第18話 フィオナの目的

 『AFジャンキー』に戻ってくるとガレージ内はせわしい様子だった。

 競売で<ガルム>が高額で競り落とされた件かと思ったが、話をを聞いているとどうやら違う案件みたいだ。

 作業をしている爺ちゃんを見つけフィオナと一緒に買い物の報告に行くと、内部フレームだけの機体を真剣な表情で見ている。


「爺ちゃん、ただいま。そんなに険しい顔をして何かあったの?」


「ただいま戻りました。皆さん凄く忙しそうですけど私たちがお買い物に行っている間に何かあったんですか?」


「おお、二人とも戻ったか。実は<パッチワーク>なんじゃが、とんでもない事実が発覚してのう」


 そう言って爺ちゃんは目の前に立っている内部フレームのみの機体を見上げる。どうやらこれは外装を全て外された<パッチワーク>のようだ。

 その姿を見たフィオナの表情が驚きのものになっていく。


「このフレームってまさか……!!」


「フィオナは気が付いようじゃな。まさか先日の今日で立て続きにこんな偶然が連続するとは思わなかったぞい」


「二人共どうしたの? このフレームが何だって言うんだ?」


 フィオナが信じられないと言った表情のままで口を開いた。


「カナタ……昨日、<タケミカヅチ>含むアマツシリーズの機体は八機あるって説明しましたよね?」


「うん、覚えてるよ」


「そのアマツシリーズの機体には多少異なる部分はありますが共通の内部フレームが採用されているんです。アマツ型フレームと言って全身がナノニウムで構成されていて強靱かつ自己修復機能がある特殊なフレームなんです」


「……ちょっと待った。この話の流れってまさか……」


「そのまさかじゃ。この<パッチワーク>の内部フレームは<タケミカヅチ>と同じアマツ型フレームなんじゃよ。機体ごとにフレームには異なる部分はあるが間違いなくアマツシリーズの機体じゃ。それにバルトが起動に成功して本来のOSが立ち上がったんで確認したら、こいつはTMHX―03<カグツチ>と表示されておった」


 どうりで二人が驚いていた訳だ。<タケミカヅチ>と同じアマツシリーズの機体がこんな形で放置されていたなんて……。

 

「まさか見つかっていなかった三機のアマツシリーズのうち二機の所在が立て続けに判明するとは思わなんだ」


「爺ちゃんはアマツシリーズについて何か知ってるの?」


 爺ちゃんのこれまでの言動や<タケミカヅチ>を手際よくメンテナンスしていた事からもしかしたらとは思っていた。

 それでも無闇に他人の過去を詮索するのは良くないと思い黙っていたのだが、さすがにこんな状況になってしまった以上訊く必要があると思った。

 爺ちゃんは懐かしい物を見るような目で<パッチワーク>改め<カグツチ>を見上げながら話をしてくれた。


「わしが以前軍に所属し整備士をしていたのは話したと思うが、その時担当していたのがアマツシリーズの機体じゃったんじゃよ」


「ええっ!?」


「そうだったんですか!?」


 衝撃の事実に僕とフィオナが驚きを隠せないでいると爺ちゃんは話し続ける。


「アマツシリーズは大罪戦役末期に<イザナギ>以外の機体が行方不明になり、その後各地で発見されたのを回収していった。しかし、<イザナミ>、<カグツチ>、<タケミカヅチ>の三機を見つけることが出来なかったんじゃ。そのうち二機がここ数日で連続で発見されたという訳じゃ。――この偶然に驚くなというのが無理というもんじゃろ?」


「そうだったんだ……。だから<タケミカヅチ>を見つけた時にも内部フレームの特徴に詳しかったんだね」


「ノーマンさんはどうして軍を離れたんですか? アマツシリーズは重要機密の塊です。その事情に詳しい人物を手放すことは現場がしないと思うのですが……」


「その辺りは色々とあってのう。わしは世間でシャーマニックデバイスと呼ばれる高性能AFの発見と回収の為にサルベージャーになったんじゃ。特にアマツシリーズはその中でも重要性が高く、発見したらすぐに軍に知らせるように言われていたんじゃよ」


「それじゃ、<タケミカヅチ>や<カグツチ>を発見したっていう事は軍に報告済みってこと?」


 爺ちゃんがそんな重要な使命を背負ってサルベージャーをしていたなんて知らなかった。いつも飄々ひょうひょうとしている爺ちゃんが今では別人のように神妙な面持ちをしている。

 軍がこの二機の所在を知ったら回収に来るだろう。そうなったらフィオナの依頼は果たせなくなってしまう。

 そう思っていた時、爺ちゃんは意外な回答をする。


「まだこの二機を発見したという報告はしてはおらんよ。当然フィオナの事もな」


「それはどうしてですか?」


「ずっと気になっていたんじゃ。どうして軍属のお前さんが軍に戻らず単独で『ヨモツヒラサカ』に行こうとしているのか。一体そこには何があってフィオナはそこで何をする気なのか……。報告するのはそれを知ってからでも遅くはないと思ったんじゃよ」


「爺ちゃん、それは――」


「分かりました」


 フィオナはフレームのみの<カグツチ>を見上げ何かを思い出しているかのような遠い目をしていた。

 ふと気が付くと<カグツチ>のコックピットから降りてきたバルトとその仲間の三人組も話を聞いていた。

 

「その話オレ等も聞かせてもらうぜ。今後一緒に行動をする以上、その目的はちゃんと知っておきたいからな」


 皆の注目が集まる中フィオナは頷くと口を開いた。


「私の目的は百年前のアマツ部隊最後の任務を遂行することです」


「――アマツ部隊?」


「――はい。<タケミカヅチ>や<カグツチ>を始め、所属する全機がアマツシリーズで構成された特殊部隊でした。大罪戦役で彼等は『ノア3』のAアサルトFフレーム部隊を相手に猛威を振るい多大な戦果を上げていきました。戦争終盤、アマツ部隊は『ノア3』を占領したクロノス直轄のAF<クイーン>と交戦し『ヨモツヒラサカ』まで追い詰めましたが隙を突かれてTMHX―02<イザナミ>がナノマシン侵食を受けて<クイーン>と同化、それによりアマツ部隊は怪物と化した<イザナミ>と戦闘することになりました」


「<クイーン>にやられたのか……それでどっちが勝ったんだ?」


 バルトが訊くとフィオナは表情が暗いものになる。これから語られる答えが良い内容でない事は明らかだった。


「<イザナミ>は大破寸前まで追い込まれました。その一方でアマツ部隊は全機が中破以上のダメージを受け戦闘不能に陥りました。そこで私はその中でまだ戦闘可能な<タケミカヅチ>に増加装甲を装着し止めを刺そうとしたのですが、そこで敵の増援による襲撃を受けアマツ部隊は撤退を余儀なくされたんです。味方は散り散りになって逃げ、私と<タケミカヅチ>を乗せた輸送機も被弾し海に落下しました。その後どうなったのかはカナタとノーマンさんはご存じだと思います」


「それじゃまだ<イザナミ>は健在だって言うのか?」


「――はい。<イザナミ>は『ヨモツヒラサカ』の火山帯深くに身を潜め休眠状態に入っています。それによって『ノア3』側も<イザナミ>を回収することは出来ませんでした。だから私はあの時遂行できなかった<イザナミ>の破壊をやり遂げなければならないんです。これが私の『ヨモツヒラサカ』での目的です」


 フィオナは話し終えると爺ちゃんの方に視線を送る。爺ちゃんはその内容から色々と考えているようだった。


「なるほど……<イザナミ>が<クイーン>と同化しておったとはのう……。そのような事実は知らなかったぞい。それでフィオナには『ノア11』の軍に頼らずに<イザナミ>を破壊する作戦があるのかの?」


「はい、あります。あの時の戦いで<イザナミ>を短時間ですが一時的に停止させるコードを入手しました。それを使用し停止している間にコアと化しているコックピットブロックを破壊すれば倒せます。――軍にこの件を話せば<イザナミ>の回収に転じる可能性があります。でも、<クイーン>の侵食を受けた機体はクロノス本体と繋がっているのでその行為は大変危険です。ですから完全破壊する為に軍には話を通さずに自分の手で処理した方がいいと思ったんです」


「そうか……。倒す手段があるなら軍の力を借りなくてもいいし、僕たちだけでも何とかなりそうだ。爺ちゃん、軍には全てが終わった後に報告すればいいんじゃないかな。その時に<タケミカヅチ>を軍に返せば問題ないでしょ」


「――オレは<カグツチ>を軍に返す気は無いからな。あれはオレの機体だ」


 『クレイドル』が嫌いなバルトは軍も嫌いなので機体を返還するのは気乗りしないらしい。

 <カグツチ>に関してはバルトの問題なのでこっちがどうこう言う必要はないし、それは<イザナミ>を破壊した後で考えればいいだろう。


「やれやれ、若いもんは元気があって羨ましいかぎりじゃ。――分かった、<イザナミ>はわしらで対処しよう。その後どうするかは全てが終わってから考えるとしようかの」


「ありがとうございます、皆さん。わがままな事は重々承知していますが、どうかよろしくおねがいします」


 フィオナは深々とお辞儀をして改めて僕たちに依頼をした。目的がはっきりした僕たちは、明日の出発に向けて準備を着々と進めていくのであった。

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