第13話 それは神の名を冠する機動兵器
調べれば調べるほど<タケミカヅチ>が普通の機体ではないことが分かってくる。
大罪戦役ではこんなとんでもない
分かっているのは相手がクロノスの侵食を受け支配された『ノア3』――つまり、かつて『地球』という母星を脱出した同じ人類であり、その戦争で『ネェルアース』に築かれていた多くの都市が破壊され惑星環境にもかなりのダメージがあったという事ぐらいだ。
よく考えたら僕は自分が住んでいるこの星の事も人類の歴史も知らないことばかりだ。サルベージャーの仕事に明け暮れる毎日でそんな事を考える余裕が無かった。
でもこうして振り返ってみるとこんな大事なことを知ろうとしなかった自分に違和感のようなものを感じてしまう。
「どうかしました?」
急に後ろから声を掛けられ驚いてその場から飛び退くと勢い余って機体に頭をぶつけてしまった。
地味に痛い……。それに先日から頭をぶつけてばかりだ。そろそろ頭がおかしくなるかもしれない。
声を掛けた張本人――フィオナが駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!? 驚かせてしまったみたいでごめんなさい……」
「だ、大丈夫……ちょっと考え事してただけだからぁ……」
「本当ですか? でも、目から涙が出てますよ」
フィオナが僕の頭を撫で始めた。その温かくて優しい感触に癒やされる気がした。しかし安らぎを感じたのは一瞬だけだった。
なぜなら彼女は目の前、それも触れてしまいそうな距離にいたからだ。すぐ近くに彼女の整った顔とぴっちりした競泳水着型スーツで際立つ暴力的なスタイルが見える。
あと数センチでも近づけば触れてしまう距離から見るそれは破壊力抜群だった。あまりにも攻撃力がありすぎるので視覚情報を遮るために目をつぶる。
「目を閉じてどうしたんですか? もしかして目も痛くなっちゃいました? どうしよ……」
フィオナの可愛くも艶のある声が聞こえる。その上何だか甘くて良い香りがする。目を閉じたせいで聴覚と嗅覚から伝わる情報が強化されてしまった。
これもダメだ。刺激が強くなってしまう。しばらくこんな調子が続いた。
何とか平常心を取り戻すとフィオナが持ってきてくれたホットミルクを二人で飲んで休憩することにした。
「自分でAFのメンテナンスが出来るなんて凄いですね」
「あはは、そこまでじゃないよ。簡単な事しか出来ないし。爺ちゃんが元々軍属の整備士でAFをいじってたから、色々と教えて貰いながら何とかやってるってとこかな。――そんな僕でも<タケミカヅチ>が凄い機体だってことは分かる。今も驚きながら調整をしていたんだ」
「それでも凄いと思いますよ。私はそういうのは苦手なので……」
そう言えばこうして二人で腰を据えて話をするのは始めてだった。誰かとこんなに穏やかな気持ちで話をするのは久しぶり……いや、もしかしたら初めてかもしれない。
「そう言えば気になっていたんだけどフィオナは軍人なんだよね」
「はい、そうですね。今も軍籍が残っていればですけど」
「それなら軍に戻って『ヨモツヒラサカ』に行くっていうのはダメなの? いや、別に僕が君を連れて行くのが嫌とかじゃなくて、その方が危険も少なく確実に行けそうだと思ったからさ」
フィオナはハンガーで横になる<タケミカヅチ>を眺めながら何かを考えているみたいだった。そしてしばらくして視線をこっちに向ける。
「私がやろうとしているのは軍の任務とは別なんです。それに百年も前の話なのでこの件を持って行ったとしても受理される可能性は低いんです。――ごめんなさい、カナタやノーマンさんに迷惑を掛けてしまって……」
「いや、だから迷惑とか思ってないから! ただ素朴な疑問だっただけだよ」
「ありがとうございます。……ふふ、やっぱりカナタは優しいですね」
フィオナは屈託のない笑顔で真っ直ぐにこっちを見つめてくる。その視線に対してどう応えればいいか分からず、はぐらかすように機体の方に視線を送る。
「あ、そう言えばパイロット登録された時なんだけど、モニターにアマツシリーズっていう表示が出たんだ。それに型式番号がTMHX―04って。もしかして<タケミカヅチ>以外にも同系列の機体があるの?」
「あ、はい、ありますよ。アマツシリーズの機体は当時で八体いました。一号機の<イザナギ>と二号機の<イザナミ>はアマツシリーズのプロトタイプで様々なテストを行って、そのデータを基に後の機体が完成したんです。三号機は遠距離重武装型の<カグツチ>、四号機が白兵戦重視のこの機体<タケミカヅチ>、五号機は長距離狙撃型の<クラミツハ>、六号機は特殊兵装と通信強化型の<アマテラス>、七号機は強行偵察と電子戦型の<ツクヨミ>、八号機が豊富なウェポンモジュールによって様々な局面に対応できる<スサノオ>ですね」
「色々なコンセプトの機体があるんだね。他の機体も興味あるなぁ」
「アマツシリーズの各機には『地球』の神様の名前が付けられているんです。その力で戦いを終わらせられるようにという祈りが込められているんです」
「祈り……か……」
アマツシリーズの機体に思いをはせながら夜は更けていく。翌日、僕たちは夜明けと共に出発しマーケットが行われている町『アハジ』に向かった。
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