第19話 アセンブルそして出撃

 後は<カグツチ>に外装と武装を取り付ける作業が残っているのだが、順調に進めば朝方には完了する予定だ。


 新しい外装には『ノア11』製の量産機である、重装甲タイプ<チャリオット>と支援タイプ<ホース>の装甲を改造したものを採用することにした。

 この組み合わせで重装甲かつ支援機の特性を持つ機体に仕上げる予定だ。ただこれだと機動性が低いので足裏に車輪を付けて走行する仕様になるとのこと。


 武装に関してはバルトが以前仕事で入手したガトリング砲『レオパルド』を本人の強い希望で取り付ける事になった。

 この武装はジェネレーター直結型で威力が高い分エネルギー消費が激しい為、今まで乗っていた量産型機では使用出来なかったらしい。

 高出力ジェネレーターを搭載している<カグツチ>であれば問題なく使用できると分かりバルトはとても嬉しそうだった。


 夜間に入り僕たちとバルト達の<ランドキャリア>は『AFジャンキー』の大型倉庫へと移動させ長旅に向けて整備をすることになった。

 お祭り騒ぎの街中からは軽快な音楽や人々の笑い声が聞こえてくる。マーケット中の街の夜はいつもこんな風に賑わっている。

 夜中になり朝方になってもそれは続き、『AFジャンキー』のガレージでは<カグツチ>の改修が終わろうとしていた。

 

「よーし、内部フレームと外装の固定は問題なしじゃ。後はOSの最終チェックをして終了じゃ。よく頑張ったなお前たち」


「「「うぃ~す! ってかノーマンの爺さん、完徹だってのに元気良すぎ」」」


 徹夜で<カグツチ>の改修作業を完了させたバルトの仲間、アンナ、ポンペ、ジタンの三人に爺ちゃんが労いの言葉を掛ける。

 三人は眠たげにしている一方で、元気な爺ちゃんのタフさに驚いていた。

 爺ちゃんは軍でアマツシリーズの機体整備に携わっていただけあって改修プランと作業手順を考え、その指導の下で三人組を中心としたスタッフによってたった一晩で<カグツチ>は戦闘ができる状態になった。


 僕は<タケミカヅチ>の調整を行った後、爺ちゃん達を手伝おうとしたが「ちゃんと眠るのも仕事のうち」と爺ちゃんに言われたのでガレージの隅で休憩を取った。

 時々目が覚めて<カグツチ>の状態を確認しては再び目を閉じるという事を繰り返している間に夜は過ぎていった。

 バルトも仲間たちに寝るように言われていたので僕の近くで休んでいた。でも自分の機体の事が気になるようで時々起きているみたいだった。


 フィオナは徹夜で作業を続けるスタッフの為に軽食や飲み物を用意して夜間ずっと動きっぱなしだった。

 皆それぞれが自分の役目に応じた仕事を全うした夜は終わりを迎え<カグツチ>の作業はついに終了した。


「これがオレの新しい機体<カグツチ>か……。皆ありがとな!」


 改修を終えた<カグツチ>を見てバルトは物凄く嬉しそうにしている。

 <カグツチ>の装甲はバルトの好きな赤色で統一され、その姿は攻撃的な印象が強い。

 武装面は左腕部にガトリング砲『レオパルド』を装備し、両肩と両脚部にはオプションで多連装ミサイルポッドを備え付けてある。

 これだけの火力があれば並大抵の相手では太刀打ちできないだろう。


「<タケミカヅチ>は接近戦重視の機体だから、後方支援が得意な<カグツチ>がいてくれれば戦闘が安定しそうだね」


「元々<タケミカヅチ>と<カグツチ>はセットでの運用が想定されているんです。今カナタが言ったように<カグツチ>の砲撃で敵AアサルトFフレームを一網打尽にして、その中を突破してきた強力な機体を<タケミカヅチ>が迎撃するというのが二機の戦闘スタイルなんですよ」


 フィオナの説明で二機による戦い方がハッキリした。これだけ相性がよければどんな敵が来ても負ける気がしない。

 徹夜だった爺ちゃん達には睡眠を取ってもらうことにした。そして当初の予定より少し遅くなるが昼頃には、ここ『アハジ』を出発する。




 しばらく時間が経ち正午近くになった時、突然爆発音と地響きが伝わってきた。何事かと思いガレージから出てみると街の外側で黒い煙が立ち上っている。

 双眼鏡で煙の向こう側を見てみると、何機ものAFが『アハジ』の近くまでやってきていた。


 どの機体もかなり武装しており、背中のバックパックと連結したキャノン砲を装備したものもいる。

 そのうちの一機の砲口から煙が上がっていたので、さっきの爆発音はこの機体の仕業に間違いない。


「マーケット開催中を狙ってきたのか! このままじゃ――」


「マーケット中の街には金や物資がたくさん集まっているからな。それを強奪しに来たサルベージャーだろうな」


 バルトとアイコンタクトをするとお互いに頷きそれぞれの機体の元へ走る。


「<タケミカヅチ>を出します。危ないので皆さんは離れてください!」


「こっちも<カグツチ>で出るぞ! 一晩で機体を使えるようにしてくれた礼はちゃんとしねーとな!!」


 <ランドキャリア>に向かって走っているとフィオナと目が合う。彼女は両手を胸の前で組んで心配そうにこっちを見ていた。


「カナタ、気をつけてください!」


「うん! ありがとう、行ってくるよ!」


 コックピットに滑り込むように乗り込み機体を起動させるとモニターに外の映像が映し出される。

 <ランドキャリア>のコンテナ内では<タケミカヅチ>の隣に水中用オプションを外した<ソルド>が横たわっている。

 サルベージャーを始めた時から愛用している機体を横目に見やりながら、<ランドキャリア>の操縦系統にアクセスしてコンテナを稼働させる。

 コンテナが立ち上がっていき『ドン』という音と振動が伝わる。


「――よし、コンテナが完全に直立になったな。周囲に人の反応なし。コンテナハッチ開放」


 コンテナのハッチが開き大型倉庫内の風景がモニターに映る。『AFジャンキー』の関係者は皆、安全な場所まで移動していた。

 

「行こう、<タケミカヅチ>! ――リフトオフ!!」


 <タケミカヅチ>を固定していたハンガーのロックが解除され機体が自由になる。 

 ゆっくり前に歩き出しコンテナから降りると大型倉庫の出入り口を目指して歩いて行く。

 

『そいつが<タケミカヅチ>か。白い機体か……中々良いじゃねーか』


 <カグツチ>との間に通信回線が繋がりモニターにバルトの姿が映し出される。


「そっちは全身真っ赤だね。バルトらしくて似合ってるよ」


『まあな、赤は情熱の色だからな。――それじゃ、とっととあの空気の読めない馬鹿野郎どもをとっちめようぜ!!』


「了解! でも、可能な限りコックピットへの直撃は避けて機体だけを行動不能にしよう。出来れば人殺しはしたくない」


『ったく、相変わらず甘ちゃんだな。まあ、いいぜ。ああいう連中は生かして捕まえた方が金になるしな』


 意見がまとまったところで倉庫から出ると状況はさっきよりも酷くなっていた。被害は街の中にも及んでいて幾つかの建物は炎上し黒煙が立ち上っている。


「ここまで被害が広がっているなんて。――バルト、ここは二手に分かれて各個撃破していこう!」


『分かった! 油断するんじゃねえぞ』


 『アハジ』を襲撃してきたサルベージャー達の機体は全部で八機。敵は町の東西に二手に分かれている。

 僕は東側、バルトは西側へと迎撃に向かった。

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