第12話 束の間の平和

『先日、回収品の確認に向かった当サルベージャー管理局に攻撃を行ったサルベージャーは未だに発見されておりません。状況を重く見た当局は各サルベージャーにも協力を呼びかけております。心当たりのある方は連絡をお願い致します。該当サルベージャー名はノーマン――』


 <ランドキャリア>の操縦席で受信していたサルベージャー管理局の通信を切って別のチャンネルにするとテンポのいい音楽が流れ始める。

 管理局のAアサルトFフレーム部隊と戦ってから三日が経過していた。その間、管理局のチャンネルではひっきりなしに僕と爺ちゃんがお尋ね者になった事を放送している。

 サルベージャー管理局は『ノア11』の領内に複数の支局があり、僕たちが面倒ごとに巻き込まれたのはその内の一つだ。

 だから別の支局のエリアに行ってしまえば、もしかしたら大丈夫なのではと思っていたがやっぱり駄目だった。


 既に僕たちは『ノア11』領内全域で指名手配されている。どうやらあの<レッドキャップ>に乗っていた人物は本気らしい。

 北へ向かうルートを慎重に選び管理局に見つからないようにしていたが、その間は水や食料の補充が出来なかったのでそろそろ限界が近い。


 そこで僕たちはサルベージャー達が独自に物品を売買する『マーケット』に行くことにした。この付近でマーケットが行われているのは『アハジ』という町だ。

 サルベージャーは基本的に管理局と折り合いが悪いの町でいきなり捕まったり突き出されたりはしないと思うのだが、何せ報奨金が掛けられているのでそれを目当てにする人間はいるかもしれない。


「明日の朝には『アハジ』に到着するじゃろう。そこで先日回収した<ゴブリン>のパーツを売ればそれなりの資金になるはずじゃ」


「そうだね。それで日用品や必要なAFのパーツを購入したらすぐに町を離れた方が良さそうだね」


 既に日が落ちたので<ランドキャリア>を廃墟付近に止めて今日は休むことにした。

 『アハジ』で購入すべき物品をリストにまとめて再確認していると美味しそうな香りが漂ってくる。


「お待たせしましたー! お夕飯が出来ましたよ」


「うわー、美味しそう。フィオナが料理を出来て本当に助かるよ」


「全くじゃ。わしもカナタも料理はからっきしじゃからな。仕事中に手に入れた大量の魚もわしらの手に掛かれば物体Xになってしまうからのう」


 フィオナは料理が出来る人だった。それもかなりの腕前だ。

 先日仕事の合間に食料の足しとして魚を手に入れていたのだが、よく考えたら僕も爺ちゃんも魚の調理の仕方を知らなかった。

 途方に暮れていた時にフィオナが「私、お料理できますよ。新鮮なお魚ですね。これでしたら三枚に下ろしてお刺身なんていかがでしょうか?」と言って華麗に魚を捌いてくれた。

 その魚の味は絶品だった。彼女はその他にも冷蔵庫の余り物や他の魚で様々な料理を作ってくれた。

 フィオナのお陰で我が家の食卓に革命が起きたのだ。こうして一緒に暮らしているうちに僕たちは打ち解けて気軽に話すようになっていた。

 

 ちなみに彼女が着ている競泳水着のようなスーツはコールドスリープ用のものらしい。

 輸送機が敵から攻撃を受けて海中に沈んでいく中、彼女の生存を優先した輸送機のクルーが<タケミカヅチ>でのコールドスリープ案を考えた。

 氷漬けになる際、裸になるかコールドスリープ用のあの水着みたいなスーツを着るかの二択を迫られ裸よりはマシだろうという事で身につけたらしい。

 本音を言えばこのスーツは股の部分が深くカットされていて中々に攻めたデザインになっており裸と大差ないような気がしないでもない。


 最初はこのスーツを恥ずかしがっていたフィオナも今では慣れてきたらしく、その上にエプロンを着て食事の準備をしてくれている。

 競泳水着の上にエプロンというフェチが詰まった姿を見て早くまともな服を買ってあげなければと思う今日この頃。『アハジ』に到着したら真っ先に彼女の服を買いに行こう。


「そう言えば私たちってお尋ね者なんですよね? そんな状況で町に行ったらサルベージャーの方々に通報されたり捕まったりしないのでしょうか?」


「うーん、その可能性は低いと思うよ。サルベージャーは基本的に管理局と仲が悪いからね。管理局に利益が生まれるような事はまずしないはずだよ」


「どうして中が悪いんですか? サルベージャーは管理局から仕事を依頼されてそれに応じた報酬を得ているんですよね? 密接な関わりがあるのに……」


 一般的な常識で考えたらそうなるだろう。でもそこには悲しい現実があるのだ。


「簡単な話だよ。仕事内容の割に報酬が少ない。それに一般的には両者は対等みたいに言われているけど、実際には管理局側に圧倒的なイニシアティブがあるんだ。だからサルベージャーは管理局に対する鬱憤が溜まっているわけ」


「あ~、なるほど~」


 やけに納得した表情をするフィオナ。彼女にも思い当たる節があるみたいだ。

 数日一緒に過ごして知ったのだがフィオナは百年前、『クレイドル』に所属する軍人だったらしい。

 そんな彼女が軍に戻らず『ヨモツヒラサカ』に行こうとするのは極秘任務中という理由なのだが、百年前の作戦が今も実施中というのはどうにも信じがたい。

 それでもフィオナが本気である事は伝わってくる。だから僕も何が何でも彼女を目的地に連れて行くと決心していた。


 夕食が終わると<タケミカヅチ>のメンテナンスをしに<ランドキャリア>の後部コンテナに向かった。

 コンテナ内にはハンガーに固定された<タケミカヅチ>と<ソルド>が横たわっている。

 <タケミカヅチ>は動力部であるDディバインリアクターが不調でジェネレーター出力が本来の半分しか出ない。

 それでもそこら辺の量産型AFを圧倒するパワーが出るので当面はこのままでも問題なさそうだ。


 今<タケミカヅチ>には前回の戦闘で手に入れたアサルトライフルやビームダガー、それに<レッドキャップ>のビームソードを装備させてある。

 腰部サイドアーマーにはビームダガーやソードの持ち手にあたる発生器を収納固定できるのでそこに取り付けてある。

 並のAF相手ならこの装備だけでも十分に渡り合えるはずだ。


 他にもAF共通の特徴として様々なオプション兵装を装着可能なハードポイントが機体各部に設けられている。

 しかし装甲を外した骨格部――通称、内部フレームは<ソルド>や今まで見た事のあるどの機体とも違っていた。

 内部フレームがナノニウムで構成されているという時点で普通じゃない。この機体の性能の高さはここがベースになっているんだろう。

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