第20話 街中の戦闘
背部のメインスラスターと下腿後部のスラスターの出力を上げて飛び上がると、建物の上を飛翔し一気にショートカットして敵に接近する。
「どうしてこんな事をするんだ、あんた達はっ!!」
ライフルの中で一発の威力と連射性のバランスが取れているアサルトライフルを発砲し、<ゴブリン>の頭部と片脚を破壊する。
メインカメラがやられた<ゴブリン>はモニターが麻痺し動きが鈍くなり片脚を失った事でバランスを崩す。
その隙を突いて急降下し、そいつに蹴りを入れて吹き飛ばすとビームダガーで残った腕と脚を斬り落とした。
「これでもう戦えないはずだ。――残り三機!!」
コックピット内に警報が鳴りモニターにはライフルを発砲する敵機の姿が映る。
その場から急速後退し
残りの三機は<ゴブリン>と<オーク>、それに<ホース>の三機だ。
<オーク>は<ゴブリン>をベースに重装甲を施した『ノア3』製の量産型機だ。メインカメラは<ゴブリン>と同じく円形の黄色いカメラ型になっている
下半身はタンク型になっていて機動性は低いが、圧倒的な最大積載量を誇り大型の重火器を複数装備できる。
ただし、ジェネレーター出力がそこまで高くないので大出力ビーム系は装備出来ない。だからこの機体は実弾系をメインとしている。
<ホース>は『ノア11』製の量産型機で支援特化の
メインカメラはバイザー型で、同じ『ノア11』製の<ソルド>よりもジェネレーターが強化されていてビーム系の長距離武器が装備可能だ。
「……遠距離支援系が二機か。<ゴブリン>に突っ込んだ瞬間を狙ってくる気だな。それにあの<オーク>は最初に街に向けて砲撃をした機体。これ以上放置したら周りが火の海になる。――それなら!!」
<タケミカヅチ>を空高くジャンプさせて後方にいる<オーク>に向けて接近する。敵三機はこちらに向けて火線を集中させ、当たらなかった実弾が次々に空中で爆発していく。
その振動がコックピットにも伝わり冷や汗が出てくる。
「くっ……こんな武器を地上に向けて使われたら……! あんた達だってサルベージャーでしょう!! だったら住居可能な街が大切な場所だって分かっているはずです。どうしてこんな事ができるんですか!?」
通信を敵機と繋げて非難すると彼らは悪びれることなく言い放ってきた。
『何を甘いことを言ってんだ! 俺たちにはAFっていう強力な武器がある。だったらその力を使って弱い連中から金を奪うのは当然だろうが!!』
『今時お前みたいなことを言ってる奴はほとんどいないぜ。百年前の戦争の残骸を漁ってそれを管理局に渡したってろくな金になりゃしない。それに比べてマーケット中を襲えば比べものにならないの大金が手に入る。これを知ったら前の生活には戻れねえぜ!!』
お金が大事なことは分かるし僕もお金は欲しい。でも……それでも……!!
「それでも、ここにはマーケットを大切にしている人たちが沢山いるんです! 皆で支えあって、笑って……苦しい生活を乗り越えようと精一杯生きてるんですよ。それを踏みにじる権利なんて誰にもないんです!! ――だからこれ以上あなた達を暴れさせる訳にはいかないんだ!!」
『そんな事、俺たちの知ったこっちゃねーんだよ!!』
『俺等に説教たれる前に自分の命の心配でもした方がよかったなぁぁぁぁ! 死ねよっ!!』
三機の攻撃がさらに激しくなる。しかし、<タケミカヅチ>のスラスターと姿勢制御用バーニアによって繊細な動きが可能なので空中でも問題なく回避できた。
<オーク>のキャノン砲は回避した後、最大高度に達した瞬間をアサルトライフルで撃って爆発させる。そのままにして地上に落ちて爆発したら多数の死者が出る。
<ホース>のビームキャノンは躱せばいいだけなので楽だった。
「――そこだっ!!」
アサルトライフルで<オーク>と<ホース>のコックピットを外してダメージを与えて怯ませる。
その間に高度を落とし地面すれすれを高速飛行して突撃する。
「この距離ならば!」
ビームダガーで<オーク>のキャノン砲の砲身を斬り落とし、その他の武器も続けて切断して黙らせる。
続けて両腕と下半身のタンク部分の走行部であるキャタピラを破壊して行動不能に追い込んだ。
今度は少し離れた場所にいる<ホース>がビームキャノンとライフルを撃ってきたので、躱しつつアサルトライフルでライフルごと腕部を破壊する。
そして次のビームキャノンを撃たれる前に<オーク>と同じように砲身を斬って使用不可能にした。その後は四肢を斬り落として動けなくする。
「これで三機! ――残り一機!」
『ひいっ! こんな化け物の相手なんかしてられるかよ。俺は逃げるぞ!』
離れた場所にいた<ゴブリン>が逃亡を図り建物の密集地から離れた瞬間、無数のD粒子の弾丸が飛んできてその左半身を撃ち抜いた。
左腕と左脚が吹き飛び勢いよく地面に倒れる<ゴブリン>だったが、コックピット周りは無傷でパイロットは無事みたいだ。
「これだけ威力がある武器でパイロットを傷つけずに倒すなんてさすがだね」
そう言いながら視線を<ゴブリン>を仕留めた機体へと向ける。そこには自慢のガトリング砲――レオパルドを構えた<カグツチ>の姿があった。
『これぐらい朝飯前よ。街の西側にいた連中は戦闘不能にしておいたぜ。今頃パイロットはコックピットから引きずり下ろされて、ここの連中にボコボコにされてんじゃねえかな』
「それじゃこれで状況終了ってことかな。――あれ?」
ほっとしたのも束の間、レーダーに新しい反応が表示される。それは街の外ではなく中心街に出現した。
「別のAF反応? どうしてこんな場所に……」
モニターで確認してみると黒いAFが映し出される。その機体には見覚えがあった。
「あれは昨日AF競売に出されていた<ガルム>じゃないか! ――もしかして襲撃してきたAFを倒すのに協力してくれようとしたのかな?」
『はんっ! だとしたら来るのが遅すぎだぜ。今さら合流して自分にも分け前を渡せとか言ってきたら――撃つ!』
バルトが物騒な事を言う。しかし、実際そういう要求をしてくるサルベージャーはいたりするのでこういう場合は利益関係をハッキリさせておく必要がある。
でも何かがおかしい。あの機体からは何か嫌な感じがする。そんな不安感が広がっていく中、<ガルム>は悠然とした足取りでこっちに歩いて来た。
その手には接近戦で効力を発揮する散弾銃のショットガンを持ち、昨日の競売時にはなかったオプションパーツが至る所に取り付けられていた。
「あの機体も一晩でかなり仕上げたみたいだね。まるで戦争でもするかのような武装だ」
自分で言ったそばから背筋がゾクッとする。そうだ、あれはまるで戦争――大量殺人をこれからするような雰囲気を出している。
『主武装はショットガンで他にもグレネードやバズーカを装備してるな。高機動がうりの<ガルム>の特徴を台無しにする重装備じゃねえか。あれを取り付けた奴はセンスないだろ』
バルトが指摘した通りに<ガルム>は高機動が特徴の機体だ。それを考えれば重い武装は
見たところ機体のコンセプトに合った武器はショットガンくらいだろうか。
そんなゴテゴテした見た目をした<ガルム>は、頭部の左右に伸びる赤い複眼型のメインカメラを怪しく光らせながら僕たちの近くまで来て動きを止めた。
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