第17話 AF買います
「たくさん買っちゃいましたね。こんなにショッピングを堪能したのは初めてです」
「僕もだよ。普段行かない所にも行ったし楽しかった」
フィオナの衣類を購入した後は食糧を始め生活必需品を買って回った。結構な量になったので<ランドキャリア>に詰め込むと『AFジャンキー』へと戻ることにした。
するとガレージの近くには多くの人だかりが出来ていた。
「凄い人数ですね。何かあったのでしょうか?」
「この時間帯は
競売場には、普段では中々お目にかかれない珍しい機体が売りに出されている。今すぐにでも行ってそれらを見てみたいけど、僕の趣味にフィオナを付き合わせるのは気が引ける。
ここは真っ直ぐに爺ちゃん達の所に戻って後から来よう。――と思いつつも、つい気になって見てしまう。
「やっぱり競売が気になりますか?」
フィオナがクスクス笑いながら言ってきた。そんなに分かりやすく顔に出ていたのだろうか? 何だか恥ずかしくなってきたぞ。
「いや、別にそういう訳じゃ……」
「せっかくですし見ていきましょうよ。私もどんな機体があるのか気になっていたんです」
「そう? それじゃお言葉に甘えて」
こうしてフィオナと一緒にAFの競売を見に行く事になった。
彼女に気を遣わせてしまったかもしれないという申し訳なさはあったが、一人のAFマニアとしてこのイベントに対するワクワクの方が勝っていた。
競売場に行くと既に何機かの
「競りが終わっていないのは残り三機か」
「これから競売にかけられる機体には布が掛かっているんですね。どんなAFなのかドキドキしますね」
「そうなんだよ。そこが競売の醍醐味なんだよね。それに最後の一機はその時の競売で一番珍しい機体が来るからとても盛り上がるんだ」
「教官は本当にAFが好きなんですね」
そう言うフィオナの笑顔や言葉の雰囲気からは皮肉や相手を馬鹿にするような感情は全く感じられなかった。
ただ純粋に僕がAFを好きだという事実を受け止めてくれていた。
「うん、好きだよ。自分でもいつからそうだったのか思い出せないんだけどね。――AFは戦う為の力、命を奪い合う道具……それは分かっているつもりだけど、それでもやっぱり好きな気持ちは変わらないんだよね」
「私は素敵だと思いますよ。理屈なんかじゃない。本当に好きなものがあるって素晴らしい事だと思います」
「あ、ありがとう……」
真っ正面から褒められると背中がくすぐったい感じがしてしょうがない。フィオナにはいつもドキドキさせられっぱなしだ。
もしかしてこれが恋というものなのだろうか?
「あっ、次の機体の布が外されるみたいですよ!」
「えっ、どれどれ――」
残り三機のうちの一機の布が取り除かれると、その下から重装甲のAFの姿が露わになった。
頭部のメインカメラ部分には『ノア11』製の量産型AFの特徴とも言えるバイザー型が採用されている。
「あれは型式番号SH―08<チャリオット>かぁ。そこまで珍しい機体ではないけど所々改造が施してあるね。この領内の機体だからパーツの融通も利くしすぐに売れると思うよ」
言っているそばから<チャリオット>はすぐに売れてしまった。競りで接戦が起きなかったのは、最後の目玉機体のために皆資金を温存しているからだろう。
そして、次の機体の布が取り除かれた。
今度の機体は大罪戦役で戦った『ノア3』製のAF――型式番号MT―009<グール>だ。
頭部メインカメラは赤い正方形のレンズで機体カラーはグレー。こいつはステルス機能を備えていて偵察を得意としている。
その反面あまり戦闘力は高くないが、何せ珍しい機体なので欲しがるサルベージャーは多いだろう。
今度の競りは白熱し購入金額が最初の倍近くまで上がって落札となった。偵察型の機体はレーダー機能や索敵が優秀なので機体回収の仕事などで重宝されるはずだ。
「いよいよ最後の競りですね。どんな機体なのでしょうか?」
「うーん、<グール>なんて変わり種よりも珍しいのは中々出品されないからきっと盛り上がるよ」
そして、いよいよ今回の競売最後のAFの布が外された。その瞬間周囲からどよめきが起きる。
僕も同じように感嘆の声を出してしまった。それは普段のAFの売買では滅多にお目にかかれない機体だった。
全身黒色の装甲に頭部メインカメラは左右に伸びるような複眼型の赤いレンズ。その圧倒的な悪者感が堪らない。
「あれは型式番号MT―006<ガルム>じゃないか!? 軽装甲の機動性重視の設計で<ゴブリン>よりもずっと戦闘力が高い機体。これは競りが凄いことになるぞ!」
「<ガルム>ってそんなに人気があるんですか?」
「そりゃそうだよ! あのヒールな感じが格好良いんだよー。『ノア3』製の量産型AFの中で最も人気があるんだ。それに高機動性重視の設計も個人的にはささるんだよね。僕もお金が貯まったらいつか購入したいと思ってたんだけどなぁ。まさかこんな所で出会うなんて……!」
興奮のあまりについ早口になってしまった。きっと気持ち悪い奴と思われたに違いない。恐る恐るフィオナの顔色を窺うとニコニコしながらこっちを見ていた。
「ふふふ、AFの話をしている時の教官って無邪気で可愛いですね」
「――!!」
まずい……これは非常にまずい。恥ずかしくてまともにフィオナを直視できない。
こんなにも一緒にいて心が満たされるような、それでいて温かい気持ちになる人とは会ったことがない。
自分の中でフィオナが少しずつ大きな存在になっていく感じがした。そんな戸惑いを感じていると周囲から金額をコールする声が聞こえてきた。
<ガルム>を購入しようとするサルベージャー達によってあっという間に初期の購入最低額の倍以上の金額にまで高騰し、さらに値段は上がっていった。
最終的には初期の約三倍の金額で<ガルム>は落札された。購入したのはこの辺りで有名なサルベージャーらしく資金力のある人物だった。
その人なら仕方が無いと他のサルベージャー達も納得した様子であり、今回の競売は幕を閉じた。
「さてと……競売の結果も分かったし、そろそろ皆の所に帰ろうか」
「――はい、そうしましょう」
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