揺れ大きく飛ばされる。


エリアスとイルマはクスクス笑い杖をふっていた。


「ホント、鈍臭いよね…あの子ったら…野暮ったいし。」

「そうだね…エリアス。チビガリだし。」


「あ、ちょっと、魔法使ったでしょう!?飛行術に、許可なく飛行以外の魔法は禁じられてるんだよ?知ってるでしょう。」

セイラは、スピカの方へ箒を飛ばし2人を睨みつけた。

証明し難いが、独特の奇妙な魔力の波動をセイラは感じた。彼女は、魔力を感知し読むことに長けているのだ。


「ふん、それ、誰が証明するの?木の死角に入ってるから、先生も、観客席のお友達達も、知らないと思うけどなあ。邪魔だから、どっか行って。」


エリアスは、腕を組むとひゅいと杖を回した。


「アクア・エアリアル…」


エリアスの呪文により、2人は波打つような強い風に包まれ遠くに飛ばされた。



2人は、悲鳴を上げた。クルクル旋回しそして急降下する。



スピカは、目を閉じ杖を回し呪文を唱えた。



「アロラ・エクサ・ジーラスタ…」


2人の足元を、ぶくぶくと無数のシャボン玉が取り囲んだ。

そのシャボン玉は、互いにくっつき次第に鳥のような姿を成した。

全長10メートル位の純白の巨大な鳥が姿を現し、セイラとスピカを身体でキャッチした。


巨大な鳥は、力強く羽ばたき2人を乗せ学校の庭に降り、そしてシャボン玉に戻り消えた。



「ねぇ、さっきの呪文、何なの?凄いじゃない?」

セイラは、爛々と眼を輝かせていた。こんな素敵な魔法を見たのは、生まれて初めてだ。


「あ、い、いや…」

スピカは、赤面しモジモジすると無言で走って去ってしまった。



スピカは、しばらく走ると学校の廊下を全力疾走し、図書室の扉を開き奥の奥の方へと歩き続けた。


図書室は、3階に突き抜けており体育館くらいの広さがある。

魔法界に関わる何千もの本がそこにあった。そこは、スケールの広さが伺えた。


1番奥の書架まで辿り着くと、

スピカは、呪文を唱えた。




「アローラ・エクーサ・ジー・ラスタ…」



書架が、重い音を立ててゆっくり開いた。

そこには、地下に通じる薄暗い階段があった。


スピカは、その暗く細長い階段をゆっくり下りた。


しばらく下りると、左脇に摩訶不思議ななメルヘンチックな扉があった。


ドアにぶら下がっている人の顔をした、奇妙な金のベルが質問する。


「合言葉は?」


「金のオベリスク、黒鳥の羽根、ドル・イドのまやかし…」


スピカが合言葉を答えると、扉は勢い良く開きスピカは、その中に磁石のように吸い込まれた。


その中は、奇妙な小さな骨董品で1杯だった。


古びた本に、摩訶不思議なピエロや、バレリーナのオルゴール、ベネチアのカーニバルのような不思議な人形や海賊のような衣服の骸骨など、あらゆる気味の悪い品々が散在されてあった。


部屋の中央には、赤いチョークで、六芒星、それを取り囲むように円や幾何学模様が記されていた。


スピカは、六芒星の中心に杖の先を向け呪文を唱えた。


「アローラ・エクーサ・出てよ。地獄の魔王。ベアリアル。」



部屋中が、震度7レベル位に強くぐらついた。


スピカは、表情ひとつ変えずに真顔で床を見つめている。



六芒星がぐにゃぐにゃ歪み、ぱっくり割れて中から朱色のマグマがぶくぶく泡を立てて噴出した。


その中から、金の冠を被った黒い翼の黒マントの金髪の小柄な美少女が、姿を現した。


彼女は、白黒のゴスロリのドレスに、頭部に羊のような角を生やしていた。

眼は琥珀色で、口角から鋭い八重歯がチラついた。


彼女は、金の玉座に座り彼女の周りは、オレンジ色の業火が取り囲んでいた。



「あら、スピカ。御機嫌よう。」

悪魔は、悪戯げに首を傾げブロンドの髪をクルクル回している。


「こんにちは。ベアリアル。」


「こうなっちゃったら、もう、後戻りは出来ないのよ?分かってるわよね?…」


「はい…」

スピカは、唾をごくりと飲むとベアリアルと眼を合わせた。そこには、強い決意のようなものがあった。


「今回は、何を、望むのかしら?」

ベアリアルは、甘く囁くような話し方で天使のような笑みを見せた。

「今日ね…私…箒に乗ってたらね、酷く転倒して、皆、先を行ってしまったの…それでクスクスバカにされて…」

スピカは、強い怒りを込めて握りこぶしを強くし早くでまくしたてた。

「そうなの…、」

少女は、眼を細め椅子から立ち上がりスピカのそばに歩み寄った。

業火の勢いは益々強くなった。

「でね、エリアスとイルマを、木にして。」

スピカは、口調を強めた。


「岩や石、鳥だったり、猿だったり、はたまた羊だったり、貴女ってホントに容赦ないわね。取り返しのつかない事だって、分かってるでしょうね?」

ベアリアルは、眼を細め牙を出し悪戯げに微笑んだ。


スピカは、俯きしばらく沈黙すると強く頷く。

「うん。ベアリアル…私たち。ずっと、友達だよね?」


「ええ、最高のベストパートナーよ。最高のね。」

ベアリアルは、フフフ…と、甲高い笑い声を上げスピカの両肩に手を載せた。


炎は、益々強くなり2人を包み込みメラメラ燃え上がった。


マグマは、ふつふつと湧き上がりそして、爆発した。



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