超絶人気歌姫とこれからのデスゲームの話をしよう

筆開紙閉

イゾルデ・ブラックハンド

 街の忘れられた区画にある古い教会がボクらの活動拠点だ。いつもボクたちはそこで誰にも聞かせられないような秘密のことを話している。忙しいの歌姫業の間にここまでイカれた狂信者の凶刃を掻い潜って来てんだぜ。マネージャーも置いてさ。

 なのにパーシヴァルの奴はよ。

「イゾルデ、何故貴女もデスゲームに参加するのですか」

 ボクに苦言を呈しやがるんだぜ。パーシヴァルは旧教の神父をやっていて、何処に行くにもカソックを着て歩くという、真面目に自分のキャラを守っている胡散臭いおじさんね。

 ボクは超絶人気歌姫イゾルデ・ブラックハンドという職業キャラをやっているけど、だからってデスゲームに出たらいけないって言うのかよ。

「貴女の狂信者ファンに勝手に殺し合わせましょう。頭数くらいにはなるはずです」

 パーシヴァルは平然とボクの狂信者ファンを弾除けにする心積もりのようだけど、ボクが参加しねえと狂信者ファンが可哀想だろ。ファンサとして一目くらい実物を目に焼き付けてやらねえとな。

 まあボクがデスゲームに出るような匂わせをSNSに投稿しただけで、世界中から狂信者ファンが殺しに来るだろうし。もうすでにデスゲームに関心があるような投稿しているけど。

 ともかく日和ったこと言ってんじゃねえよ、パーシヴァル。

「ボクも参加する!ボクもデスゲームに参加して特別招待者スペシャルゲストを殺す!!」

 ボクらはこの地球人類有象無象の未来をイイ感じにする団体の構成員。デスゲームでも無いと到底表舞台に現れず、ボクらの調査能力でも所在が分からない奴らをぶっ殺してやるんだ。あいつらは、お互いを殺し合う機会を見逃すはずがない。殺し合って弱ったところを潰す。

 ニホンの領海上に建設された人工島EDEN、そこで半年後に国際ルールに則ったニホン開催二回目のデスゲームが開催される。優勝者には賞金一億ドルと合衆国管理の五十一番格納庫から一つ物品か情報を持ち出し、公衆の面前で使用する権利。特に後者の権利を目当てにやって来るようなろくでもない連中は人類の未来を行き止まりに連れていく。対してボクはそいつらを抹殺し有象無象の群衆をイイ感じの未来に連れていく。歌姫はそういう職業キャラだろ?

「イゾルデ、未来を手に入れたのにわざわざ死にに行く必要なんて無いですよ」

 知ったような口聞くなよ、パーシヴァル。

 ボクの人生はあのとき姉さんを殺して終わったんだよ。そのあとの今は長い後日談。いつ終わってもどうでもいい。ボクはボクを愛してくれる善良で無害な群衆モブやボク以外に迷惑をかけない狂信者ファンのために生きてやるよ。

「ボクには何も無いよ。何も無いから群衆モブ狂信者ファンに変えてしまっても何も感じないのさ。何も無いから生きている意味も無い。お前はボクを上手く使い潰せばいいんだよ。その為にボクを拾ったんだろ?」

 ボクは対象Aを対象Bに引き付ける力がある。その力が暴走じみて半自動的に発動していて、歌声や姿は認識した人間を狂わせている。

 意識して使っていないから根本からボクに焦がれて狂気に落ちた狂信者ファンは、そう居ない。はずだ。

「私が貴女を拾ったのは、それが私の望みだったからです。ですが、貴女の未来は貴女のもの。デスゲームに参加し、人々の未来を切り開くことが貴女の望みならば止めることはしません」

 パーシヴァルは引き下がった。

 姉さんに殺されかけて半死半生のボクをパーシヴァルは救ってくれた。何故救ったのかは分からない。パーシヴァルが何を考えてどんな望みを持つのか分からない。ただ彼が呪われた生を生きていることは分かる。初めて会ったときから一切年を取っていないし。そう簡単に死ねないから地球人類みんなの未来なんて考えているんだろ。

「ボクの望みは姉さんを殺すこと……いやそれだけだ。もうボクの望みは叶っている」

「人間の望みは一つだけとは限らないですよ」

「神父みたいなこと言いやがって」

 パーシヴァルの鳩尾に拳をめり込ませた。


 扉が蹴り破られて、自動小銃アサルトライフルを持った狂信者ファンたちがなだれ込んで来る。

「貴女は美しい。だから美しいまま死んでくれ」

 おいおい。神聖な教会で5.56㎜弾をまき散らすのかい?ボクを殺そうとしたんだから死んでも構わないよなあ?銃弾を、それを撃った者に引き寄せてやるか。お前の殺意がお前を殺す。

「銃弾はその持ち主へ」

 5.56㎜弾は発射された端から不可思議な軌道を空に描いて、その射手の下に戻っていった。ボクへの殺意がそのまま引き寄せられたわけで、全身が穴だらけになって死んでいく。

「ファンサ、あざっす」

 明らかに致死量の出血を吹き出している狂信者ファンが殺してくれてありがとうとかのたまうので、くたばるまで手を握ってやる。

「パーシヴァル、拠点を汚してすまないね」

「構いませんよ」

 

 

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