第14話 バルト・フレイム

 『アハジ』では定期的にマーケットが開催されている。その期間は様々な物が売買されていてお祭り騒ぎだ。

 特に賑わっているのがアサルトフレームの競売だ。珍しい機体や掘り出し物が売りに出される事が多くサルベージャー達が大勢押しかける。

 その為『アハジ』周辺にはサルベージャーの母艦とも言える<ランドキャリア>の姿があちこちにある。


「……ふむ。これだけたくさんの<ランドキャリア>が停泊していればわしらのものもそう目立たんじゃろう。先日の戦利品をとっとと売ろうかのう」


「そうだね。そしたらその資金でまずは――」


「生活必需品を購入しないとですね」


 フィオナが水着エプロンの姿で鼻息を荒げて言っている。

 既に我が家の家事を取り仕切る彼女としては料理の食材や調味料などを始め、生活で消費される物品を揃えたいらしい。

 でも正直それよりも優先すべき問題がある。


「フィオナ……取りあえず君の服を買おう」


「え……? あ、そうですね。確かにこのままの格好じゃよろしくないですね」


 フィオナが着ている水着型スーツは非常に優れていて自浄機能があり清潔を保ち続けることが出来る。

 機能は申し分ないのだが目のやり場に困る。このままでは彼女は痴女扱いされかねない。そういう訳なので早くまともな服を買ってあげたい。


 <ランドキャリア>を停泊エリアに止めて降りると布で顔を隠して『アハジ』の市街地に入った。

 取りあえず最初に目指すのはAFのパーツ売買を行っている店『AFジャンキー』だ。

 ここはAFの競売を開催していて、この町のマーケットにおけるAF関連を取り仕切っている。

 これまでに何度も訪れたことがあるので顔見知りではあるのだが、今の僕たちは指名手配を受けている身なので受け入れられるか不安だ。


 『AFジャンキー』はAFを扱っているだけあって店舗は巨大なガレージになっている。

 ガレージ内には様々なAFや部品類が並べられていて個人的には凄く目の保養になる。ずっと見ていられる……。

 スラスターや姿勢制御バーニアを始め色んな機体のナノニウムアーマー等も揃っており機体をカスタムする夢が広がる。

 お金に余裕があれば購入したいものがたくさんあるなぁ。


 そんなAFのパーツがひしめき合っている中、職員に指示を出している男性がいた。その人物は僕と爺ちゃんに気が付くと早歩きでこっちにやって来た。


「ノーマンにカナタじゃないか! 何があったんだ、お前等。ここ二、三日で時の人になってんぞ。……まあ、とにかく立ち話も何だし中で話そう。そちらのお嬢さんも一緒にどうぞ」


「あ、はい! ありがとうございます」


「気をつけるんじゃぞ、フィオナ。このジルという男はとにかく手が早いことで有名じゃからな」


「うるさいぞ、ノーマン。女の子にそんな格好をさせているお前にだけは言われたくない」


 指摘されてフィオナの顔が真っ赤になる。やはり水着エプロンでは目立ってしまうか。僕の服を貸すべきだったな……。


 それから僕たちは事務所に通され、事の顛末てんまつを説明するとジルさんの表情が険しくなった。


「……なるほどな、そういう訳だったか。道理でハイエナ共の動きが活発だったわけだ。裏で管理局が関わっていたんだからな」


「ハイエナの活動全てに管理局が関わっていた訳ではないと思いますけど、今回僕たちを嵌めたのは管理局の人間で間違いないです。おまけに一般のサルベージャーでは揃えられない武装で身を固めていました」


「管理局は『クレイドル』から物資の援助を受けているからな。並のサルベージャーよりも機体や武装は高性能なものが簡単に手に入るんだろうさ。――で、ここに来たのはAFのパーツを売る為なんだろ? それならうちの者を寄越すから品物の確認と値段の相談といこうや」


「話が早くて助かるわい。出来ればあまり長居をするわけにはいかんからのう」


 こうして話はトントン拍子で進み<ゴブリン>のパーツ類は良い値段で買い取ってもらえた。

 それらの手続きをしていると見知った四人組がこっちに向かってくるのに気が付く。

 その四人は厳つい雰囲気を周囲に放ち肩を揺らしながら歩いている。視線は僕らに向けられニヤリと笑っていた。


「久しぶりだな、カナタ! しばらく会わなかったと思ったら管理局にケンカをふっかけていたなんてな。……やるじゃねーか、見直したぜ!!」


「久しぶりに会ったと思ったら第一声がそれか、バルト。別に好きでこうなった訳じゃないよ。色々と事情があるんだよ。――とにかく元気そうで何よりだ」


「そっちもな」


 四人組のリーダーであるバルトは金髪の前髪にボリュームを持たせたヘアスタイルをしている。なんでもポンパドールという髪型らしいが、本人はリーゼントとかヤンキースタイルだと言い張っている。

 理由はその方が『格好いいから』という事らしい。見た目はいかついが年齢は僕より二つ上で十九歳だ。


 喧嘩っ早く気が短い性格をしているが人情に厚く一緒に行動している仲間からは絶大な信頼を寄せられている。

 それは一緒に何度も仕事をしたことのある僕も同じだ。バルトは絶対に仲間を裏切らない良い奴だ。


「ノーマンのとっつぁんも元気そうで何よりじゃねーか。……ん? そっちの嬢ちゃんは……まさかお前の女か?」


「ち、違うよ! フィオナは何て言うか……今請け負っている仕事の依頼者だよ。それで今一緒に行動しているんだ。変な事言って彼女を困らせるなよ」


 焦って否定するとバルトは手を顎に当てて考え込む仕草をする。それに隣にいるフィオナは苦笑いをしていた。今ので気を悪くしていなければいいんだけど……。


「そうか、そいつは悪かったな。【バルト・フレイム】だ。よろしく頼むぜ。いやぁ、そんな水着にエプロンなんつー特殊な格好をしているから、てっきりお前の趣味で着せたのかと思ってな……。ほら、お前ムッツリスケベじゃん」


「いきなり何を言い出すんだよ、バルト! フィオナ、そんな事ないからね。僕はいたってフツーだから。特殊な趣味とかないから」


 慌てて弁解するとフィオナは急に悪戯っぽい表情をした。彼女のこんな表情は初めて見たぞ。


「よろしくお願いします、バルトさん。フィオナ・トワイライトと言います。それにしても……へぇ~、そうなんですねぇ。私はカナタは年上の女性が好みなのかと思っていました」


 冷水をかけられたかの様に身体が冷たくなる。何故だ……どうして僕がお姉さん好きだと知っている? まさか……!!


「先日カナタのお部屋を掃除していた時にデスクの上にデータチップが置いてあったのですが……」


「なっ……!? まさか……あれを再生したとか言わないよね?」


 あれは……あの中身は女性には見せられない映像データが収められている。それすなわち我がフェチの集大成と言っても過言ではない。

 

「ごめんなさい。他人の物を勝手に見るのは良くないとは思ったんですけど好奇心の方が勝ってしまって……。カナタって意外とムッツリなエッチさんだったんですね」


 フィオナは頬を少し赤らめながら実にいい笑顔で言い放った。

 こっちは同年代の女の子にあんなものを見られてしまい恥ずかしくて仕方が無い。あんな分かりやすい場所ではなくちゃんと隠しておくべきだった。


「……殺してください」


「何を言ってるんですか! 年上のお姉さんやムチムチした太腿が好きな事に何か問題ありますか? ないでしょう? 私は良いと思いますよ」


 何故かムキになって早口でまくし立てるように言うフィオナ。興奮してこっちに迫って来る。そんなフィオナもまたお姉さん系で太腿の肉付きが良い。

 はっきり言ってどストライクだ。それを知って言っているのであろうか?


「ちょ、フィオナ! 近い、近い」


「え、あ……ごめんなさい! 私ったらつい……」


 今にも触れてしまいそうな距離まで近づいていた事に気が付きフィオナはおずおずとした足取りで距離を取る。

 そんな僕たちのやり取りの一部始終を見ていたバルトと彼の仲間のアンナ、ポンペ、ジタンの四人は冷めた視線を僕とフィオナに向けていた。


「「「「お前等もう付き合っちゃえよ」」」」

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