第15話 つぎはぎのアサルトフレーム

 盛大に話が脱線してしまったが、バルト達と初対面のフィオナが自己紹介を済ませると僕たちが指名手配になったいきさつを彼等に説明した。

 話を最後まで聞いていたバルトは苛ついた様子を見せる。


「へっ、そんなとこだろうと思っていたぜ! しっかし、管理局のやり方は本当に気にくわねぇ。いつか目に物見せてやる!!」


「管理局が嫌いなのは相変わらずか。あんまり派手にやり過ぎると僕と爺ちゃんみたいになるから気をつけた方がいいよ」


「はっ! 管理局が怖くてサルベージャーが務まるかってんだ。新しいAアサルトFフレームを買ったら改造しまくってそういうバカ共をぶっ潰してやんよ!!」


「AFを買う? 乗っていた機体はどうしたの?」


「先日の仕事でぶっ壊した。それで今日は新しい相棒を探しに来たってわけさ」


 それで納得した。バルトは僕たちみたいに探索や回収を生業とする普通のサルベージャーではなく、回収品を狙い襲ってくるハイエナを撃退する仕事をしている。

 そのため彼が搭乗するAFは重武装しており、その火力を持ってハイエナ達を一蹴している。


「そっかぁ。それなら今日のAF競売で良い機体が手に入るといいね」


「まあな」


 バルト達と話をしていると、この店のオーナーであるジルさんがやって来た。


「その事なんだがな、バルト。お前に見てもらいたい機体があるんだよ」


 こうしてバルト一行はガレージの中に通され、僕たちもそれに同行することにした。ジルさんが足を止めた場所には一機のヘンテコなAFが立っていた。

 その機体の各部装甲にはそれぞれ異なる機体の物が流用されていた。それ故機体からアンバランスかつ怪しい雰囲気が漂っている。

 

「こいつはAFコレクターの間を転々としてきた機体でな。その都度、色んなAFの装甲を装着している外見から<パッチワーク>と呼ばれているらしい。なんでも途中で機体が動かなくなったり起動しなかったりと……まあ、いわく付きの機体らしいんだ。それでうちに持ち込まれてな。ほとんどタダで仕入れたものだが……どうだ、バルト。こいつが動くか試しに乗ってみないか?」


「<パッチワーク>……『つぎはぎ』……か。まるでオレ達サルベージャーの生き方を象徴しているみたいじゃねーか。いいぜ、気に入った。取りあえずこいつに乗って動かしてみればいいんだろ?」


「ああ、その通りだ。もしも安定して動かせたらこいつをタダでくれてやる」


「ああ!? タダだと……おい、ジルのおっさんよ。あんた一体なにを企んでやがる。曰く付きとは言えAFだぞ。それを無料でやるなんて正気じゃねーぜ」


 ジルさんの提案にはこっちも驚かされた。バルトが言うようにAFを無料で譲るなんて話は聞いたことがない。

 何か狙いがあるのは確実だ。


「――無論条件はあるが、それはこいつを動かせたら話す。どのみち動かなければ話したところで意味は無いからな」


「ちげえねぇ。それじゃ取りあえず乗ってみるか」


 バルトはハンガーの昇降機で<パッチワーク>のコックピットまで行くと躊躇なく乗り込んだ。うーん、おとこらしい。

 機体の起動チェックをしている間、爺ちゃんがジルさんに訊ねる。


「機体が動かなくなるというのはOSに問題があるせいじゃないかのう?」


「その通りだ。何でもこいつを手に入れた最初のコレクターがOSを弄ったらしい。それでこんな不安定な状態になってしまった訳だ。俺たちでOSが直せないか色々やってみたんだがこっちの操作を全然受け付けなかった。本来のOSにかなり高度なセキュリティが掛けられている。その上ジェネレーターの出力は並のAFとは段違いに高いときたもんだ。そうなると考えられる答えは一つしかない」


「それってまさか……」


「ああ、シャーマニックデバイスだ。当てはまるとしたらそれぐらいしかない。<パッチワーク>はそれだけのポテンシャルを秘めている。そして、シャーマニックデバイスであるのなら、そいつは自分のパイロットを選ぶ」


「それでバルトさんに乗ってもらったんですか?」


「まあな。バルトはAF乗りとしてかなりの実力があるし筋が通った奴だからな。十分可能性はあると思ったんだ」


 皆で<パッチワーク>が動くか見守るが動く気配がない。駄目だったかと思っていた時にそれは起きた。

 <パッチワーク>の頭部メインカメラが青く光り一歩前に踏み出した。


「動いた! 成功したのか!?」


 この場にいた全員の視線が<パッチワーク>に集中する中、コックピットハッチが開きバルトが顔を出した。


「よく分からんが普通に動いたぞこいつ。OSが色々と言っていたがどうやらオレはパイロットに登録されたらしい」


「マジか!? でかしたぞバルト!!」


 少年の様に瞳を輝かせるジルさん。彼もまた僕や爺ちゃんと同じくAFマニアなので興奮が抑えられない様子。

 バルトは昇降機から降りるとジルさんに詰め寄って不適な笑みを見せる。


「ジルのおっさんよ。どうよ、動かしてみせたぜ。約束通りこいつはタダでもらっていいんだよなぁ?」


「ああ、どのみちお前でなければ動かせないんだ。遠慮せず持って行け。――それで話していた条件なんだが……お前等、しばらくノーマン達の護衛をやってやれ」


 突然こっちに話が及んできたので爺ちゃんと顔を合わせて驚いてしまった。


「ちょ、ジルさんどうして……?」


「お前等はこれからそのお嬢さんの依頼で北に向かうんだろう? 管理局に追われている中で仕事を全うするのは難しいだろ。確実に送り狼が来る。信頼できる仲間がいた方が心強いだろ」


「ジル、お前……」


 ジルさんの優しさに心打たれてしまう。なんか涙腺が刺激されて視界がぼやけ始めた。


「北方には大罪戦役時のジャンクパーツが沢山眠ってるっていう話だ。良さげなパーツがあったらうちに優先して持ってきてくれよ。期待してるからな、ノーマン、カナタ。がっはっはっはっは……!!」


 助けてくれる理由が人情ではなく営利目的だとしって急速に目頭の熱さが冷えていった。世の中結局はお金なのだ。それを改めて教えてもらった。


「これだけのAFをタダでもらえるのを考えればそれぐらいの依頼なんの問題もないぜ。どうだお前等?」


 バルトが言うと仲間の三名が「問題なし」と賛同する。それを確認するとバルトはこっちに来て手を差し出してきた。


「そういうわけだ、しばらく頼むぜ。オレがいれば管理局だろうがハイエナだろうが撃退してやるからよ。大船に乗ったつもりでいろよ」


「バルト達がいれば安心だ。僕も出撃するから一緒に頑張ろう」


 こうしてバルト達が行動を共にする事になった。バルトは遠距離攻撃による支援が得意なので接近戦を得意とする僕とは相性が良い。

 これで戦いが一気に楽になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る