第16話 魔法と秘密 ④


 それから、1週間が経った。


 学園の者は、皆石のことなど忘れいつもの麗らかな平穏な日常を過ごしていた。


 そんな中ー、年に一度の高齢の魔法学校の交流会が行われる事になった。 


6月下旬から7月下旬の1ヶ月に跨り、姉妹協定を結んだ学校が共に講義に参加したり、学園祭などのイベントで共同で催し物を行うのだ。


 そんなある日ー、とうとうその時が来たのだ。


麗らかな、夏晴れの青空の向こうから、グリフォンに引っ張られた馬車が続々と舞い降りてきた。


 そして、馬車の中から男子生徒が次々と出てきた。



「良いですか?皆さん、これは、定例の学校行事です。学園の顔に恥を塗らないよう、浮かれないように。」

サリバン先生は、いつにもなく険しい顔をして踵を効かせている。

「見てみて!アーロンとシリウスよ!」

生徒の内の一人が、中からでてくる男子生徒二人を指差し黄色い声で色めき立った。

「あ、ホントだわ!」

「ねぇ、エナはどっちが好み?」

「私は、アーロンかな…チャーミングな笑顔が素敵…あ、さっきこっち見て手を振ったわ。」

「私は、シリウス…ドライで、ツンケンした感じがたまんないのよね。」

「ねー、こっち向いて手を振ってるよー」

「あー、私、メイクちゃんとしてくるんだった…イケメンを間近で崇められるとしってたら…」

「私、髪がぐじゃぐじゃ、あと、もっとお洒落してくるんだった…」


 女子校なだけあって、ゾクゾクと来訪してくる男子生徒に対し、物珍しそうに皆、

黄色い声で盛り上がっている。


 サリバン生は咳払いをし、生徒はビクッと丸くなった。


「良いですか?決して勝手な行動は慎むように。特に、そこの、貴女方…」

サリバン先生は、セイラとルーナをキツく睨みつけた。


「では、ここから高等部と中等部に別れて行動します。高等部は、後で重要な話があります。では、コチラにグループ分けした表がありますので、自分の名前のあるエリアに行くように。」


 サリバン先生は、講堂のスクリーンにグループ分けしした名前の表を映し出した。


「キャー、やった、アーロンと一緒よ!」

「良いなー」

「私は、シリウスよ!」

「えーずるい!」

生徒達は、そわそわしながら表を眺めていた。


「セイラ、ごめん、」

「ブリギット、元に戻ったの?」

「私、どうかしてたの…何か、周りを、肝心なものを見失ってた…」

「良いよ。もう、終わったことだし…」

セイラは、ブリギットの肩を強く叩いた。


 セイラとブリギットは、Xグループに振り分けられた。


 そこで、グループ毎に、先生の指示に従い行動することになった。


 Xグループは、学校を出て裏山の方まで歩き野外学習を受けることになった。


 セイラは、この前の魔王石のことをぼんやり考えていた。

校長先生が出てきたとしても、あの石の件は、本当に無事に終わったのだろうか?

皆、石の事なぞ忘れて平穏に過ごしている。

もしかしたら、それが石の魔力であり現在進行的に脅威がじわりじわりと侵食しているのだとしたらー


「セイラ、危ない!」

ブリギットがそう言うやいなやセイラは、崖から足をふみ外しグラりと身体が傾いた。

セイラの左肩を、何か強い力が引っ張るのを感じた。

「あ、どうも…ありがとうございます…」

セイラは、赤面した。

シリウスが、咄嗟にセイラの両肩掴み、そのまま自分の方へと引き寄せてきたのだ。

「…別に。」

シリウスは、仏頂面でボソッとそう言うと、視線を再び前へ移し歩き始めた。

「私の名前は、咲山セイラといいます。あの、この辺りは魔王石という呪いの石がありましてね…で、最近、ウチの同級生達が大変なことに…でも、平気。こうして、うちらは…」

セイラは、そう言い掛けるとハッとしシリウスの方へ視線をやる。

「…」

シリウスは、不快そうな顔でセイラに視線を移すと再び無言で前を向いた。

「あの…飛行術得意ですか?私の一番の得意科目なんですが、それに乗ってドラゴンに会えるんですよ…例の谷底ですね…」

セイラは、話題を変えてみたものの、シリウスは興味なさげな表情でただ、前を向いていた。


 セイラは、場を和ませようと必死に話題を提供したものの、失敗だったのか困惑してしまった。


「駄目よ、セイラ。彼、気難しいって有名なのよ。」

「ブリギット、彼の学年は、幾つなの?」

「ウチらより二つ上よ。」

「シリウスも、魔法界のエリートなの?」

「彼は純血よ。御両親が魔法省の幹部で、政界にも進出しているエリートなの。彼は、将来が約束されていて、いずれは魔法界のトップになると噂されてる才能の持ち主なのよ。」

「じゃあ、ノーマルの人間が学ぶような、国語、数学、英語、理科、社会、美術、音楽、体育も?」

「ええ、そうよ。両親が、彼が人間界にも通じるようにそれなりの英才教育をほどこしたわ。彼は、人間界でいう…ええと、ハーバードやオックスフォードのようなところのトップレベルの学力があるかも知れないわ。」

「へぇ~」

 彼は、無愛想で感じが悪そうだが、不器用なだけかも知れない。根は良い人そうだ。

 長いまつげに、くっきりとしたキレの長いアーモンド型の吊り目が特徴的だ。顔立ちは端正であり、黒灰色の癖毛がかった髪をワックスで無造作に遊ばせていた。

 そして、彼は何処かしらに暗がりがありミステリアスな独特な雰囲気を醸し出していた。

 身長は、175センチ位だろうか?年齢の割に随分と高い。細身だが筋肉質でかっちりした印象もあり、男子の中で一際目立っていた。

 


 セイラ達一行は、このまま森の奥を歩き続けた。

「この辺りは、魔法生物の住処と言われています。小人族や中には闇の勢力が、跋扈すると言われています。」

「先生、この辺りにドラゴン居ますか?」

「そうですね。エルフ族のドラゴンならいます。ゴーレムかのドラゴンはこのあたりにはいません。しかし、エルフ族のドラゴンといっても縄張りを荒らしてはいけません。彼らは知性は高いですが、起こるとてにおえませよ。いいですね?」

グリーン先生は、セイラとルーナを睨みつけ二人はビクッと仰け反った。


「では、グループに別れて。A班。セイラ、ブリギット、エリカ、シーラ、ルーナ、エウロパ、ミーナ、アリサ、…B班、」


 生徒は、先生の指示に従いグループに別れると、指定された薬草を集める作業に入った。


 A班のメンバーが、茂みの奥に入り薬草を集め用としているその時だった。


 大木の向こうから案山子が見えたー。


「先生、案山子が案山子がそこにいたんです。そしたら消えて…」

セイラは、木陰の方を指差した。

「はい、私もこの目で見ました。」

ブリギットも、見えたらしいー。

「はいはい、冗談は止して。では、各自薬草を探すように。」

先生は、面倒くさそうに手を下げてなだめた。


 メンバーが再び向こう側に視線を移すと、白髪の老人が、光るものを次々と案山子に転移しているようだった。

 

「な、何これ…?」

「まさか、た、魂…?」

「いや、まさか…」


「私、実は、聞いたことがあるの。死者の魂を人形に封じ込めて」


「いや…儂はしがない案山子職人だよ。」

老人は、低くしゃがれた声でそういうと金槌でトントンと、叩いた。

案山子は、どれも精巧に作られており本物の人形のようだった。


「に、逃げ…」


 すると、朱色の炎がボワっと燃え広がり円を描いた。

 セイラたちは、その隙に逃げ出した。


その時だったー。


 ルーナ、シーラ、エウロパが、石の塊になってしまっていた。


 セイラとブリギット、エリカ、ミーナ、アリサは、困惑し呆然と立ち尽くした。


「え…、ど、どういう事…?」


「魔王石だ…魔王石に触れた者は、皆、石になるんだ…!」


「魔王石は…?」


「魔王石って…」


「は、は、は、は、は、は…」


爺さんの影が不気味に歪む。


そして、爺さんはパタリと倒れ意識を失った。



 すると、辺りの土の破片が次々と集まり土器が出来上がるような感じで盛り上がり、人の姿を象った。そして、みるみる


少女が、姿を現した。


ブリギットや、エリカ、ミーナ、アリサは、バタバタとその場で倒れ込んだ。



「やった、やった、やった!これで、身体がようやく蘇生される…!」

少女は、ワンピースの土埃を払い除けながらぴょんぴょん跳ねている。

「スゲー、これが魔王石か…!」

少女は、喜悦に満ちた表情で自分の頬に手を当て腕を眺めていた。

「…」

セイラは、声が出なかった。目の前の人は、魔女だろうかー?

逃げ出したいが、仲間を置いては逃げられないー。いや、そもそも恐怖で動くことが出来ない。明るく華やかな印象があるが、何処となく恐怖を感じた。

少女から禍々しい邪悪なオーラを感じた。毒蛇のようなじわりじわりと締め付け噛み殺すかのような、何か、危険で巨大な不気味さを身体の内に抱えているようだった。


「あー、胸糞悪かったわ…何で、あんな奴らなんかの尻拭いで…あー、だりぃ…」

少女は、気だるげに首をポキポキ鳴らすとシルクハットを被り直した。

サーカスの踊り子のような風貌をしたその少女は、杖をクルクル回すと辺りを伺うー。




「だ、誰…!?」

セイラは、咄嗟に声が出た。仲間を元に戻してもらわないと困るからだ。

「はぁ?あんたは、誰だ?」

少女は、何故かさっきまでセイラに気付かなかったようだ。

「、わ、私は、聖マリアナ学園の咲山セイラという者です。」

セイラは、恐怖からか全身から冷や汗が滝のように流れてきた。しかし、今、ここで何とかしないと、仲間はずっとこのままだー。


「あたし、あんたの顔見てると何か思い出してしまうんだよね…」

少女は、セイラに近付くと顔をまじまじ眺めた。パイプを加え、煙をセイラに向けて吐き出す。

「な、何で…私、あんたのこと、何も知らない。」

セイラは、ゴホゴホむせた。

すると、少女はセイラのペンダントに目をやった。

「あ、それだ!思い出した!それは、あの、忌々しいあの日…私は…」

セイラのペンダントに指を指しながら、手をパンと叩いた。

「ペンダントとあんたは、何の関係があるの?お母さんの形見と…」

「形見…?はあ、あんた、何を、考えてるのだか…お、ひょっとして…」

少女はセイラのペンダントを再び見ると、今度はセイラの顔や髪をガン見した。

「いや、まさか、そんな筈は…あんた、もしや、アイツの娘か?」

少女の口調はゆっくりになり、セイラは全身に強い寒気が走った。



ーお母さんが、この人を殺したの…!?



「早く、皆を元に戻して!」




「はぁ?何言ってんだよ?あたしは、あんたにその尻拭いをしてもらうよ。」


「なんで…?私、何かしたの…?」



平和な日本の平凡で長閑な田舎で自由奔放に生きてきた

魔法界アリアス国のグリーンキャピタルに来てから、

セイラを取り巻く環境は、ガラリと変わった。


不思議の国のアリス状態だ。


脳が混乱し、セイラの頭はパンクしそうになった。









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